「真実の口」1,378 ゲノム編集食品・・・⑤

前回の続き・・・。

前回までに、ゲノム編集技術について解説を行ってみた。

時間を 3 月 19 日に遡る。

『ゲノム編集食品 夏にも 多くは審査不要』

「厚生労働省の専門部会は 18 日、生物の遺伝子を効率的に改変する『ゲノム編集技術』で品種改良した農水産物の多くに厳格な安全性の審査を求めず、国へ届け出れば販売できるとした報告書をまとめた。

今後は厚労省がルールを決めて通知を出し、消費者庁も表示の考え方を示す予定で、夏には食品として販売可能になる見通し。」

・・・という毎日新聞の記事を紹介した。

この後の記事は・・・。

「血圧を下げる成分を増やしたトマトや体の大きなマダイなど、現在国内で開発が進む品種が対象になる可能性がある。

部会では届け出の義務化を求める意見も出たが、元々ある遺伝子の改変操作は従来の品種改良や自然界で起きる変化と区別がつかず、違反の発見が困難だなどとして見送った。制度の実効性には疑問符も付く。

報告書は、ゲノム編集で新しい遺伝子を追加する場合は、同様の操作をする従来の遺伝子組み換え食品と同じく安全性審査を求める。

一方、開発中のゲノム編集食品の多くで採用されているように、元々ある遺伝子を改変しただけの場合は審査不要とした。

ただし、アレルギーの誘発など健康影響がないことをどう確認したか、改変で成分がどう変わったかなどの情報は販売前に国へ届けるよう求め、概要を公表する。

ゲノム編集食品の規制は国によって異なり、米国は商品ごとに安全性を判断する。

欧州連合( EU )の欧州委員会は対応を検討中だが、司法裁判所はゲノム編集された食品も遺伝子組み換え作物として規制すべきだとの判断を示している。」

・・・とある。

流石に、『国へ届け出るだけで販売できる』ということに関して、疑問・不安の声が各所からあがった。

いくつか紹介しよう。

■小宮山洋子元厚生労働大臣・元 NHK アナウンサー

『今夏にもゲノム編集食品は、心配』

(前略)

ゲノム編集の長期的な影響は、まだよくわかっていず、どれくらい調べたら問題ないといえるのかもはっきりしていません。十分な検証が必要だと思います。

また、消費者庁は、消費者が情報を得て選択できるように、ゲノム編集食品であることを、わかりやすく表示するよう、早急に取り組んでもらいたいと思います。」

■読売新聞社説

『ゲノム編集食品 普及には消費者の理解が要る』

(前略)

鍵を握るのは、消費者に受け入れられるかどうかである。

現状でも、遺伝子組み換え食品に抵抗感を持つ消費者は少なくない。消費者が、ゲノム編集食品と認識した上で購入できるよう、適切な食品表示が欠かせない。

消費者庁が表示方法の検討を始めたばかりだ。一定の結論が出るまで、事業者は自ら流通を控えることも考えるべきではないか。

政府は、科学技術で産業を革新する「統合イノベーション戦略」の中で、幅広い分野でのゲノム編集技術の活用を目指している。社会の理解なしに、容易には普及しないと心得てもらいたい。」

■朝日新聞社説

『ゲノム編集食品 丁寧な対話が不可欠だ』

ゲノム編集技術で作られる食品の取り扱いを検討してきた厚生労働省の部会が、報告書案をまとめた。いまパブリックコメントを募集中だが、議論の進め方が「スケジュールありき」で不安と疑問がぬぐえない。

(中略)

今回の議論は、昨年 6 月に閣議決定された政府の統合イノベーション戦略が、ゲノム編集食品について「今年度中に取り扱いを明確化する」と打ち出したのを受けて始まった。

その直後にEU司法裁判所が「ゲノム編集作物も遺伝子組み換え食品に当たる」と、今回の報告書案と正反対の判断を示すなど、問題は複雑で、各国の対応も一様でない。ところが厚労省は、 4 カ月余の検討で結論を導きだした。消費者団体などの疑義は聞き置かれた。

ゲノム編集食品についても、一片の「通知」で済ませるのではなく、輸入食品を含め、当局が検証に堪えるデータを確実に得られる仕組みを作る必要があるのではないか。そのうえで、集めた情報を消費者にわかりやすく届け、食べるか食べないかを自分の判断で決められるようにする。そんな環境を整えることが政府の務めだ。

ゲノム編集とはいかなる技術で、いまどこまで到達し、どんな課題が残るのか。国、開発業者、研究機関は、消費者とのコミュニケーションを深める努力を怠ってはならない。」

■毎日新聞社説

『ゲノム編集食品のルール 疑問が多い拙速な結論だ』

(前略)

しかし、丁寧な議論が尽くされた上での結論とはいえず、消費者には情報が届いていない。新しい技術だけに、編集された生物に予想外の影響が出ないか、懸念も残されている。国は消費者の立場から、もっと慎重な対応をしてほしい。

(中略)

食品としての安全性が万全かどうか未知の部分があり、懸念が生じた場合にすぐ対応できるよう、少なくともすべてのゲノム編集農水産物の登録を義務づけるべきだ。消費者が選択できるよう、表示の義務づけも欠かせない。ゲノム編集農水産物への対応は国によって異なり、国際的な動向にも注意を払うべきだ。

ゲノム編集生物については昨年 6 月に政府の「統合イノベーション戦略」が年度内の法的扱いの決定を求めた。このため「結論ありき」になってしまったのではないか。もっと腰を落ち着けて検討すべき課題だ。」

■中国新聞社説

『ゲノム編集食品 安全性どう担保するか』

(前略)

早くルールを決めてほしい」との要望が開発サイドから寄せられている。できるだけ規制を外して、欧米に先行し、民間の開発を促したい思惑だろう。

しかし、ことは安全に関わる。規制が緩ければ、国内だけでなく海外からもゲノム編集食品が流入することも想定される。消費者が安全と確信できなければ結局、普及しないことは、先行した米国産の遺伝子組み換え大豆などの例が示している。

厚労省は詳細なルールはこれから詰め、気になる表示について消費者庁が考え方を示すという。安全をどう確保し、情報をどう提供するか。拙速を避け、徹底して消費者の立場に立って詰め直すべきだ。」

■信濃毎日新聞社説

『ゲノム編集食品 不安置き去りの性急さ』

(前略)

しかし、消費者の間には、生命の設計図である遺伝子を直接いじった食品が出回ることに、根強い不安がある。未知の部分が多い技術であり、予期せぬ影響が出てくる可能性は否定できない。

このままでは不安を置き去りにして既成事実化が進む恐れがある。政府は議論を終わりにせず、消費者の目線でルールの在り方について検討を重ねるべきだ。

(中略)

消費者庁は食品表示の考え方を示す。消費者が理解し、はっきりと区別して選ぶことができる環境づくりは最低限必要だ。」

■中日新聞社説

『ゲノム編集食品 審査スルーで大丈夫?』

(前略)

ことは食べ物、命の源だ。最先端の技術であっても、いや最先端であればこそ、慎重に扱うべきではないか。

知らないうちに出回って、気付かぬままに口にしないか…。

不安を覚える消費者が強く求めているのは、正確な表示である。

そのためには最低限、届け出の義務化と、詳細な安全情報の開示が不可欠だ。」

■新潟日報社説

『ゲノム編集食品 見切り発車避けるべきだ』

事は国民の健康に関わる。食の安全性に対する消費者の不安を直視し、丁寧にルール作りを進めなければならない。スケジュールありきの見切り発車は、避けるべきだ。

(中略)

厚労省はゲノム編集食品の販売に対し、前のめりな姿勢ばかりが目立つ。一方で、消費者の不安に積極的に応えようとする態度は見えない。

必要なのは、消費者に対する正確で分かりやすい情報提供であり、納得して商品を選べる環境づくりだ。

それが不十分では消費者、生産者双方にとってプラスになるとは思えない。

大切なのは消費者の疑問や不安に対し、丁寧に向き合うことだろう。それらを払拭できないまま販売が始まるのなら、混乱と不信が増すだけだ。」

特定非営利活動法人日本消費者連盟は以下のような抗議文を厚生労働大臣あてに提出している

【抗議文】ゲノム編集食品の取扱いに関する厚労省の方針について( 2019 年 3 月20 日)

さてさて、これらの声は届くのだろうか?

次回へ・・・。