前回、抗生物質のお陰で、人類の脅威であった結核、ペスト、チフス、赤痢、コレラなどの伝染病から救うことができ、人類の平均寿命は飛躍的に延びた・・・ということを書いた。
では、抗生物質が使用される以前は、どのように対処していたのだろう?
化学療法薬であるサルファ薬という合成抗菌剤が使用されていた。
難しい解説は省くが、サルファ薬も病原体にのみ選択的に作用するという特性を持っていた。
日本でも、終戦直後に赤痢が流行した際、有効な治療薬として各所で多用されたようである。
しかし、しばらくすると、サルファ薬の効かない赤痢菌が出現し始め、1950年頃には赤痢菌の80%がサルファ薬に耐性を持つ菌となってしまう。
この赤痢の大流行は、抗生物質(ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン)の使用により、なんとか抑えることが出来た。
ところが、残念なことに、1957年頃から赤痢菌はこれらの3種類の薬剤に対しても耐性を持ち始める。
仕方がないのでアンピシリンやカナマイシンという新しい抗生物質が使用される。
しかし、ペニシリン→ストレプトマイシン→クロラムフェニコール→テトラサイクリン→アンピシリン→カナマイシンと6つの抗生物質に耐性を持つ、六剤耐性赤痢菌まで登場させてしまうのである。
では、何故、赤痢菌は耐性を持つことが出来たのか?
細菌は投与された抗生物質を化学変換したり、自分自身の構造を変えたりして対抗しているのである。
しかも、多剤耐性菌を調べて、驚愕の出現メカニズムが解ったのである。
耐性菌は、上に書いたように、一剤ずつ順番に耐性を獲得するのではなく、一挙に多剤耐性となるための遺伝子を種の壁を超えてお互いにやりとりし、耐性を広げていたのである。
分かり易く解説すると、四つの薬剤に耐性を持つ大腸菌と普通の赤痢菌を混ぜておくと、耐性遺伝子が受け渡され、耐性を持っていなかった赤痢菌も四つの薬剤に耐性を持つようになるのである。
現在使用している抗生物質が効かなくなれば、人類は菌類へ対抗して、次から次へと新しい抗生物質を開発していくしかない。
果たしてそうなのだろうか?
人類が新しい抗生物質を作れば作る程、強くて耐性を持つ菌を生み出しているのである。
それも、抗生物質を使用することにより、本来、人間にとって必要な弱い菌を殺し、人間にとっては有り難くない強い菌を更に鍛えているのである。
人類は、交通網の発達により、簡単に諸外国へ移動できるようになった。
人類が移動できるようになったということは菌類も移動できるようになったということである。
日本では、医師の処方箋がなければ抗生物質を手に入れることは出来ない。
(・・・とは言え、医師が安易に抗生物質を処方しているという事実は否めない)
これが、インドに行くと簡単にドラッグストアで手に入れることが出来る。
つまり、簡単に一般家庭で、多剤耐性菌を製造出来うるということである。
そして、今月6日、インドから帰国した男性から、国内で初めてスーパー耐性菌が検出された。
スーパー耐性菌とは、NDM1という酵素を持つ耐性菌のことである。
NDM1とは、ほとんどの抗菌薬を分解してしまう酵素で、この酵素の遺伝子と大腸菌や肺炎桿菌(かんきん)が結びつくと、感染した患者の治療が難しくなる。
そして、この細菌の怖さは、病院内だけでなく健康な人の間でも広がる可能性があるということである。
この酵素を備えた細菌がインドで発見された後、同国で手術を受けた患者を通じてイギリスやアメリカで広がっている。
先月にはベルギーで初の死者が報告された。
果たして日本は・・・?