「真実の口」2,188 人食いバクテリア①

最近、巷を騒がしている劇症型溶血性レンサ球菌感染症、人呼んで“人食いバクテリア”について寄稿する。

溶血性連鎖球菌(いわゆる溶連菌)には、多くの種類があり、一般的には急性咽頭炎(のどの風邪)などを引き起こす細菌として知られているが、まれに引き起こされることがある重篤な病状として、劇症型溶血性レンサ球菌感染症( STSS )がある。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、突発的に発症し、敗血症などの重篤な症状を引き起こし、急速に多臓器不全が進行することがある重症感染症であり、その死亡率は約 30% とされているが、重症化するメカニズムはまだ解明されていないのが現状で得ある。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、 1987 年にアメリカで最初に報告され、その後、ヨーロッパやアジアからも報告されている。

日本における最初の典型的な症例は、 1992 年に報告されており、毎年 100 ~ 200 人の患者が確認されている。

そして、こ のうち約 30% が死亡しており、きわめて致死率の高い感染症である。

主な病原体は、 A 群溶血性連鎖球菌である。

A 群溶血性連鎖球菌感染による一般的な疾患は咽頭炎であり、その多くは小児が罹患する。

一方、“劇症型溶血性レンサ球菌感染症”は、子供から大人まで広範囲の年齢層に発症するが、特に 30 歳以上の大人に多いのがひとつの特徴である。

以前、私が人食いバクテリアとして取り上げたのが、 2020 年 10 月である。

その際のデータは以下のように記している。

日本における“劇症型溶血性レンサ球菌感染症”は、 1992 年に報告されて以来、 2000 年以降徐々に増加傾向にあるという。

1999 年・・・ 21 名
2000 年・・・ 44 名
2001 年・・・ 46 名
2002 年・・・ 92 名
2003 年・・・ 52 名
2004 年・・・ 52 名
2005 年・・・ 60 名
2006 年・・・ 104 名
2007 年・・・ 93 名
2008 年・・・ 104 名
2009 年・・・ 103 名
2010 年・・・ 122 名
2011 年・・・ 197 名
2012 年・・・ 242 名
2013 年・・・ 203 名
2014 年・・・ 268 名
2015 年・・・ 415 名
2016 年・・・ 494 名
2017 年・・・ 587 名
2018 年・・・ 694 名
(国立感染症研究所より)

今回、これ以降の感染数を追ってみる。

2019 年・・・ 894 名
2020 年・・・ 718 名
2021 年・・・ 622 名
2022 年・・・ 708 名
2023 年・・・ 941 名(※速報値)

以下、『国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について( 2024 年 6 月時点)-国立感染症研究所-』より

2024 年第 1 ~ 24 週( 2024 年 1 月 1 日~ 6 月 16 日)までに診断され、感染症発生動向調査に届け出された“劇症型溶血性レンサ球菌感染症”例は 1,060 例に上り、 1999 年に感染症発生動向調査を開始して以降、最も多い届出数となっている。

国内では、感染症発生動向調査において“劇症型溶血性レンサ球菌感染症”の患者数、死亡者数を集計しているが、今年 3 月までに届けられた一部の症例 335 人のうち、 77 人が亡くなっているそうだ。

死亡率 22.98% である。

感染症例の内訳は、 A 群が 656 例、 B 群が 114 例、 C 群が 10 例、 G 群が 222 例、その他/不明 58 例であり、 A 群による届出が最も多かった。

また、過去 6 年間における、“劇症型溶血性レンサ球菌感染症”届出数全体に占める A 群による届出数の割合は約 30% ~ 50% 程度だったが、 2024 年は 62% と割合が上昇している。

2024年のA群溶血性レンサ球菌による“劇症型溶血性レンサ球菌感染症”症例は、 656 例が届出され、過去 6 年間( 2018 年~ 2023 年)で最も届出数が多かった。

性別は、男性 377 例( 57% )、女性 279 例( 43% )となっている。

年代内訳は・・・。

10 歳未満・・・ 15 例( 2% )
10 代・・・・・ 8 例( 1% )
20 代・・・・・ 11 例( 2% )
30 代・・・・・ 55 例( 8% )
40 代・・・・・ 87 例( 13% )
50 代・・・・・ 98 例( 15% )
60 代・・・・・ 132 例( 20% )
70 代・・・・・ 140 例( 21% )
80 代以上・・・ 110 例( 17% )

下の表は、“劇症型溶血性レンサ球菌感染症”として届出された症例のうち A 群溶血性レンサ球菌による症例の年代およびその割合である

劇症型溶血性レンサ球菌感染症として届出された症例のうちA群溶血性レンサ球菌による症例の年代およびその割合

2023 年 7 月以降、 30 代以上で届出数が多い

また、死亡例として届出された症例は 149 例ある。

性別は、男性 87 例( 58% )、女性 62 例( 42% )。

年代内訳は・・・。

10 歳未満・・・・ 0 例( 0% )
10 代・・・・・・ 0 例( 0% )
20 代・・・・・・ 2 例( 1.3% )
30 代・・・・・・ 12 例( 8.0% )
40 代・・・・・・ 16 例( 10.7 % )
50 代・・・・・・ 16 例( 10.7 % )
60 代・・・・・・ 34 例( 22.8% )
70 代・・・・・・ 36 例( 24.1% )
80 代以上・・・・ 33 例( 22.1% )

また、都道府県別の届出数は、東京都、埼玉県、愛知県、神奈川県、千葉県の順に多く、関東地方からの届出が多かった。

なお、発生動向調査において届出時に死亡報告があるものが原則として集計されており、届出後に死亡した例は含まれていないことに注意が必要としている。

推定感染経路は・・・。

創傷感染・・・ ・・・288 例( 44% )
感染経路不明・・・・227例( 35% )
飛沫感染・・・・・・ 59 例( 9% )
接触感染・・・・・・ 24 例( 4%)

創傷感染や感染経路不明が多かった。

次回へ・・・。