「真実の口」1,526 新型コロナウィルス・・・64

前回の続き・・・。

感染者数・死亡者数が減少傾向にあるため、感染動向を月曜日、その他の情報を水・金曜日にお伝えするスタイルが定着しつつある。

今回から、少し怖い話を続けさせていただく。

2006 年に、京都産業大学内に設立された鳥インフルエンザ研究センターの所長を 2018 年 3 月まで務め、現在、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業研究課題評価分科会評価委員を務める大槻公一氏の話である。

大槻氏は、 2006 年 3 月まで、 35 年間にわたって、鳥取大学で鳥の感染病や鳥インフルエンザの研究を行い、2006 年の京都産業大学内に設立された鳥インフルエンザ研究センターに就任し 2018 年 3 月の退職まで、京都産業大学の教授を務められ、実に、 50 年以上も鳥インフルエンザを研究し続けている鳥インフルエンザの第一人者である。

人類は、洋の東西を問わず長い間インフルエンザに悩まされ続けてきた。

20 世紀に入ってからも、 1918 年に出現して 2,000 万人以上が犠牲となったといわれているスペイン風邪をはじめ、 1957 年に出現したアジア風邪、 1968 年に出現した香港風邪型インフルエンザに全世界の人々が罹患して大きな被害を被ってきた。

予防、治療あるいは環境衛生方面にさまざまなインフルエンザ対策がなされているにも拘らず、未だに撲滅できない感染症がインフルエンザである。

20 世紀後半には、新型インフルエンザウィルスの出現に鳥インフルエンザウィルスが深く関与していることが分かってきた。

少し難しくなりそうだが、大槻氏のインフルエンザについて解説したものを、若干、噛み砕いてお伝えしたい。

インフルエンザウィルスは、 8 個の遺伝子から成る RNA ウィルスらしい・・・。

図解で見ると分かりやすい。

インフルエンザウィルス

ウィルス内部の RNA をタンパク質が取り巻いている構造になっている。

そのタンパク質の抗原性から、インフルエンザウィルスは A 、 B 、 C 、 D の 4 血清型に分類されているそうだ。

人に感染するインフルエンザウィルスの多くはA型・・・。

動物に感染するウィルスは A 型のウィルスだが、ごくまれに牛に感染する D 型ウィルスが存在するらしいが、その病原学的意義はほとんど不明のまま・・・。

インフルエンザウィルス粒子の表面には、上の図のように、 2 種類のスパイクと呼ばれるものがある。

鶏の赤血球を凝集するスパイク( A 型ウィルスでは HA または H と呼ばれる)

ノイラミン酸を分解する酵素活性を持つスパイク( A 型ウィルスでは NA または N と呼ばれる)

ウィルスが感染する際に重要な役割を果たすのは HA ということである。

HA のタイプにより、感染できる動物の種類、病原性の強さが規定されるそうだ。

NA は、ウィルスが感染して多数の子孫ウィルスを製造してくれた細胞から、さらに別の細胞に子孫ウィルスが感染するために、その細胞から遊離する時に機能する酵素活性を持っているそうだ。

現在、 HA スパイクはその抗原性から 1 から 16 までの 16 種類、 NA スパイクはその抗原性から 1 から 9 までの 9 種類が知られている。

この HA と NA のさまざまな組み合わせにより、数多い亜型の A 型インフルエンザウィルスが存在することになるらしい。

人、豚、馬等のほ乳類に感染するインフルエンザウィルスの亜型は、 H1N1 、 H3N2 、 H7N7 などに限定されているそうだ。

しかし、鳥類は HA と NA の、多数の組み合わせを持ったバラエティーに富んだ亜型の A 型インフルエンザウィルスを体内(呼吸器または消化管)に保有しているというのだから非常に厄介だ。

更に、ほとんどの鳥インフルエンザウィルスは鳥類に対しては明確な感染がないというのだから困ったもんだ・・・。

鳥を見ているだけでは、病気を持っているかどうかが分からないと言うことになる。

今回の Covid-19 のように、インフルエンザウィルスは変異を起こし、新型が出現する。

インフルエンザの特徴の一つとして、ある周期で、世界中の人々に感染を続けてきたインフルエンザウィルスに大きな変異が現れるようだ。

つまり、 HA と NA の両方の抗原性に大きな変異が生じ過去に存在が認められなかった、全く新しい性状(抗原性)を獲得した“新型インフルエンザウィルス”が、定期的に出現するということだ。

そして、この“新型インフルエンザウィルス”が出現すると、それまで人類が感染し続けていたインフルエンザウィルスが短期間で一掃されてしまい、消滅してしまうというのだ。

今までになかった“新型インフルエンザウィルス”が出現すると、当然のことだが、世界中の大部分の人々はこのウィルスに感染した経験がないので、この“新型インフルエンザウィルス”に対する抗体を持っておらず、感染しやすい状況が作られる。

そのため、爆発的な“新型インフルエンザウィルス”感染の拡大が起こり、感染を受けた人の多くは重篤な症状を呈し、莫大な数の死者が出てしまうというのだ。

前述したが、 20 世紀には、スペイン風邪、アジア風邪、香港風邪という 3 つの“新型インフルエンザウィルス”が出現した。

図にするとこうなるらしい・・・。

20世紀に出現したインフルエンザウィルス

確かに、バトンタッチするかのように、インフルエンザが入れ替わっている。

最後の“新型インフルエンザウィルス”の香港風邪型のウィルスが出現して以来すでに半世紀を超えている。

ただ、2009 年には、メキシコで、“新型インフルエンザウィルス”と一時期呼ばれたウliルスが出現して、世界中に拡散したことがあるが、このウィルスの亜型は H1N1 であり、スペイン風邪ウィルスと同じものだったらしく、本当の意味の“新型インフルエンザウィルス”ではなかったらしい。

重症化した患者は、予想していたほど多く出ず、呼び名も“新型インフルエンザウィルス”から通常の“季節性インフルエンザ”に変わったようだ。

大槻氏は、 2019/11/07 の記事で以下のように述べている。

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21 世紀に入る前から、新型インフルエンザの原因となる“新型インフルエンザウィルス”の出現は、時間の問題と考えられてきました。

最も新しい香港風邪型インフルエンザウィルス( H3N2 )が出現してからすでに、おおむね 40 年を経過していたからです。

分子遺伝学的な研究から、 20 世紀に出現した“新型インフルエンザウィルス”は、それまで世界中の人に感染し続けてきたインフルエンザウィルスと、別の HA 、 NA 亜型の“鳥インフルエンザウィルス”の遺伝子が入り混じった、人に対して強い感染力と病原性を持つ、新たな性状を獲得した、遺伝子再集合体であったことが分かっています。

すなわち、“新型インフルエンザウィルス”の出現に、“鳥インフルエンザウィルス”が深く関与していることが分かってきたのです。

近年、“鳥インフルエンザウィルス”の存在が注目されています。

実際に、次の新型ウィルスの元ウィルスになる可能性が高いとみなされている、不気味な“鳥インフルエンザウィルス”が 20 世紀末ごろから出現しています。

例えば、鳥類に激烈な病原性を示し、時には人に対して致命的な感染を引き起こす、 H5N1 あるいは H7N9 亜型の“鳥インフルエンザウィルス”の出現が注目されています。

これらのウィルスが次々に登場していることは、人類にとって大きな脅威になっています。

もし、これらの広く分布している“鳥インフルエンザウィルス”が、香港風邪型インフルエンザウィルスなどとの遺伝子再集合体を形成し、その結果、人に対して激烈な病原性と爆発的な伝播力を示す、次の“新型インフルエンザウィルス”が生まれる可能性は否定できません。

幸い、目下のところ、そのような兆候はアジアのどこからも出ていませんが。

さまざまな亜型の“鳥インフルエンザウィルス”は、渡り鳥を介して秋から冬にかけて、シベリアあるいは中国東北部から日本国内にも侵入してきています。

あまり知られていないことですが、中国、東南アジア、南アジアなどでは、日本と異なり、野鳥のみならず飼育されている鶏、アヒル、ガチョウなど各種鳥類にも密度高く分布しています。

20 世紀に出現した“新型インフルエンザウィルス”も、全て中国あるいは東南アジアで最初に出現しています。

そして、その地域から瞬く間に“新型インフルエンザウィルス”は世界中に拡散してパンデミック(世界的な大流行)を発生させたと考えられています。

従って、アジアに広く分布する“鳥インフルエンザウィルス”を注目する必要があり、次に出現する“新型インフルエンザウィルス”も、従来同様、中国あるいは東南アジアで最初に登場する可能性が高いと予想されます。

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中国・武漢で Covid-19 が発生する前月である・・・。

大槻氏の予想は的中し、全世界に感染拡大し、未だに、収束していないのである・・・。

次回へ・・・。