「真実の口」1,535 熊本南部豪雨(仮称)・前編

4日、熊本県南部を流れる最上川・富士川と並ぶ日本三大急流の一つ球磨川が氾濫・決壊し、球磨川流域の人吉市、球磨村、津奈木町、芦北町、八代市、天草市、その他各地域に甚大な被害をもたらした。

この Blog を書いている 6 日 10 時現在、人的被害として、 22 人が死亡し、 17 人が心肺停止、 11 人が行方不明となっている。

熊本南部豪雨(仮称)人的被害状況(※7月5日午後9時現在)

球磨川は同県水上村を源流とし、人吉盆地や八代平野を通って八代海に注ぐ 1 級河川。

延長 115km は九州の河川では 3 番目の長さで、流域面積 1,880km2 、流域人口約 13 万人。

ラフティングや船下りが地域の観光シンボルとして知られる河川である。

福岡管区気象台では、 3 日夕方の段階では、 4 日午後 6 時までの 24 時間で鹿児島県の大隅地方で 250mm 、熊本県球磨地方で 200mm の降雨量を予報していたという。

実際には、熊本県湯前町の湯前横谷では、 24 時間降水量が少なくとも 489.5mm と、予報を大幅に上回る激しい雨に見舞われている。

以下の図を見ていただきたい。

九州南部の 7 月 4 日 24 時の 72 時間降水量

九州南部の 7 月 4 日 24 時の 72 時間降水量を示したものである。

オレンジ色のが連なっている箇所が球磨川流域である。

専門家によれば、 72 時間降水量 400 ~ 500mm は、決して小さな値ではないらしいのだが、全国の気象庁観測所における 72 時間降水量の最大値は 1,650.5mm ( 2011 年 9 月 4 日に奈良県上北山で観測)らしく、これと比すると、極端に多い記録というわけでもなさそうである。

次に、以下の図を見ていただきたい。

九州南部の 7 月 2 ~ 4 日の最も強い 1 時間降水量

九州南部の 7 月 2 ~ 4 日の最も強い 1 時間降水量(最大 1 時間降水量)を示したものである。

熊本の天草地方や鹿児島の薩摩半島で 1 時間 80mm 以上の記録が見られるようだが、意外にも、球磨川流域では、約 60 ~ 70mm 台だったようだ。

もちろん、これは観測地点によるものなので、ポイント的には 80mm を超えたところもあったかもしれない。

因みに、気象庁の降雨に対する表現は以下のようになっている。

気象庁・雨の強さ

気象庁からは分かりやすくイメージしやすいように、“雨の強さと降り方”というパンフレットも出ている。

気象庁・雨の強さと降り方

つまり、今回の球磨川流域の雨の強さと降り方は、“非常に激しい雨”であって、“猛烈な雨”ではなかったと言うことになる。

因みに、全国の気象庁観測所における 24 時間降水量の最大値は、 1998 年 9 月 25 日に高知県繁藤で観測された 979mm という記録があるらしい・・・ヽ((◎д◎ ))ゝ ひょえぇ~

ただ、熊本県内では、「記録的短時間大雨情報」が、 7 月 4 日中に 6 回も発表され、その多くは球磨川流域の市町村だったようで、レーダーでは、各地で 110 ~ 120mm 程度の雨が降ったことが記録されている。

つまり、“局地的”に 80mm 以上の“猛烈な雨”が降っていたということである。

球磨川では、過去にも氾濫・決壊が起きている。

【昭和 40 年 7 月洪水】

梅雨後期の停滞前線により、 6 月 28 日ごろから雨が降り続き、 7 月 2 日の夜半ごろから流域の各地で豪雨となり、至る所で氾濫。

特に、人吉市では市街地が浸水するとともに 20 数戸が流された。

人吉水位観測所では計画高水位を大幅に上回る水位を記録し、青井阿蘇神社楼門では基礎石のところまで水が押し寄せる大洪水となった。

八代市では萩原橋下流右岸において堤防前面が崩れ、 4 戸が押し流されるとともに前川堰も損傷。

また、水無川からの氾濫等により八代市内で浸水被害が発生し、川辺川でも家屋の流失、橋梁流失などの被害が相次いだ。

流域市町村における被害の状況は、家屋の損壊・流失 1,281 戸、床上浸水 2,751 戸、床下 10,074 戸と甚大な被害が発生。

この洪水を含め、 63 ~ 65 年に3年連続で大水害が起き、国は 66 年 7 月、治水を目的とした九州最大級の川辺川ダムを球磨川支流に建設する計画を発表。

水没予定地の同県五木村から約 500 世帯が移転までしていたのだが、反対運動の広がりを受け、現職でもある蒲島郁夫県知事が、 2008 年に建設反対を表明。

翌年、民主党政権下の前原誠司国交相(当時)が計画中止を表明。

その後、ダムに代わる治水策の協議が続くものの、代替案は策定されていないという状況だった。

その他にも・・・。

【昭和 46 年 8 月洪水】

大型台風 19 号が九州西岸を通過したことに伴い、 8 月 3 日午後から雨が降り始め、 3 日、 4 日は球磨川本川上流域の市房山、白髪岳と茶臼峠で雨量が多く、 5 日の朝方ごろから流域の各地で豪雨となった。

この豪雨のため増水した球磨川の氾濫等により、流域市町村の被害は、家屋の損壊 209 戸、床上浸水 1,332 戸、床下浸水 1,315 戸と甚大な被害が発生。

【昭和 47 年 7 月洪水】

九州中部に停滞した梅雨前線の活動に伴って、球磨川流域では 7 月 4 日昼ごろから雨が降り始め、市房山、白髪岳、人吉、八代など流域の各地で豪雨となった。

洪水は 4 日から 6 日の間にピークが 2 度出現するなど長期間に及び、大きな被害を被った。

流域市町村の被害状況は、家屋の損壊 64 戸、床上浸水 2,447戸、床下浸水 12,164 戸と甚大な被害が発生。

支川胸川沿いの地域でも多くの被害が発生。

【昭和 57 年 7 月洪水】

熊本県中部から南部に停滞した梅雨前線は、 7 月 24 日夜半より活発な活動を始め、球磨川流域に多量の降雨をもたらした。

流域の各地で日雨量が 300~400㎜ を記録する豪雨となり、球磨川本川では、全川にわたって護岸決壊や根固めの流出などが発生。

流域市町村の被害状況は、上流部の人吉市、中流部の球磨村、旧坂本村(現八代市坂本町)を中心に家屋の損壊 47 戸、床上浸水 1,113 戸、床下浸水 4,044 戸と甚大な被害が発生。

【平成 11 年 9 月洪水】

大型で強い台風 18 号が九州西部を北上し、高潮の影響により、球磨川下流部では 9 月 24 日に地盤高が低い球磨川右岸鼠蔵(そぞう)地区及び前川右岸新開地区において床上浸水 3 戸、床下浸水 20 戸等の被害が発生。

【平成 16 年 8 月洪水】

大型で強い台風 16 号が球磨川流域を通過し、この影響で球磨川流域では 8 月 29 日から 30 日にかけて、断続的に激しい雨に見舞われた。

千ヶ平(せんがひら)雨量観測所(水上村)では、 8 月 28 日から 31 日までの総雨量が 664mm に達し、この洪水により、球磨川中流部を中心に浸水被害が発生。

床上浸水 13 戸、床下浸水 36 戸にのぼったほか、人吉市、相良村等では避難勧告が発令された。

【平成 17 年 9 月洪水】

大型で非常に強い台風 14 号が九州西部を北上し、この影響で、球磨川流域では 9 月 5 日から 6 日にかけて、断続的に激しい雨に見舞われた。

湯山雨量観測所(水上村)では、 9 月 4 日から 7 日までの総雨量が 932mm に達し、人吉水位観測所では計画高水位を超えた。

この洪水により、球磨川中流部を中心に浸水被害が発生、床上浸水 46 戸、床下浸水 73 戸にのぼったほか、人吉市、芦北町、相良村、多良木町、あさぎり町では避難勧告が発令された。

【平成 18 年 7 月洪水】

九州南部に停滞した梅雨前線が活発化し、 7 月 19 日から 23 日の約 5 日間にわたって、球磨川流域の各地で断続的に激しい雨に見舞われた。

田野雨量観測所(人吉市)では、 7 月 18 日から 24 日までの総雨量が 1,108mm に達し、この洪水により、球磨川の水位が上昇して各地で浸水被害が発生。

球磨川中流部を中心に床上浸水 41戸、床下浸水 39 戸にのぼり、人吉市、球磨村、芦北町、八代市坂本町等では避難勧告が発令された。

また、球磨川中流部では、国道 219 号等が冠水したことにより、交通が途絶する事態も発生。

【平成 20 年 6 月洪水】

対馬海峡付近に停滞し活発な活動を続けた梅雨前線が南下し、 6 月 19 日から 22 日にかけ、約 3 日間にわたって球磨川流域の各地で豪雨に見舞われた。

この洪水により、球磨川中流部を中心に浸水被害が発生、床上浸水 18 戸、床下浸水 15 戸にのぼったほか、人吉市、八代市坂本町、芦北町では避難勧告が発令された。

また、一時 JR肥薩線が運休 、九州縦貫自動車道の八代 IC ~人吉 IC 間等が通行止め になったほか、中流部では、国道 219 号等が道路冠水したことにより、交通が途絶する事態も発生。

【平成 23 年 6 月洪水】

九州に停滞していた梅雨前線が活発化して九州北部より南下し、 6 月 11 日から 12 日熊本県全域、鹿児島県北部、宮崎県西部にかけて大雨となり、球磨川流域でも非常に激しい雨となった。

この大雨の影響により、 6 月 10 日から 13 日までの総雨量が田代川間)たしろごうま)雨量観測所(人吉市)では 566㎜ 、田野雨量観測所では 565㎜ に達し、人吉水位観測所では氾濫危険水位を越えた。

この洪水により球磨村の渡地区や一勝地区で床上浸水 4 戸、床下浸水 4 戸の被害が発生したほか、人吉市や相良村では避難勧告が発令された。

このように球磨川は何度も氾濫が起き、別名、“暴れ川”として知られていたようだ。

次回へ・・・。