「真実の口」1,668 脱炭素社会・カーボンニュートラル【前編】

コロナ禍の中、話はどうしてもそちらに向いてしまうので、少し、角度の違う話題をしてみる。

昨年、 10 月 26 日、第 99 代内閣総理大臣に就任した菅総理による所信表明演説が行われた。

https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg21439.html

テーマは 9 つ・・・。

一 新型コロナウィルス対策と経済の両立

二 デジタル社会の実現、サプライチェーン

三 グリーン社会の実現

四 活力ある地方を創る

五 新たな人の流れをつくる

六 安心の社会保障

七 東日本大震災からの復興、災害対策

八 外交・安全保障

九 おわりに(自助・共助・公助そして絆)

この中で一番注目されたのが、“脱炭素社会の実現”だった。

菅総理は、脱炭素社会の実現に向けて、「 2050 年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。」と表明したのである。

一応、端折るとアレなので、全文を見てみる。

「菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。

我が国は、 2050 年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。

すなわち 2050 年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。

もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。

積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。

鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションです。

実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進します。

規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資の更なる普及を進めるとともに、脱炭素社会の実現に向けて、国と地方で検討を行う新たな場を創設するなど、総力を挙げて取り組みます。

環境関連分野のデジタル化により、効率的、効果的にグリーン化を進めていきます。

世界のグリーン産業をけん引し、経済と環境の好循環をつくり出してまいります。

省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。

長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。」

世界的に見ても、“脱炭素社会”という流れは避けられないのだが・・・。

温室効果ガスの排出削減をめぐっては、各国、相次いで目標を掲げ、環境ビジネスの育成に巨額予算をつぎ込もうとしているのが現状だ。

この問題に熱心なバイデン米大統領は、 2 月 19 日、世界の排出量を 50 年までに実質ゼロにする「パリ協定」に復帰した。

協定に復帰した当日、バイデン米大統領は、 G7 首脳会議後、参加したミュンヘン安全保障会議でのオンライン演説で、気候変動問題に触れて、パリ協定復帰を強調するとともに、地球の日( 4 月 22 日)に、気候変動サミットを主催することに言及している。

これは、 2020 年 9 月 22 日、国連総会の一般討論演説の中で、中国の習近平国家主席が、『パリ協定のもとでの「自国が決定する貢献(NDC)」を向上させ、より強力な政策と措置を講じて、 2030 年より前に CO2 排出量をピークに達するよう努力し、 2060 年より前に炭素中立(ネットゼロ)の実現を努める。』と表明した中国への牽制もあるのだが・・・。

前トランプ米大統領が、気候変動に背を向けた結果、中国が温暖化防止のリーダーシップを強めることになり、バイデン米大統領は、温暖化防止のリーダーシップを取り返そうと躍起になっているという構造のわけだ。

ここ数年、中国は太陽光パネル、風車、バッテリー等、巨大なクリーンエネルギー産業基盤を築き上げており、“脱炭素”という旗印の下、この分野で主導権を握ること可能性があるかもしれないのだ。

つまり、“脱炭素”というキーワードは、既に、利権を産んでいく構造になっているというわけだ。

さて、日本はというと、先ほどの菅首相の所信表明演説に戻る。

「省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。」

この一文が、どうも引っかかるのだ・・・(笑)。

「再生エネルギーへの転換ではなく、原発再稼働への舵切りではないのか?」と穿った見方をしてしまうのだ。

ところで、貴方は、世界の電気料金事情をご存じだろうか?

これは、 2018 年 1 月に報告された一般財団法人電力中央研究所による「電気料金の国際比較- 2016 年までのアップデート-」による資料である。

2016 年時点では、日本は概ね中位に位置している。

傾向としては、各電力会社の努力により、 2010 年までは下落傾向にあったが、東日本大震災を契機に上昇に転じ、 2016 年には若干の下落というところだろうか?

一方、高位に位置するデンマーク、ドイツ、イタリア、スペイン、そして、中位に位置するイギリス、フランスという欧州各国だが、常に、上昇傾向にあるのが見て取られる。

ただ、一概に、上昇傾向とは言っても、その中身は若干変わってくる。

ドイツ、イギリス、イタリア、スペインのように火力発電比率の高い国は、燃料価格の上昇の影響や公租公課などが原因のようだ。

一方、フランスは、原子力発電の比率が 76% ( 2012 年時点)と非常に高く、化石燃料コストの影響を受けにくいため、電気料金が比較的安定しているようだ。

また、ドイツは再生可能エネルギーの普及を積極的に進め、その全量を買取しているため、買取費用だけでなく環境に配慮したいわゆる環境税も電気料金に加算されることが電気料金の高騰につながっているそうだ。

同様に、デンマークも、ドイツよりもいち早く再生可能エネルギーの買取制度を導入し、 2012 年の段階で再生可能エネルギーによる発電比率が 50%(ドイツは 20% 程度)と非常に高くなっていることが理由のようだ。

低位に位置するカナダ、アメリカ、韓国を見てみると・・・。

カナダは、水力発電の比率が 59% ( 2012 年時点)と高いことが挙げられる。

アメリカは、発電比率の高い火力発電で使用する化石燃料を輸入に頼らず自国でまかなえることが大きなメリットとなっている。

韓国は、発電コストが比較的低い石炭( 42% )と原子力( 29%)による発電比率が高いことが挙げられる(比率はそれぞれ 2012 年時点)。

表から、凡その価格を拾ってみる。

順位 国名 1kWh あたりの料金
1 位 デンマーク 36 ~ 37 円
2 位 ドイツ 35 ~ 36 円
3 位 イタリア 約 30 円
4 位 スペイン 28 ~ 29 円
5 位 日本 23 ~ 24 円
6 位 イギリス 22 ~ 23 円
7 位 フランス 約 20 円
8 位 アメリカ 13 ~ 14 円
9 位 韓国 12 ~ 13 円
10 位 カナダ 11 ~ 12 円

更に、中国を見てみると・・・。

約 12 円前後のようだ・・・。

さあ、“脱炭素”という旗印の下に展開される“グリーンバブル”の中、各国の舵切はどうなるのか?

次回へ・・・。