「真実の口」1,502 新型コロナウィルス・・・㊵

前回の続き・・・。

ここのところ、感染拡大に伴い、月・水曜日で前週の感染状況をお伝えして、金曜日に様々な情報をお伝えする状況になっていたのだが、前週は、感染者及び死亡報告が多すぎて、月~木の 4 回で感染状況をお伝えした。

そして、今回は、前週寄稿する予定だったが、岡江さんの死去と言うニュースが入り、急遽、感染防止対策と感染後の対策を寄稿したので、改めて、寄稿する。

連日連夜、テレビでは、報道番組も情報番組も新型コロナウィルスのことを取り上げている。

新型コロナウィルスへの対策に日夜追われ、日本政府は、試行錯誤・・・、暗中模索・・・、悪戦苦闘・・・している状況だ。

しかし、その対応に疑問符がつくことも少なくないことは私も認めるのだが・・・。

対応後手々々だの・・・。

危機管理能力不足だの・・・。

SNS で誰でも自由に発言できる世の中だから、何を言っても良いのだが、著名人の私が正しい的な発言は、正直言って、ウンザリする。

報道番組も情報番組も同じ穴の狢(ムジナ)である。

未だに、 PCR 検査数が云々・・・。

自分らで PCR 検査が必要なのか(?)、不要なのか(?)、を調べているのだろうか?

私は、クルーズ船・ダイヤモンドプリンス号の乗客・乗員に対して、当初は疑いのある濃厚接触者だけだったにも拘らず、世論の影響か、全員に対して、 PCR 検査を行うと言うことが決まった時、ふと、疑問に思い、色々と調べてみた。

すると、ある動画を発見した。

現役医師プロポ先生の YouTube クリニックと言う動画だ。

現役医師プロポ先生の YouTube クリニック

現役医師が全員に PCR 検査をしても意味がない理由を、医師国家試験問題を例にあげて解説

現役医師が全員に PCR 検査をしても意味がない理由を、医師国家試験問題を例にあげて解説している。

動画を見る前に、専門用語を頭に入れておくと理解が早い。

●感度
ウィルスに感染している人のうち、検査が陽性になる人の割合

●特異度
ウィルスに感染していない人のうち、検査が陰性になる人の割合

●偽陽性率
ウィルスに感染していないのに、検査が陽性になる人の割合

●偽陰性率
ウィルスに感染しているのに、検査が陰性になる人の割合

●有病率
検査する人全体の中で、ウィルスに感染している人の割合

 

補足動画もある。

日本の医師は、医者になるための医師国家試験で、このような問題を解いているのだから、 PCR 検査の限界と言うのを知っていると言うことなのだ。

その医療従事者に、 PCR 検査を増やせと言う理不尽な要求を押し付けるのは些か筋違いではないと思うのは私だけだろうか?

これらの動画を見て、現場の医師の声はどんなのだろうかと思い探してみた。

以下、東京都中央区日本橋大伝馬町にて開業している「さいとう内科・循環器クリニック」の齋藤幹院長の声である。

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

新型コロナウィルス( COVID-19 )の PCR 検査について

当院では新型コロナウィルス感染症( COVID-19 )の PCR 検査は保険償還されたとしても、現時点( 2020/2/29 )では行いません。その理由は以下の通りです。

検査の精度に問題があります

新型コロナウィルスの診断には現在 PCR 法が採用されております。 PCR 検査の感度は様々な報告がありますが、概ね 50 ( -70 ) % 程度と推測されております。

《感度 90% とはウィルスに感染している 100 人中、 90 人診断を陽性と診断できる能力です。》

新型コロナウィルスの PCR 法は仮に 50% とすると半分の人で見逃してしまうことになります。これが例えば 100人 の新型コロナウィルスの患者さんのうち 50 人を見落としてしまうことになります。この 50 人が実際には病気を持っているのに出歩いてまわりにうつしてしまうことは非常に問題だと思います。
感度をもっと良くすればいいということはありますが、これを 90% にしても同様の問題は解決しません。(100%の検査はありません)
一方で感度をよくすると特異度が下がってきてしまうという問題があります。

特異度 90% とはウィルスに感染していない 100 人中、 90 人を陰性と診断する能力です。

もし、 90% の特異度があったとすると、実際には感染していない 100 人のうち 10人が陽性と判断されてしまうのです(偽陽性といいます)。偽陽性の人はどうなるでしょうか?今の治療体制では隔離されてしまうのではないでしょうか?もし病院へ入院していたらどうでしょうか?陽性の人は、個室に入るか、他の陽性の人と同じ部屋に入れられてしまうのではないでしょうか?そうしたら本当はかかっていないのに実際に感染してしまうことになります。これは非常に問題です。

新型コロナウィルス感染の可能性が高い人にやるべきです

これを解決するには、やみくもに検査をするのではなく怪しい人(検査前確率が高い人)を検査するのが望ましいと考えます。

検査前確率とは検査する前に推測できる確率のことです。例えば高齢で咳や発熱がある人に胸のレントゲンを撮るのと、元気な中学生に胸のレントゲンを撮るのでは、肺炎を合併する頻度が全く違うことは分かると思います。

COVID-19 の初期症状は一般の風邪症状と変わりないとされています。その時点で検査をするのは非常に確率が少ない人に検査をすることになりますので、陰性の患者さんが沢山出てきて検査の意味がなくなります。

検体採取時に感染する可能性があります

こちらの文献によると現時点では検体採取は鼻咽頭の検体採取が望ましいと考えられます。

鼻腔からの検体採取はインフルエンザの検体採取と同じです。みなさんもインフルエンザの検体採取の際に、咳き込んだりむせたりすることがあったと思います。新型コロナウィルスの感染力は現時点ではっきりと分かっていませんが、これまでの経過から相当強いことが予想されます。

そのため WHO や国際医療センターからも検体採取の際には、下記のような完全防護にて採取するようにされております。さらに陰圧室での管理も指導されています。

当院には陰圧室はもちろん、 N95 のマスクも下記のような完全防護服の用意もありません。

また、多くのクリニックでは検体採取の時間や場所を未感染者と分けることはできないと思います。院内で感染のリスクを高めることは、他の患者さんの感染リスクをあげることになります。

新型コロナウィルス感染症( COVID-19 )の特別な治療は現時点でありません

インフルエンザは例外的なウィルス感染症で、ワクチンやタミフルを始めとした治療薬があります。

新型コロナウィルス感染症( COVID-19 )は風邪など他の多くのウィルス感染症と同じように、特別な治療法はありません。ほとんどの人は自分の免疫力で治っていくものだと思われます。一部の重症化した患者さんには新型コロナウィルス感染症( COVID-19 )に対する治療というよりは、酸素投与をしたり合併した細菌感染や心不全や腎不全などに対して治療をしたりするものと思われます。

みなさんも風邪だからといって PCR して診断してほしいとは思わないと思います。診断したとしても基本的には症状を抑える薬を内服するくらいですから分かっていただけるものと思います。

莫大な手間と費用がかかります

私は実験が好きな医師ではありませんでしたが、大学院時代に一応基礎実験をしていたことがあります。 RT-PCR もやったことがありますが、簡単にできるという代物ではありません。

もちろん昔と今とは全く違うとは思いますが、それでもコマーシャルレベルではないRT-PCR を容易に大量にできるとは考えられません。

すぐに大量にできるような体制を取れるように準備できていなかったのは今後の課題だとは思いますが、今現在できないことをマンパワーで乗り切ろうとするのはどうかと思います。

お金もマンパワーも限界がありますから、より有効性のある検査や治療に力を注ぐべきです。

かかったかもしれない人、軽症者はお願いだから家で休んでください

私は安倍首相が好きでもないし、今回の政治家や厚生労働省の対応には失望することが多かったのは事実です。

しかしながら現状では政府が示している方針に大きな間違いはないと考えています。
要するに「かかっているかもしれない人」「軽症者」は人にうつす可能性があるから出歩かないでほしい、とくに病院に来たり、人混みにでかけてうつすのは止めてほしい、ということなのです。

中国の新型コロナウィルスのデータを見てみると、武漢の死亡率が突出して高いことが分かります。北京や上海はそれほど高くないのです。このことから死亡率の違いはこのウィルスの病原性というよりは医療体制、マンパワーによるものと考えます。軽症患者が医療機関に殺到して医療崩壊を起こしてしまったことで、救える命を救えなかったことや、混雑した病院で本来感染してなかった人たちに感染してしまったことが原因と推測されます。

軽症者ほどうつしやすいのかもしれません

「コロナにかかっていないことを証明してほしい」という会社員がいると聞いたことがあります。会社から言われたのか、上司に言われたのか分かりませんが、コロナでなければ出勤してほしいということなのでしょうか?

もちろんそんなことはこれまで述べてきたように不可能です。

さらに今回の新型コロナウィルスの特徴として、上気道でウィルスが増殖するタイプと肺でウィルスが増殖するタイプがあるようです。上気道でウィルスが増殖するタイプは症状が軽いが、咳やくしゃみなどで人にうつす可能性が高いのです。一方で、肺で増殖するタイプは症状が重いが、人にうつすリスクは低いと考えられます。もちろん重症者は人工呼吸器管理になると肺からの体液が直接外へ放出されるために医療従事者が感染するリスクが高まります。

PCR 検査は重症者を治療する病院で検査をすべきです

これまで述べてきたように私は当院で新型コロナウィルスの PCR 法による診断は、保険償還となっても行いません。

一方で重症者を治療する病院では検査ができるような体制を整えるべきだと思います。大学病院でも下記のように場所を分けて検査をすることを考えているようです。一般のみなさんが考えるほど気楽に検査ができるものではないと思っています。ご理解をよろしくお願い申し上げます。

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

これが現場の声である。

貴方はどう捉えただろうか?

また、数学的なアプローチから PCR 検査について解説したものもあるので、興味があれば見てみると面白いかもしれない・・・(笑)。

むやみな検査を行ってはいけない理由、数学的に説明します【条件付き確率】

ただ、そうは言っても、検査してもらえないという一抹の不安はぬぐえないという気持ちもよくわかる。

PCR 検査をしない患者さんに対して、医療者は何もする術がないのか?

現場では、新型コロナウィルス肺炎を疑う場合、 Computed-tomography( CT )検査が大活躍しているそうだ。

CT 検査という名前を聞かれた方は多いと思うが、分かりやすく言えば「輪切りのレントゲン検査」である。

何十枚もの輪切りの画像を得ることで、レントゲン検査では分からないような小さな肺炎も見つけることができるのだ。

私は地方自治体の発表を追いかけているので、今回の新型コロナウィルス感染において、症状のない患者さんが CT 検査で肺炎の影が見つかったという報告を数多く目にしている。

もちろんこれらの患者さんは既に新型コロナウィルス感染と診断されている方が前提なので、これだけをもって安心することは出来ないかもしれない。

しかし、 CT 検査が新型コロナウィルス感染の早期発見に有用な検査であった場合、日本には絶大な強みがある。

それは、日本が世界有数の CT 保有国家だからである。

人口当たりの CT 台数は世界第 2 位のオーストラリアのなんと 2 倍近くを保持している。

表を見てもらいたい。

人口 100 万人あらりの CT 台数

ただ、これは必ずしも褒められたことではなく、日本人の医療被ばくが多いということにつながるのだが、今回に限って言えば利点となる可能性があると言う訳だ。

政府が海外から、何故 PCR 検査が少ないかと言う質問にしたいして、 PCR 検査を絞り込み、 CT を活用しての発見で医療崩壊を起こさせないと言う日本政府の見解は一定程度の理解を得られているようだ。

About Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)

次回へ・・・。