「真実の口」1,302 価値の低い医療・上

インターネットが普及する中、様々な医療情報が氾濫している・・・。

一方では、可とする情報も、片方では、非とされていたり・・・。

情報の氾濫により、素人では、判断しがたい状況にあるとも言えるのではないだろうか?

少し前になるのだが、毎日新聞に「控えた方が良いとされる治療や薬の服用など価値の低い医療行為」という特集が組まれていたので、一部参考にしながら、紹介しよう!

当 Blog でも認知症については幾度となく取り上げているが、認知症、あるいは認知症の疑いを持つ患者を抱える家族は必読である。

≪認知症の高齢患者に表れやすい幻覚や妄想、不安などへの対処法について≫

認知症と診断されている東京都内に住む 76 歳の女性。

家族にあらぬ妄想を訴えたり、興奮したりするようになったため、主治医から抗精神病薬を出されたという。

薬の服用後には、症状は治まったように見えたが、表情がうつろで、眠気を訴え、体の動きが鈍くなったらしい・・・。

とうとう、食事も取らなくなったため、心配した家族は、都内の大学病院の精神科に相談したという。

診断結果は、「抗精神病薬の副作用による影響」だった。

服用を中断することにより、女性は笑顔を取り戻し、表情も明るくなるなど症状は改善されたという。

認知症と言うと、まず、「物忘れ」という症状が頭に思い浮かぶのだが・・・。

これ自体は、家族にとってはストレスになるものの、同じ話を何度したとしても、同じ質問を何度聞かれたとしても、生活に大きな影響は与えることは無いかもしれない。

しかし、認知症が進んで、幻覚・妄想・抑うつ・不安・不眠・暴言暴力・介護抵抗などの症状が現れると、認知症患者の家族や介護者にとって、大きな負担になってくるようだ。

これらの症状は、“行動・心理症状”あるいは“ BPSD ( Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia )”と呼ばれるようだ。

BPSD の症状は、人によって表れ方が違うらしいのだが、認知症の進行によって 9 割以上の患者に何らかの症状が出るとされているそうだ。

主な症状としては、暴言や暴力、興奮、抑うつ、不眠、昼夜逆転、幻覚、妄想、せん妄、徘徊、もの取られ妄想、弄便、失禁、etc・・・。

この BPSD は、以前は、“周辺症状”と表現されていたようだ。

認知症の決定的症状である「記憶障害(もの忘れ)」、「判断力の障害」、「問題解決能力の障害」、「実行機能障害(ものごとを実行できなくなる)」、「見当識障害(いつ・どこがわからない)」、「失行(ボタンをはめられないなど)」、「失認(触れたものや聞こえてくる音が何なのかわからなくなる)」、「失語(言語障害)」などを“中核症状”と言い、認知症になれば必ず現れ、その一段階前で、周囲の人との関わりのなかで起きてくる症状のため、“周辺症状”と言われていたようだ。

BPSD は、その人の置かれている環境や、人間関係、性格などが絡み合って起きてくるため、人それぞれ表れ方が違うのは当然なのだろうが、介護者にとって、対応に苦慮するのは、中核症状よりも BPSD であるといわれているようだ。

そして、この BPSD を抑えようと、“抗精神病薬”や“抗不安薬”などと称される“向精神薬”が使われるケースが多いのだ。

だだ、効果は限定的なのだという・・・。

毎日新聞では、東京慈恵会医大の繁田雅弘教授(精神医学)は、「薬を使わず、まずは BPSD の原因を突き止めて解決することが重要だ。」というコメントを掲載してる。

厚労省研究班が作成したガイドライン(指針)でも、 BPSD の治療手順として最優先に、「薬を使わない方法」を挙げているそうだ。

BPSD は、認知症患者の環境の変化やストレスなどが背景にあるため、その原因を突き止めて、取り除かなければ根本的な解決につながらないからだという。

そこで、前述の繁田雅弘教授を調べてみて、面白いコメントを見つけた。

「認知症になるとできないことが増えていくため、家族はつい『服を着替えて』『お風呂に入って』など命令口調になりがちです。でも、同じ家族なのに、命令されるのは気分のいいものではありませんよね。また、認知症が進まないように、脳トレや運動を勧めるのはいいのですが、ご本人が乗り気ではないのに、いろいろやらせてしまうと精神的に不安定になります。」

不満やストレスが積み重なる

感情が爆発しやすくなる

BPSD も出やすくなる

病状が進行しやすくなる

介護の度合いが増す

どうやら、本人を思って取った行動が、本人を苦しめ、牽いては、自身に却ってくるということのようだ・・・。

因みに、一人暮らしをしている認知症の人はやりたいことを自由にやっているため、BPSD は出にくいといわれているのだから、皮肉なものだ・・・。

日本老年医学会などの指針によると、BPSD のうち、幻覚や妄想など精神症状や、興奮や攻撃性には効果が期待できる抗精神病薬があるが、その効果は大きいとはいえないという。

一方、認知症患者が抗精神病薬を服用すると、死亡率が 1.6 ~ 1.7 倍程高くなるとという報告があるらしい・・・。

日本老年精神医学会の研究チームによる認知症患者約 1 万人を対象にした調査によると、 BPSD のため抗精神病薬を新たに服用した患者は、開始 11 ~ 24 週で死亡率が上がり、服用しなかった患者の 3.9 倍になったというのだから驚きだ。

家族を救おうあるいは介護を楽にしようという思いが、死への階段を上らせることになるとは、本末転倒である。

もし、“向精神薬”の使用を、医師に勧められたり、ご家族への使用を考えている方は、今一歩立ち止まって、ストレスの原因を考えた方が良いのではないだろうか?

次回へ・・・。