「真実の口」1,377 ゲノム編集食品・・・④

前回の続き・・・。

前回、「遺伝子組み換え技術とは何ぞや?」ということを農林水産省から出されている資料を引用し解説した。

今回は、「ゲノム編集技術とは何ぞや?」というテーマで、同様に農林水産省から出されている資料を基に進めたいと思う。

ゲノム編集 ~新しい育種技術~

★ゲノム編集技術の原理と特徴

ゲノム編集技術の基本は、生物が持つゲノムの中の特定の場所を切断するということ。生物の細胞の中では、紫外線等によってDNAが切断されることがある。

生物は、それを元通りに直す仕組みを持っているが、まれに 元とは違う並び方になることがあり、これを突然変異という。

ゲノム編集技術は、この現象を利用し、目的の場所に突然変異を起こすことができるということである。

図参照ゲノム編集技術 1

ゲノムの狙った場所に突然変異を起こすことができるのが、自然に起きる突然変異やこれまでの人為的な突然変異とは異なる点である。

➡ゲノム編集技術を品種改良に用いる利点

一つは、特定の遺伝子に 突然変異を起こさせて、目的の性質を持つ品種を効率的に作ることができる点である。

既に利用されている品種を直接改良できるので、目的の突然変異が起きるまで待ったり、何度も交配や選抜を繰り返したりすることに比べて、大幅に時間を短縮できる。

つまり、今後、気候変動や新しい病害虫への対応が求められた場合に、短期間で新品種を開発することが期待されるということになる。

➡ゲノム編集技術の方法

ゲノム編集を行うためには、ゲノム中の特定の場所を切る道具が必要となる。

そのために開発されたのが DNA を切断するはさみの役割を果たすタンパク質である。

以前紹介した CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)の他にも、 ZFN (ジンクフィンガーヌクレアーゼ)や TALEN (タレン) 等の技術がある。

いずれも、遺伝子の DNA 配列( A 、 T 、 G 、 C )を目印にして結合し、そこで切断するということは共通している。

例えば、 20 個分の DNA を目印にする場合、この配列になる確率は 1 兆分の 1 (※注 1 ) となる。

(※注 1 ) DNA 配列( A 、 T 、 G 、 C )のうち 1 つが 4 分の 1 の確率で 20 個並ぶため、 4 分の 1の 20 乗となるから。

このように、極めて低く、長い DNA 配列の中でもピンポイントで狙った配列を切断することが可能となるらしい・・・。

➡ゲノム編集技術の問題点

ゲノム編集では、目的の遺伝子以外も切断する可能性が指摘されている。

この現象は“オフターゲット変異”と呼ばれている。

このため、本来目的とする DNA 配列と似た塩基配列を調べ、その配列 に変異がないかを確認する等、“オフターゲット変異”が残らないようにすることが重要となるらしい・・・。

従来の品種改良においても、目的の遺伝子以外が変異することは起こっており、その場合、望ましくない変異に対しては、交配などを利用して取り除き、目的のものを選抜しているそうだ。

ゲノム編集技術は、ゲノム中の特定の場所を狙うものであり、目的の遺伝子以外を切断する可能性は低いのだが、万が一目的の遺伝子以外を切断したとしても、従来の品種改良と同様に、こうした目的としない変異がないものだけを選抜して利用していくということらしい・・・。

➡動物と植物のゲノム編集

動物でのゲノム編集では、はさみの役割を果たすタンパク質(部位特異的ヌクレアーゼ)やそれを作る mRNA(※注 2 ) を受精卵に針で刺して直接注入するなどして、目的の遺伝子を切断することができる。

(※注 2 ) ゲノム中の遺伝子の情報(設計図)を写し取った物質。この情報を用いてタンパク質が合成される。

はさみの役割を果たすタンパク質やmRNAは細胞内で分解されるため次世代には残らない。

植物でのゲノム編集では、細胞壁という硬い組織をもっているため、はさみの役割を果たすタンパク質や mRNA を直接細胞に入れるのは現在のところ困難らしい・・・。

このため、遺伝子組換え技術を使ってはさみの役割を果たすタンパク質の遺伝子を一旦ゲノム上に導入するのが一般的となるようだ。

この遺伝子が植物のゲノムに組み込まれた後、ここからはさみの役割を果たすタンパク質が作られ、目的の遺伝子を切断する、という流れになるらしい・・・。

図参照ゲノム編集技術 2

ただ、このはさみの役割を果たすタンパク質が、ゲノム中の目的の場所を切断して突然変異が生じた後は、導入したはさみの役割を果たすタンパク質の遺伝子は不要になるため、交配などを利用し、このはさみの役割を果たすタンパク質の遺伝子を持たないものを選抜する。

図参照ゲノム編集技術 3

➡ゲノム編集と遺伝子組換え

遺伝子組換えでは、目的の性質を持つ遺伝子を他の生物から導入し、その遺伝子の働きを利用する。

ゲノム編集では、元々持っている遺伝子に突然変異を起こす。

植物のゲノム編集では、はさみの役割を果たすタンパク質等の遺伝子を導入するため、一時的には遺伝子組換え体になるが、導入した他の生物由来の遺伝子(外来遺伝子)を残す必要はなくなる(上記図参照)。

➡ゲノム編集と遺伝子組換えの相違点

ゲノム編集と遺伝子組換え

➡ゲノム編集技術を用いた品種改良の研究

【食中毒のリスクを低減したジャガイモ】

ジャガイモの芽や緑色になった部分には、ソラニンという毒素が作られていて、食中毒の原因になる。

ジャガイモがソラニンを合成する時に必要な酵素がわかっている。

ゲノム編集技術で、この遺伝子に突然変異を起こさせて、ソラニンが作られないようにすることで、食中毒のリスクを低減できる。

【GABAを多く含むトマト】

GABA はアミノ酸の一種であり、リラックス効果や血圧上昇抑制効果の働きがあることが知られている。

ゲノム編集技術で、 GABA の生合成に関わる遺伝子に変異を起こさせることで、GABAをさらに高蓄積させるトマトを作出でき、健康機能性を高めることができる。
【受粉しなくても実がなるトマト】

一般的なトマトでは、実がなるためには花粉がめしべにつく(受粉する)必要があり、ハウス栽培ではハチを使って受粉させているが、夏や冬にハチの活動が低下すると人間による受粉作業が必要になることもあり、手間がかかって大変である。

ゲノム編集技術で、花粉がなくても実がなる(単為結果する)ことに関係する遺伝子に変異を起こさせることで、単為結果性を持たせることができるようになる。

【収量増加を目的としたイネ】

農地の有効利用や生産コストの低減のためには、収量の増加が欠かせない。

お米の収量を高める品種改良には様々な方向性があるが、 1 株当たりの穂の数を増やしたり、米粒を大きくしたりすることが有効である。

ゲノム編集技術で、穂の枝分かれの数や米粒の大きさに関わる遺伝子に変異を起こさせた、生育や収量にどのような効果があるかを確認する研究が進行中。

如何だろうか?

ゲノム編集技術に関して、どのように感じただろうか?

次回へ・・・。