「真実の口」541 退化する人間と進化するゴキブリ

6月2日の毎日新聞の“余録”に面白いコラムが載っていたので取り上げてみる。

“余録”とは、毎日新聞朝刊一面の定位置に毎日掲載されているコラムのことである。

朝日新聞で言えば“天声人語”、読売新聞で言えば“編集手帳”と同じような物と理解していただければいいのではないだろうか?

コラムの内容は、米国の化学会社で実験していたフォックス博士が、同僚から、「博士が使う物質が空中に舞い、苦い味がする」文句を言われたことに始まる。

しかし、博士自身は何も感じないし、他の人々を試しても、「苦い」「無味」と答えが定まらないらしいのである。

今から80年前の“この出来事”をきっかけに、ある物質に苦みを感じる人と、感じない人がいることが明らかになった。

更に、舌の味細胞で働く遺伝子の型が、両者を分ける主な要因であることもわかった。

つまり、人間の味覚は進化し続けているということになる。

昨今、健康ブームを背景に、「糖質ゼロ」、「糖類ゼロ」、「カロリー・ゼロ」、「カロリー・オフ」、「ノン・カロリー」、「シュガー・レス」等々の謳い文句がどこでも目にするようになった。

これらのカラクリには、人工甘味料の存在があるのだが、人工甘味料については、『健康食品の嘘・ホント25で取り上げているので、興味がある人は読んで欲しい。

人間のみならず、生物にとって、“苦味”や“辛味”は“毒”のサインである。

赤ちゃんや子供は、苦い食べ物や辛い食べ物を口にすると、吐きだしてしまう。

それは、自分の身体に毒を入れないための防御本能というわけである。

余談だが、会田氏も私も、セロリとグレープフルーツを受け付けない。

体が毒だと拒否するからである。

コラムでは、アメリカ・ノースカロライナ州立大が発表した『変異ゴキブリ』が取り上げられていた。

コラムなので文字数に制限がるため、詳細が書かれていないので、この論文について、ネットで検索してみた。

論文は、アメリカ・ノースカロライナ州立大の勝又綾子主任研究員らが、5月24日付の科学誌サイエンスに発表されたもののようである。

ゴキブリ駆除剤の多くは、食い付きを良くするため、1980年代からブドウ糖で包んでいるものが売られていたらしいのだが、約20年前位から効果が落ちたと指摘されていた。

ゴキブリは物を食べる前に、口の周りにあるヒゲのような器官で触って味を確かめるらしい。

甘みを感じた時と苦みを感じた時で、神経回路の反応が異なり、苦みを感じた場合は食べない。

勝又主任研究員らは、7,000匹以上のゴキブリに、ブドウ糖や塩などを与えて神経回路の反応を調べたそうである。

通常のゴキブリは、ブドウ糖に甘みだけを感じるが、一部のゴキブリは苦みの神経回路が働くことがわかったというのである。

言うなれば、人間の駆除剤に対抗して、“甘い物嫌い”に進化したということだろう。

コラムでは、『抗生物質を使えば、それをすり抜ける耐性細菌が、抗ウイルス剤を開発すれば、耐性ウイルスが生まれる。人間が周囲の生き物と相互作用しながら生きている以上、避けられない宿命だ。』と説いている・・・。

果たしてそうだろうか???

2010年9月に5回に分けて、『殺す技術から生活かす技術へ』というテーマで寄稿しているので、少し目を通していただきたい。

現在、知られている抗生物質は、8000種類以上もあり、厳密なテストをクリアした種類のみが医学的に認められて利用されている。

そして、隣国、中国では、抗生物質の年間生産量が約15万トン、そのうちの輸出量が約2万5千トンと、いずれも世界一である。

1人あたりの年間抗生物質消費量は138gで、アメリカの約10倍に達しているらしい・・・。

更に、恐ろしいことに、中国では毎年約20万人が薬物に対する有害反応によって死亡しており、うち40%が抗生物質の乱用によるものであるということが発表されている。

我が国も、1970年代~1980年代半ばまで、抗生物質の生産量、消費量ともに世界1位だったのである。

現在でも、抗生物質消費大国であることは変わらないのである。

抗生物質は、本来、持っている免疫機能を妨げてしまう。

ゴキブリは進化を遂げているようだが、このままだと、我々人間は、退化してしまうのではないだろうか?

そろそろ、頭の切り替えを図らなければ、人類の明日はないのではないだろうか???