前回の続き・・・。
今回は、実際に“人食いバクテリア”に感染された方の症例を取り上げてみる。
“劇症型溶血性レンサ球菌感染症”は、強毒化したレンサ球菌が皮膚や粘膜のキズから侵入し、筋肉や血液、脂肪組織など菌が存在しない部位に達して発症するとされている。
その症状は、次のように進行して行く。
1.強毒化したレンサ球菌が傷口から侵入
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2. 傷口が酷く痛んだり腫れたりする
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3. 39℃ を超える発熱や意識障害に陥る
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4. 傷口から筋肉の壊死が始まる
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5. 肝臓や腎臓、心臓などさまざまな臓器が機能しなくなる
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6. 致死率は 30 ~ 70% に達する
恐ろしいのは壊死のスピードで、痛みや腫れに気づいてから早ければ1日で壊死が始まるそうだ。
壊死が広範囲になれば、手足を切断するしか命を救うことができない・・・(´皿`;)
では、実際に罹患した人の体験談である。
以下、CBC ニュースより。
(本人提供)
愛知県小牧市に住む U・Y さんが感染症に罹ったのが 8 年前という。
「親指が、もっと腫れてきて。手全体が腫れだして握れない状況になってきて。(医師から)『手術になる』『命に関わる』『もう腕を切るかもしれない』と言われたときに、この痛みから解放されるのであれば、もうなんでもいいって」
☝ 右手の親指にできた「腫れ」は 2 ~ 3 時間で手の全体に広がり、痛みに耐えられなくなった U さんは小牧市内の病院を受診したそうだ。
医師の診断は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」。
(Q:診断された時の気持ちは?)
全く知らなくて『は?』っていう。夫婦で『なんですか、それは』という感じ。
「右手が動かなくなるかもしれないので、左手で書く練習をした」と語る U さんは、 2 ケ月間入院し、壊死した部分を切除し洗浄したうえで、太ももの皮膚を移植する手術を合わせて 7 回うけ、 3 ケ月のリハビリを乗り越えたという。
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U さんは、「感染経路は、はっきり分からない。」と語っている。
以下、 NHK ニュースより。
妊娠中に劇症型溶連菌に感染した 40 代の女性が「自分の経験が誰かの命を救うことにつながるなら」と、匿名を条件に取材に応じてくれたそうである。
症状が出てから半日で急激に症状が進み、母子ともに命の危機に直面したときの経験談である。
体に異変を感じたのは、妊娠後期の 38 週のころ。
女性:「朝起きたときに熱はなかったのに、朝食を作り終えるころ急に高熱が出て、激しい倦怠感も出てきました。」
インフルエンザを疑い、最寄りの内科を受診。
しかし、インフルエンザは陰性。
そのとき、もう一つ気がかりだったのは「胎動が弱くなっている」と感じたこと。
かかりつけの産婦人科に相談すると、様子を見るようにと告げられ経過観察となったそうだ。
しかし、夕方になると立っていられないほど体調が悪化。
肩で息をするように呼吸が苦しくなり、意識がもうろうとしはじめ、腹痛も出てきたため産婦人科を受診。
女性:「医師から“おそらく胎盤の剥離が起きていて、ここでは処置ができない。大きな病院に救急搬送になる”と言われて。その後、救急車に乗ってから記憶がありません。」
このあと、女性は 5 日間意識を失ったままだったという。
搬送された県立広島病院で、診療にあたったのが産婦人科の三浦聡美医師。
三浦医師:「本当に瞬く間に、急速に症状が進んでいって。これまでに経験したことがない病態でした。」
到着した女性の意識レベルは低下し反応がなく、胎児の心拍も低下していたことなどから、常位胎盤早期剝離を疑い、病院到着後10分で緊急の帝王切開が行われた。
胎児を無事に取り出すことはできたものの、子宮の出血が止まらなかったという。
三浦医師:「複数の医師で対応したのですが、1人が子宮に乗って血を止めて、もう1人が輸血に走るという明らかに異常事態でした。」
その後、女性は集中治療室に移り輸血などの全身管理に加え、発熱が続いていたため抗生剤管理を開始。
それでも心臓や腎臓、肝臓などの機能も低下し、一時は心停止するなど予断を許さない状況が続いた。
医師は菌の検出のための血液培養検査を実施していたが、検査結果はすぐには出なかったという。
結果が出た翌日、溶連菌が検出されたことから“劇症型溶連菌感染症”と診断。
治療開始。
術後 5 日目、女性の意識は戻り、 8 日目には病状が改善。
女性の症状からは常位胎盤早期剝離を疑われ、母子の命を救うためその処置が優先して行われた。
妊婦、そして胎児が一刻を争う事態のなかで並行して“劇症型溶連菌感染症”を疑い、迅速に治療を開始することは容易ではないものの、いかに異変を察知できるかが重要だそうだ。
三浦医師:「手術後、集中治療室で救急科を中心に全身管理を行えたことが救命につながったと思います。ただ、発熱や激烈な症状の進行を認めた時点で劇症型を念頭に置き“おかしいかも”と気づけるようにしておきたいです。」
女性は、約 1 ケ月間入院し、母子ともに一命をとりとめ退院した。
女性:「いまは 2 人とも元気に暮らしています。とにかく 2 人とも生きていて良かった。助かったのも奇跡のようなもので、先生たちには本当に感謝しています。」
回復したあと医師から“妊婦はそもそも免疫が下がっていてあらゆる感染症に注意が必要”と知らされたが、以前はそのような自覚は全くなかったという。
女性:「発症した当時を思い返すと、上の子どもが風邪気味でした。“妊婦の免疫が低い”ということも知らなかったのですが、もし知っていれば、もう少し感染対策に注意できたかもしれません。」
日本産婦人科医会が発行している提言書では、妊婦の“劇症型溶連菌感染症”を発症した患者は、子供のいる家庭に多く、早期介入のために家族の風邪症状を聞き取ることも重要だと指摘されているそうだ。
三浦医師は、妊婦の劇症型溶連菌の症例は聞いたことがあったものの、自ら治療したのは初めてだったらしい。
三浦医師:「知っているか知っていないかで、治療の判断と救命に大きな差が出ると思います。」
どこにでもあるバクテリアである。
感染したら、如何に早く対処するかが運命を分ける。
次回へ・・・。