「真実の口」1,457 化学物質過敏症・・・⑦

前回の続き・・・。

当然のことだが、科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)でも、シックハウス症候群と化学物質過敏症は別物であると分けられている。

シックハウス症候群は、その家から離れると、症状が出ないという大前提があるのだが、どうにも腑に落ちない・・・。

私が相談を受けたシックハウス症候群の方たちは、自宅を離れても、ホームセンターや 100 円均一ショップなどは特に立ち寄れないと言う方ばかりである。

まあ、マニュアルの先を見てみよう。

原文ママ

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シックハウス症候群の主な原因としては、建材や内装材、あるいは生活用品等から放散されるホルムアルデヒドやトルエンをはじめとした揮発性の有機化合物があります。

原因になりうる主な化学物質の多くについては室内濃度指針値が定められています。

それらに加えて、カビやダニ、ダンプネス(結露の発生などの室内の部分的な湿度環境が悪化した状態)があげられます。

一方、「いわゆる化学物質過敏症」(以下、化学物質過敏症)についてはシックハウス症候群と混同されることもありますので、ここではシックハウス症候群と化学物質過敏症の違いを中心に述べます。

化学物質過敏症は、自律神経系の不定愁訴や精神神経症状をはじめとする多彩な症状を訴えます。

例えば、頭痛、筋肉痛(筋肉の不快感)、倦怠感、疲労感、関節痛、咽頭痛、微熱、下痢、腹痛、便秘、羞明・一過性暗点、鬱状態、不眠、皮膚炎(かゆみ)、感覚異常、月経過多、などの症状があげられています。

特徴は特定の化学物質ばく露がなくなっても症状が継続したり、全く異なる化学物質に対しても多彩な症状がでることです。

シックハウス症候群でも頭痛や疲労感など の精神神経症状がみられる場合もありますが、鼻や喉・呼吸器、あるいは眼などの粘膜への刺激症状や皮膚の症状が多く、それらが主体になります。

シックビルディング症候群・シックハウス症候群は室内環境に由来する健康障害であり、化学的 要因、生物学的要因、物理学的要因、心理社会的要因等があります。

原因を除去できれば、回復や予防が可能です。

従って患者さんの治療や予防を考える上で化学物質過敏症とシックハウス症候群 は別の疾病概念と考えられます。

シックハウス症候群と化学物質過敏症の違いを知っておくことは市民からの相談に的確なアドバイスをするために必要ですので二つを比較します。

「いわゆる化学物質過敏症」(多種化学物質過敏状態:Multiple Chemical Sensitivity: MCS)の概念は 1987 年に米国の Mark Cullen によって提唱されました。

化学物質過敏症は、多種類の臓器系に対して再発性の症状をきたす後天性疾患であり、その症状は、一般住民で有害な影響が生じる濃度よりもはるかに低い濃度において、多くの科学的に無 関係な物質へのばく露によって生じる。また、一般に広く知られている生理作用は症状に関連して見られない」としています。

その後、 Ashford と Miller は「化学物質過敏症を呈する患者は、原因と疑われる物質から遠ざけ、厳密に管理された環境状態で適度な間隔をあけた後に再検査(負荷 試験)をすることで確認可能である。特定の負荷試験に伴う症状の再発や、原因となっている環境から遠ざけて症状を一掃することで、因果関係が推定される」と報告しています。

1999 年に 24 名の米国の専門医や研究者が化学物質過敏症の概念に関する合意文書として発表した“コンセンサス 1999 ”では、「①慢性疾患である、②再現性をもって現れる症状を有する、③微量な物質のばく露に反応する、④関連性のない多種類の化学物質に反応する、⑤原因物質の除去で改善または治癒する、⑥症状が多臓器にわたる」と記されています。

しかし、上述したような化学物質過敏症に関する概念について多くの解説がなされており、化学物質過敏症がシックハウス症候群の一部である、 あるいはシックハウス症候群が先にあり、そのあと化学物質過敏症に移行するように書かれている解説はありますが、この根拠となる、患者に生じている症状の原因について、環境中の化学物質ばく露の種類や濃度とのと因果関係を明らかにした論文はありません。

原因となったとされる環境ばく露が全くなくなってからも症状が続くことなど、従来の中毒症やシックハウス症候群とは病像が異なります。

化学物質過敏症の疾病概念自体が未確定ですので、現時点では客観的な臨床検査 法や診断基準も確立されていないところです。

このような状況により、「いわゆる化学物質過敏症」に関して、アレルギーぜん息&免疫学会、米国内科学会、米国カリフォルニア医学協会は既存の論文をレビューし、化学物質過敏症を中毒性の身体疾患とする考え、また極微量でも一定の量が体に進入し続けると身体反応を示すようになるいわゆる「総身体負荷量説」や免疫不全によって生じるという説についても、それらを支持する科学的論文はみつからなかった、とする意見表明を学術誌に掲載しています。

米国職業環境医学会、米国医学会、全米研究評議会、米国健康科学会、カナダオンタリオ州厚生省、 英国王立医師協会、なども化学物質過敏症の定義、診断法や治療法には科学性な根拠がないとする意見表明や報告を学術誌に発表しています。

なお、ドイツ連邦保健省やドイツ環境省などと共同で国際化学物質安全性計画( International Programme on Chemical Safety: IPCS/UNEP-ILO-WHO )が組織したワークショップの報告書では、化学物質過敏症は化学物質ばく露と症状との間に因果関係を示す根拠がないことから「本態性環境不耐症( Idiopathic Environmental Intolerance: IEI )」と 呼んでいます。

日本では、化学物質過敏症の診断基準として、石川らが提示した診断基準が用いられることがありますが、検査項目として挙げられている症状や検査所見は眼科検査が主体であるうえ、特定の化学物質へのばく露によると特異的に認められるものではないことに注意をする必要があります。

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ここまで読んでどのように感じただろうか?

マニュアルでは、いわゆる「化学物質過敏症」と言う表現だったが、私は、「いわゆる化学物質過敏症」という括りにしてみた。

この“いわゆる”と言う言葉は、どのようなときに使うだろうか?

三省堂 大辞林 第三版では、「世にいわれている。よくいう。いうところの。」という意味だとされている 。

私の穿った見方なのかもしれないのだが・・・?

「まあ、世間で化学物質過敏症とか言われている病気(笑)~」

・・・とでも言っているように見えてしまうのだ。

実際、化学物質過敏症の人は、訴えても、訴えても、周囲の人には理解してもらえない。

その為、奇異な目で見られてしまうことが日常茶飯事なのだ。

更に、このマニュアルは追い打ちをかける。

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「いわゆる化学物質過敏症」が、ごく微量の環境中の化学物質に反応して生じることを証明するためには、化学物質にばく露した時とばく露していない時にどのくらいの頻度で見られるかを疫学的に検討する必要があり内外で研究が実施されています。

化学物質過敏症の症状と低濃度の化学物質ばく露との因果関係を検証する目的で実施される研究で、その因果関係証明に一番説得力がある研究とされているのは「二重盲検(ダブルブラインド)法」で割りつけた疫学研究です。

古くは米国で 20 人の患者さんにホルムアルデヒド、ガソリン、クリーナーなどの化学物質と新鮮な空気を、被験者もテストをする側もばく露の有無が知らされない「二重盲検法」でランダムに負荷する試験が行われました。

この結果、化学物質と新鮮な空気との差は見られませんでした。

また、 Bornschein によるドイツの研究も「二重盲検法」による負荷試験です。

化学物質過敏症を訴える患者さん(ケース) 20 名と化学物質過敏症のない健康な方(コントロール) 17 人に混合溶媒を含む化学物質負荷と含まない空気の両方をランダムにばく露させました。

血圧または心拍数が 10% 以上変化した場合、発疹、低酸素、あるいは症状の悪化が見られた場合に反応ありと定義して、化学物質にばく露した場合の反応と化学物質にばく露させていないのに生じた反応を検討したところ、ケースとコントロールの反応には全く差は見られませんでした。

即ち、これらの研究からは、科学的には化学物質ばく露と患者さんの反応には関連はなく、過敏状態が低濃度化学物質ばく露によることは説明できませんでした。

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これを見ると、化学物質過敏症などないと言っているようなものだろう。

次回へ・・・。