「真実の口」536 がん遺伝子検査…②

前回の続き・・・。

前回、『世間一般的に、「我が家はがん家系」ということが言われているが、これは、ある意味では正解だが、ある意味では間違っている。』という言葉で締めくくった。

これは、「がんは遺伝子の病気である」という医学的見解を、誤って理解しているから起こっているものである。

では、そもそも遺伝子とは何ぞや???

我々は、動植物は、多くの「細胞」からできている。

例えば、ゾウリムシのように単細胞もいれば、人間は約60兆個あると言われている。

これは、大凡、重さ1kgに対し、1兆個あるという換算から導きだされたものなのだが・・・。

この推定から考えると、体重約4kgのウサギであれば4兆個、体重6tの象であれば6,000兆個の細胞があるということになるのだろうか?

その細胞の全てに、「染色体」というものが入っている。

この染色体を作っているものが、「遺伝子(=DNA)」である。

遺伝子は、「生命の設計図」と言われ、生物の身体をつくるすべての部品や、その働きを決めているのが、「遺伝子」だからだ。

遺伝子は、物質としては「DNA」と呼ばれる分子からできているのだが、この DNAは「A、G、C、T」という4種類の「塩基」の構成で出来ている。

人間の場合、このA、G、C、T という文字が順番を変えて、約30億個並んで遺伝子全体が作られている。

そして、遺伝子のパターンとして、約40,000個あると言われている。

我々は、父親の遺伝子を精子という形で、母親の遺伝子を卵子という形で、ちょうど半分ずつ遺伝子を受け継いでいる。

・・・と、ここまで、生物学っぽく説明してしまったが、これからが本題である。

まず、我々は、約40,000個ある遺伝子のどれもが変質すると、がんになるのだろうか???

否・・・!

この遺伝子が変質するとがんになるという遺伝子は、ある程度種類が決まっているらしい・・・。

現在のところ、変異によって活性化し、「がん遺伝子」に変わるがん関連遺伝子は100個以上が判っているということである。

そして、それとは反対に、がんの発生を抑制する機能を遺伝子である「がん抑制遺伝子」も、現在、26個が判っている。

我々は、常にバランスのことを言っているが、現在は26個しか判明していない「がん抑制遺伝子」も、「がん遺伝子」同様、100個以上あるだろうと言われている。

この「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」とは、どのような性質の物かというと・・・。

あるHPで検索したら、車のアクセルとブレーキで考えると判りやすいようである。

「がん遺伝子」をアクセルと考えれば、この遺伝子が働き過ぎると(フルアクセルで踏み込むと)、車が暴走するかのごとく、細胞はがん化への道を進んで行く。

「がん抑制遺伝子」をブレーキと考えれば、この遺伝子が働かなくなると(ブレーキが利かなくなると)、やはり車が止まることができず暴走してしまい、細胞はがん化への道を進んで行く。

どうやら、「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」も絶妙なバランスが大切なようである。

ただ、がんは1個の遺伝子だけ、変質を来しても、がんにはならないと言われている。

現在では、複数(おそらく5~10程度)の遺伝子の変質が重なって、はじめてがんになると考えられている。

我々、人間は、常に細胞を増やして、古くなった細胞を新しい細胞に置き換えながら生きている。

細胞が分裂して増える場合、その中の遺伝子も、また、コピーされて増えるのだが、コピーをとるたびに、どうしても少しずつエラーが生じてしまう。

その過程で、たまたま「がん遺伝子」や「がん抑制遺伝子」のような重要な遺伝子のひとつに傷がつくと、その傷がついた細胞がどんどん増えていってしまうこともある。

しかし、人間の身体は不思議な物で、この変質した遺伝子の入った細胞を積極的に殺してしまうというシステムが備わっているのである。

専門用語では、「アポトーシス (apoptosis)=細胞死」 と言われるらしいが、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺がこれである。

つまり、ガン細胞も、簡単には増殖は出来ないと言うことである。

ただし、遺伝子に傷がついた細胞はほとんどが死んでしまうのだが、稀に、死なずに増殖し、一気呵成な細胞があると、更に、3つ目、4つ目の遺伝子異常が重なり、それが最終的にたちの悪いがんになってしまう・・・。

今回は、少し、生物っぽくなってしまったが、がんを解説する上で、ご理解を頂きたい・・・。

次回へ・・・。