「真実の口」1,376 ゲノム編集食品・・・③

前回の続き・・・。

前回、ジャガイモ史を掘り下げてみた。

我々の身近にある食材の歴史の裏側を知り、私自身、初めて知ったことばかりだった。

さて、野生のジャガイモを栽培化するにあたり、“偶然の突然変異”が必要だったということは理解できたと思う。

“育種”という言葉をご存じだろうか?

辞書には、「栽培植物や飼養動物を改良して、より利用価値の高い品種を作り出すこと。」とある。

通常、農業上の技術として用いられる言葉であるが、“品種改良”とほぼ同義で使われている。

農業の歴史は 1 万年以上前に遡ると言われているが、前述通り、近代以前の育種では、偶然見つかった好ましい特性を選ぶことで新しい種を育ててきた。

計画的な育種が積極的に行われるようになったのは、つい最近のことである。

切欠は、誰でもご存知のメンデルの法則の再発見からである。

メンデルの法則とは、遺伝学を誕生させるきっかけとなったグレゴール・ヨハン・メンデルによって 1865 年に報告された“分離の法則”、“独立の法則”、“優性の法則”の 3 つからなるものである。

実は、メンデルの存命中はこの発見はあまり注目されなかったのだ。

1900 年、カール・エーリヒ・コレンス、エーリヒ・フォン・チェルマク、ユーゴー・ド・フリースの 3 人の独立した研究により、同じ雑誌「ドイツ植物学会報告( Berichte der Deutschen Botanischen Gesellschaft )」に前後して発表され、メンデルの法則の再発見ということになったわけだ。

メンデルの法則によって、異なる性質を持つ植物を交配すると、様々な性質を持つ子孫が得られることや、その性質が規則性を持って子孫に伝わることが分かり、育種が格段に進んだことは間違いない・・・。

育種には、“選抜育種”、“交雑育種”、“接ぎ木育種”、“人為突然変異育種”、“倍数体育種”などがあるようだ。

【選抜育種】
ある特定の有用な形質をもつ品種を選びだし、その品種同士のかけあわせを繰り返して育種することをいう。

【交雑育種】
生物の属・種・品種間のかけ合わせを交雑といい、人工的に交雑を行い、新品種を作る育種法のことをいう。

【接ぎ木育種】
2 個以上の植物体を、人為的に作った切断面で接着して、 1 つの個体とする育種法のことをいう。

【人為突然変異育種】
放射線や化学物質、その他さまざまな刺激を人為的に与え突然変異を引き起こす育種法のことをいう。

【倍数体育種】
植物の染色体数が通常より 2 倍、または 3 倍以上の植物が自然界に存在していることは知られており、細胞の中で DNA が増えると、増えた DNA の量を反映して細胞が大きくなり、大きくなった細胞で構成されている植物は当然のように大きくなり、この現象を利用して、薬剤処理によって染色体のセット数を人為的に増やし発生させる育種法のことをいう。

遺伝子の発見、更に、DNA の発見により、育種あるいは品種改良は、驚異的な進展が見られたことは明らかだ。

更に、近年の育種法では、どのような改良を加え、どのような結果を得るかというような予め目標を立てての育種計画が練られるようになったようだ・・・。

1970 年代までは、高収量及び機械化への良好な適応性が主な育種目標だったものが・・・。

1980 ~ 1990 年代にかけては、害虫及び病害抵抗性が増し、加工処理性能の改良が重要性を増していったようだ。

最近では、栄養上の品質向上、省肥料型品種、及び非食料分野への利用が、今日の挑戦目標とされているようだ

育種目標を大別ですると・・・。

~Wikipedia参照~

★環境適応性の改良

栽培地の環境により適応した性質を持つようにすること。寒暖が厳しい地域への適応、土壌塩分の多い地域への適応、周年供給に必要な作期(=栽培の時期)の開発などに対して、早晩性(収穫が早いか遅いかという性質)やストレス耐性(耐寒性・耐塩性など)を改良する。例としては、本来、熱帯性植物のイネが亜寒帯の北海道でも栽培されているのは、早晩性や耐寒性などの環境適応性の改良がなされたためである。

★耐病性・耐虫性の改良

病気や虫の被害がない性質、あるいは被害がより少ない性質を持つようにすること。環境適応性の改良の一種とも分類できる。

★経済的特性の改良

収穫量(=収量)を増加させる、あるいは収穫物の味・香り・食感や成分などの品質を高めるなど。成分の改良は「成分育種」とも呼ぶ。日本のイネの代表的品種の一つであるコシヒカリは、味の改良とは別の目標で育種を開始したが、結果的には「おいしいお米」として消費者に受け入れられ、広く普及した。

★栽培・収穫作業管理上の特性の改良

栽培、収穫、種苗管理などで好ましい性質を持つようにすること。一般に野生植物は、繁殖の機会を増やすため、種子が時間・空間的に広く伝播できるような性質を持つ。作物としては、その逆の性質を持つことが好ましいため、それらの性質について改良がなされてきた。イネでは禾・芒(ノギ・ノゲ)という籾先端の針状の部分があり、それは動物に付着して(籾の中の)種子の伝播を広げる役割を持つと考えられている。しかしながら、イネにおいては作業上の邪魔になるので、近代品種は芒がないように改良されている。発芽や熟期の斉一性も、この目標となりえる。

そして、これらの新育種法の一翼を担うべく登場したのが、“遺伝子組み換え技術”、そして“ゲノム編集技術”である。

その違いは・・・?

農林水産省が解説しているものを引用させていただく。

「遺伝子組換え農作物」について

★遺伝子組換え技術

品種改良の一つの方法として用いられている遺伝子組換え技術とは、次のような技術である。

a. ある生き物から特定のタンパク質に対応する遺伝子をとりだし、
b. 改良しようとする生き物の細胞の中に遺伝子を導入し、
c. 細胞がタンパク質を合成するようになる。
(結果として、細胞はタンパク質がもたらす新たな形質を有するようになる。)

あらゆる生き物において、遺伝子(DNA)・タンパク質は共通性の高い化学構造をしているので、理論的には、あらゆる生き物の間で遺伝子を組み換えるとが可能となる。

➡遺伝子組換え農作物などに対する期待と懸念

① 期待
遺伝子組換え技術は、医療、工業など様々な分野でその利用が期待されていますが、農業に関連する分野としては次のようなものがある。

・現在でも世界で 10 億人以上の人々が栄養不足や飢餓状態にあり、今後ますます深刻化すると予測されることから、食料問題の解決に向けた、乾燥や塩害など不良環境でも栽培できる作物などの開発。
・農薬使用量の減少につながる、害虫に対する抵抗性を持った作物などの開発。
・除草作業の効率化につながる、特定の除草剤に抵抗性を持った作物などの開発。
・環境の保全や修復に役立つ、汚染物質を吸収する植物などの開発。
・石油価格の上昇などに対応した、低コストなバイオ燃料・バイオマテリアルの生産に使われる植物などの開発。

② 懸念
一方、遺伝子組換え技術によって作出された農作物が利用されることについては、次のような懸念や意見が表明されている。

(生物多様性への影響)
・遺伝子組換え農作物が有害物質を産生し、他の生物に影響を与えることはないか?
・遺伝子組換えにより、元の農作物よりも繁殖力が強まり、雑草化しやすくならないか?
・遺伝子組換え作物で自生したものが、同種の植物と交雑し、生物多様性に影響することはないのか?
・害虫抵抗性の遺伝子組換え農作物を栽培し続けると、抵抗力の強い害虫が発生しないか?

(食品として摂取した場合の人体への影響)
・遺伝子組換え食品がアレルギーを引き起こさないのか?
・遺伝子組換え食品を食べ続けても大丈夫か、子や孫の代で影響はないのか?
・害虫が死んでしまうような遺伝子組換え農作物はヒトに対して影響はないのか?
・遺伝子組換え農作物を含んだ飼料を与えられた動物の肉や乳、卵を食べても健康に影響はないのか?

➡我が国における取り組みの状況

① 寒冷、乾燥、塩害など不良な生育環境に強い作物
将来の国際的な貢献も見据え、寒冷地や乾燥地、塩分が蓄積した土地など、これまで農作物が栽培できなかった土地でも育つ農作物などの開発が進められている。

② 土壌中の有害物質を吸収する環境修復植物
カドミウムや残留性有機汚染物質を吸収し、蓄積能力が極めて高い植物の開発が行われ、これにより、農地土壌のカドミウムなどの汚染対策への利用が考えられている。

③ 病気に強く収量の多い作物
家畜の飼料用やバイオエネルギー用に使うことを目的に、複数の病気に抵抗性があり、収量も多い作物の開発が進められています。これにより画期的な減農薬・省力化技術も可能となり、飼料自給率の向上やエネルギー需要増への対応が考えられます。

④ 健康の増進や病気の予防のための作物
中性脂肪や血圧を調整する作用のあるタンパク質を多く含む作物や、作物にもともと含まれているアレルギーの原因になる成分を少なくして、アレルギーのある人でも安心して食べることができる農作物の開発が行われている。

■懸念に対応した研究
農林水産省では、遺伝子組換え農作物に対する懸念があることに対応し、実態の確認や懸念を軽減するための研究開発を行っている。

※花粉が飛散しない品種の育成
開花せずに受粉する(閉花受粉性)植物を発見し、原因遺伝子を同定した。この特性を利用することで、花粉の飛散しない遺伝子組換え農作物が作出できる。これにより、花粉の飛散による遺伝子組換え農作物と一般農作物との交雑を低減または防止することが可能となりるそうだ。

次回へ・・・。