「真実の口」1,458 化学物質過敏症・・・⑧

前回の続き・・・。

前回は、米独 2 国における研究結果をお伝えした。

もちろん、我が国でも、研究されている。

マニュアルの先を見てみよう。

原文ママ

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日本では、患者さんのみがばく露の有無が知らされない「単盲検(シングルブラインド)」の研究デザインでしたが、環境省の研究費で 3 つの研究がなされました。

その一つ、北里大学の宮田らの報告によりますと、化学物質過敏症を訴える患者さん 38 名を対象とし、専門のクリーンルームにおいて厚生労働省の室内濃度指針値80ppbの 1/2 濃度( 40ppb )と 1/10 濃度( 8ppb )のホルムアルデヒド、およびプラシーボとしてホルムアルデヒドを含まないガス( 0ppm )にばく露させる誘発試験を実施しました。

7 名がホルムアルデヒドのみに反応しましたが、他の 31 名は反応しないかまたはプラシーボにも反応ました。

同様に、国立相模原病院の長谷川らはこれまで 51 名の患者にのべ 59 回、ホルムアルデヒドまたはトルエンによる負荷試験を行い、最近、論文が報告されています。

実際に負荷試験を実施した 40 名のうち、陽性例は 18 名でしたたが、 11 名は症状が誘発されず、また 11 名は実際の負荷が始まる前に症状が出たために陰性例とされました。

加えて、 11 名 には盲検法で負荷試験を実施し、陽性が 4 名、陰性が 7 名でした。

さらに、関西労災病院の吉田らは来院した患者 7 名にホルムアルデヒドを、 10 名にトルエンを、被験者のみにどの濃度かを知らせない方法でばく露させました。

しかし、自覚症状、一般的生理指標、神経眼科的生理指標において、明らかなばく露による変化を認めることは出来ませんでした。

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これだけの研究結果を列挙すると、化学物質過敏症は、やっぱり、“いわゆる”つきの病気で詐病じゃないのと思う人も多く出てくると思う。

研究する科学者の中には、「化学物質に関する遺伝的な感受性に関するもではないか?」と論ずるものもいるようだ。

Cui らの報告では化学物質過敏症の研究で QEESI( Quick Environmental Exposure and Sensitivity Inventory )と呼ばれる自覚症状質問票の得点を用いて化学物質過敏症のケースを定義したところ、SOD2(スーパー・オキシド・ディスムターゼ)の活性が高い型をもつと、 QEESI 高得点群になるリスクが高いと報告していま。

SOD2 の活性が高いと酸素ストレスを生じやすく、これが化学物質への過敏性と関係している可能性を示唆していると著者らは述べています。

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スーパー・オキシド・ディスムターゼ( SOD )とは、細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素のことである。

ヒトでは 3 種のスーパー・オキシド・ディスムターゼ( SOD )が存在し、 SOD1 は細胞質、 SOD2 はミトコンドリア、 SOD3 は細胞外空間に存在する。

一般的に、酸素消費量に対するスーパー・オキシド・ディスムターゼ( SOD )の活性の強さと、寿命に相関があると言われ、これは体重に対して消費する酸素の量が多い動物種ほど寿命が短くなるはずのところを、スーパー・オキシド・ディスムターゼ( SOD )が活性酸素を分解することで寿命を延ばしているとするものであり、動物の中でも霊長類、とくにヒトは SOD の活性の高さが際立ち、ヒトが長寿である原因のひとつとされている。

一般的に、活性酸素が人体の「老化」に深く関わり、ガンなどの生活習慣病の主な原因となっていると言われている。

しかし、その活性酸素を分解するスーパー・オキシド・ディスムターゼ( SOD )の活性が高い方が化学物質過敏症を発症しやすいとは因果なものではないか・・・。

ただ、安心して欲しい・・・。

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この研究ではケースの数は 11 人と少なく、 QEESI 得点との量-反応関係はありませんでした。

なお、 化学物質過敏症を訴える患者さんには、パーソナリティ障害や身体表現性障害などとのオーバーラップも多く、他の身体・精神疾患を考慮すべきとされ、 QEESI の得点のみを用いてケースとして扱って、ほかの精神心理要因などの可能性について除外を行っていない場合は、「多型の違いが化学物質への過敏性を示唆する」という結果の解釈でよいのか、注意が必要です。

よりサンプルサイズが大きい Fujimori や Berg の論文では、化学物質過敏症を訴える患者さん(ケース)と化学物質過敏症のない健康な方(コントロール)の遺伝子多型の頻度分布には差が見られず、著者らは化学物質過敏症における遺伝子の役割は小さいのではないかと結論づけています。

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マニュアルを読み進める。

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化学物質過敏症を訴える患者さんでは、精神神経疾患の合併率が (42 ~ 100% )と高いことが報告されています。

そのほとんどが不安障害、気分障害、身体表現性障害であるため、わゆる化学物質過敏症」の発症には、環境要因、特に心理社会的ストレスの関与が示唆されると心身医 学の専門家は記述しています。

たとえば、 CYP2D6 は薬物代謝酵素の遺伝子であるとともに、神経伝達物質であるモノアミンやセロトニン代謝にも関与します。

しかし、職場環境のような比較的高濃度の化学物質ばく露のもとでもこのようなモノアミンやセロトニン代謝そのものに影響がでることはありませんので、もしもこれらの遺伝子多型が化学物質過敏症に関係していた場合は、化学 物質よりもむしろ脳内神経伝達物質の分泌量の違い(異常)によっておこるという説明も示唆されています。

Binkley らの研究では、化学物質過敏症を訴える患者さんでは CCK-B 受容体アレル 7 (対立遺伝子)を持つ者がコントロールよりも有意に多いという結果が得られました。

CCK-B はパニック症候群との関連が報告されている遺伝子で、化学物質過敏症の方々の症状のうち、「不安」を引き起こす要因として、パニック障害などの疾病と(神経遺伝学的な)共通点があるのではないかと著者らは考察しています。

しかし、実際この研究もケース、コントロールともに対象者は 11 人と少なく、著者らは化学物質過敏症への遺伝子の影響は少ないのではないかと結論付けています。

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結局、どのような研究でも、答えを導くことは未だにできていないのが現状のようだ。

また、化学物質過敏状態が引き起こされるメカニズムとして以下のような意見もある。

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不快と感じる化学物質に対する条件反応的な「予期(反応)」によるのではないか。

プラシーボは薬剤の臨床試験ではしばしば用いられる薬で、乳糖や澱粉、生理食塩水が通常用いられます。

薬理作用を持つ成分は含まれていなくても、例えば「痛みに効く」といわれると鎮痛効果がみられることがあります。

これとは逆に、例えば、「この薬は副作用として吐き気を起こすことがある」と説明すると、たとえ服用させたのものが偽薬でも吐き気を起こしうることをノシーボ効果といい、臨床試験では試験薬のノシーボ効果として不眠や悪心、食欲不振などが報告されています。

Bolt と Kiesswetter は化学物質過敏症においては、不安などに感受性が高いグループが、臭い刺激によるノシーボ効果で身体症状を呈している可能性があると説明しています。

興味深いことに、 Araki らが行った介入研究では、 多くの化学物質過敏症の患者さんは香水や芳香剤の臭いを不快としているにもかかわらず、天然の植物から得られる精油の香りには寛容でした。

精油が受け入れられたのは、天然(自然)な香りであるという受け止めがその背景にあったからではないかと考えられます。

化学物質過敏症は、シックハウス症候群と似ているように取り扱われることがありますが、これ まで紹介したように、低濃度の化学物質が患者さんの多彩な症状を引き起こしているとする客観的な根拠がありません。

一方で、化学物質過敏症は身体表現性障害の診断基準を満たすことから、そ れらの疾病が背景にあるとする意見もあります。

前述したとおり最近、内外から二重盲検法で化学物質に起因することは否定される論文が編出ていることを考慮して、また職場や家庭 でも種々のストレスが重なる場合を考慮して、適切な診断とケアを進めることが患者さんのために も必要と思われます。

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このまとめ方には違和感を覚える私なのだが・・・?

『内外の研究では、「いわゆる化学物質過敏症」なるものを証明できるものは一切ないんだが、まあまあ、そうは言っても、症状を訴える人がいるんだから、そこんとこは、ホレ、ちゃんと、国もにケアしてますよとアピールしたほうが良いんじゃないの?』

こんなふうに読めてしまう私は天邪鬼なのだろうか?

次回へ・・・。