前回の続き・・・。
4⃣ 自分らしい生活を続けるためにできること
ⅰ ) つらさの伝え方
● 辛さを我慢しないことが大切
・‟がん”によるつらさを長い間我慢すると、夜眠れなくなる、食欲がなくなる、体の動きが制限される、気分がふさぎがちになるなど、生活に支障が出てくる。
・痛みや吐き気などの症状は、軽いうちに治療を始めれば、短期間で十分に和らげることができるので、症状があるときには早めに医師や看護師に相談した方が良い。
・つらさは、本人にしかわからなので、具体的に「いつから」「どこが」「どのようなときに」「どんなふうに」「どのくらい」つらいのかを、医師や看護師に伝えるようにする。
・症状が日常生活のどんなところに影響しているか、使った薬の効果はあったかなどを伝えると、治療の目標がより明確になる。
・状況を伝えやすくするために、次の図のような症状日誌などを作って診察時に持参することが推奨される。
・症状日誌は、どのような形でも良いので、日時、つらさの度合、症状、疑問や気がかりなこと、対応やその効果などを記しておく。
・体調により自分で書くことが難しい場合には、周りの人の協力を得られるようにしておく。
【記入例】
( 1 ) 痛みについて
・痛みはよくみられる症状の 1 つで、「痛みが出たのは‟がん”が進行しているからではないか?」と心配することもあるかもしれないが、‟がん”以外の原因でも痛みは出ることがあり、必ずしも‟がん”の進行に関係しているわけではない。
・痛みは我慢しない!
・痛みを治療せずに我慢していると、いつも痛みが気になったり、体力を消耗したりして日常生活に支障を来す。
・痛みは本人にしかわからないため、症状がある場合は自身の言葉で担当医に伝えることが大切であり、その上で適切な治療を受けた方が良い。
( 2 ) 原因
・痛みの原因は‟がん”そのものである場合が多いが、手術や‟薬物療法”など、‟がん”の治療に伴って痛みが起こることもあり、また、関節炎や胆石症など、‟がん”以外の病気によって痛みが生じる場合もある。
( 3 ) 痛みが起きときには
・痛みを抑える治療は、‟がん”に対する治療とともに行い、‟薬物療法”をはじめ、‟放射線治療”、‟神経ブロック療法”など、さまざまな方法があるが、主に内服薬の鎮痛薬を規則正しく用いる‟薬物療法”を行う。
・ただし、その人ごとに痛みの強さや種類が異なるため、一人一人に合った薬、合った量を使う。
・急に痛みが強くなったときには頓服薬を使い、鎮痛薬には、内服薬のほかに貼り薬や坐薬などもある。
・副作用として、便秘、吐き気、眠気などがあらわれることがある。
・副作用が生じた場合、副作用を軽くする薬をのむ、鎮痛薬の種類を変えるなどの対処法があるので、担当医に伝える。
・鎮痛薬に対して、「がんの治療に悪影響がある」「できるだけ少ない量で我慢したほうがよい」「麻薬系の鎮痛薬を使うと依存症になる」などと誤解している人もいるが、麻薬の成分は、痛みがある状態で使うと、痛みにのみ働き、精神や身体の依存を引き起こすことはないので、使い続けることで依存症を起こすようなことはない。
・薬を使って痛みを抑えることは、‟がん”の治療を継続する助けになりるので、心配なことは担当医、薬剤師、看護師に相談する。
( 4 ) 本人や周囲の人が出来る工夫
・いつから、どのあたりが、どの程度、どんなときに、どのように痛かったのかを伝えられるようにしておく。
・急に痛みが出てきたときは早めに頓服薬を使う。
・体を温めたり、反対に冷やしたりするなど、痛みが和らぐ方法を生活に取り入れる。
・痛みを感じている部分に負担がかからないような楽な姿勢や生活方法を心がける。
【伝え方の工夫】
➡痛みを伝えるときには、次のような表現も参考にすると良い。
・鈍い痛み
・ズキズキするような鋭い痛み
・ズキンズキンと脈を打つような痛み
・電気が走るような、ビリビリする痛み
・針で刺すような、突き刺すような痛み
・ギュッと締め付けられるような痛み
・焼けつくような痛み
・こるような痛み
( 5 ) こんなときは相談する
・これまでと違う痛みを感じる、鎮痛薬を使ってもきかない、痛みが強くなったと感じるなどの場合は担当の医師に相談してください。
・痛みのために日常生活で困っていることがあれば遠慮せずに伝える。
( 6 ) 医療用麻薬について
・‟がん”による痛みがあり、その治療のために医師から処方された医療用麻薬を使うときには、依存や中毒は起こらないので、安心して治療を受けてよい。
・痛みが和らぐことで、ぐっすりと休むことができ、生活しやすくなる。
・‟がん”による痛みは、多くの人が経験する症状だが、‟緩和ケア”によって、 80% 以上の人の痛みが和らいだという報告がある。
・日本では、医療用麻薬に対して、「依存性がある」「最後の手段である」という誤ったとらえ方をしている人が多いようだが、医療用麻薬について不安なことがあるときには医師や薬剤師に相談すると良い。
ⅱ ) 自分らしい過ごし方
・どのような状況であってもできる限り自分らしい生活を続けていくために、家族や、担当の医師、看護師、薬剤師などの身近な医療者に自分の気持ちを伝え、どのような治療を受けるのか、どこで‟緩和ケア”を受けるのかを一緒に選ぶことが大切である。
・その際、どのように過ごしていきたいのかという自分の気持ちを伝え、体調や時期によって、この選択でよかったのだろうかと気持ちが揺らぐこともあるかもしれないが、そのようなときは、揺らいだ気持ちも遠慮なく伝えた方が良い。
・あなたの気持ちを大切にしてもらえ、あなたが‟緩和ケア”の中心であることを常に心に留めておく。
・人それぞれ、大切にしたいことは異なり、患者本人が希望する生活を実現していくためには、‟がん”の治療を受けているときから、今後のことについて家族や医療者と話し合っておくことが大切であるといわれている。
・普段から家族とよく話し合っておき、体のことや治療法についてわからないことは担当の医師に聞いておくことも大切である。
・お住まいの地域の療養場所に関する情報は、がん相談支援センターでも得ることができる。
5⃣ 家族への緩和ケア
・‟がん”になると、家族も大きなショックを受けるものの、家族は、「本人はもっとつらいのだから」と気持ちを抑えてしまうことも少なくない。
・その一方で、日常生活も維持していく必要があるため、家族も心のつらさをはじめとしたさまざまな負担を抱えることから、「第二の患者」といわれることもある。
・‟緩和ケア”は患者本人だけでなく、家族に対しても行われ、さまざまな医療者がチームを組んで支援してくれるので、家族が、担当の医師や看護師、その他の医療者に自分のつらさや困りごとを相談しても構わない。
・家族が自分自身の気持ちや体をいたわり、生活を大切にすることは、ご本人を支えることにもつながり、困難な状況で周囲の力を借りることは大切である。
・地域のがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでは、緩和ケアに関する情報を得ることができ、家族も無料で相談することができる。
・施設によっては、家族外来といって家族専用の外来が設置されている場合があり、ここでは、患者本人へどのように声をかけてよいのかわからないといった悩みや、介護などによる体調不良、大切な人を亡くしたことに対するケア(グリーフケア)など、さまざまな支援を行っている。
・家族ケア外来、グリーフケア外来、遺族外来など、医療機関によって呼び方はさまざまです。家族の希望に沿ったサポートを受けることができるので、利用してみてください。