前回の続き・・・。
今回は、 2 度目 PHECS 宣言までにエムポックスがどのようにして広まったかを見てみる・・・。
学術誌「 PLOS Neglected Tropical Diseases 」に 2022 年 2 月 11 日に掲載された Eveline M. Bunge 氏らの研究である。
The changing epidemiology of human monkeypox—A potential threat? A systematic review
☞ ヒトサル痘の疫学の変化 – 潜在的な脅威か? 系統的レビュー
エムポックス(サル痘)という名前は、 1958 年にデンマークの研究所でカニクイザルからウィルスが初めて発見されたことに由来している。
ヒトでの最初の症例は、 1970 年にザイール(現在のコンゴ民主共和国: DRC )で 9 ケ月の男児だった。
それ以来、エムポックスはコンゴ民主共和国で風土病となり、主に中央アフリカと西アフリカの他のアフリカ諸国に広がった。
アフリカ以外では、最初に報告されたサル痘症例は 2003 年であり、このシステマティックレビューの時点では、一番最近の症例は 2019 年だった。
ナイジェリアやその他の地域からの報告が最近増加していることを考慮して、 1970 年代の最初の症例から現在までのエムポックスの疫学の進化の変化に焦点を当てた新しい系統的文献レビューを開始した。
1970 年代には、コンゴ民主共和国、カメルーン、コートジボワール、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネの 6 つのアフリカ諸国で合計 48 件の確定症例と疑い症例が報告され、そのほとんどがコンゴ民主共和国での発生だった。
1980 年代には、 1970 年代と比較して、コンゴ民主共和国におけるエムポックスの確定症例および疑い症例の数が 9 倍に増加し、さらに、 14 件の症例が他のアフリカ 4 ケ国に広がった。
1990 年代も症例は増加し続け、コンゴ民主共和国では確定症例、疑い症例、および/または可能性のある症例が 511 件、ガボンでは確定症例が 9 件報告された。
2000 年から 2009 年の間に、エムポックスの症例は 3 つのアフリカ諸国(コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、南スーダン)で報告された。更に、アメリカでも感染が報告された(理由は後述)。
2010 年から 2019 年の間には、 7 つのアフリカ諸国(カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネ、コンゴ共和国)で症例が見つかった。アフリカ諸国以外でも感染症例が報告された(理由は後述)。
20 世紀の最後の 30 年間と比較すると、 2000 年時点での発生は症例の総数が多く、個々の症例の報告は少なかった。
コンゴ民主共和国はエムポックスの影響を最も受けている国であり、過去 50 年間に継続的にエムポックスの症例を報告した国は他にはない。
しかし、 2000 年の時点では、 2000 ~ 2009 年と 2010 ~ 2019 年に示すように、確定症例、可能性例、および/または可能性のある症例ではなく、疑い例の数が主に報告されていた。
最近では、 2020 年 1 月~ 9 月の間に、コンゴ民主共和国でさらに 4,594 件の疑い例が報告された。
2 番目に被害が大きい国はナイジェリアで、 2017 年 9 月に始まった流行により 181 件(※注 1) の確定症例と可能性例が発生している。
(※注 1) ナイジェリア CDC 報告書には 183 件の症例が記載されているが、ナイジェリア発の 2 件の症例はイスラエルとシンガポールで診断されており、それぞれの国での旅行関連イベントとみなされている。また、ナイジェリア発の 3 件の英国症例は、ナイジェリア CDC 報告書の 183 件の症例には含まれていない。
エムポックスの確定症例、疑い症例、および/または可能性症例で 3 番目と 4 番目に多い感染国は、コンゴ共和国( 97 例)と中央アフリカ共和国( 69 例)である。
他のすべてのアフリカ諸国では、過去 50 年間の確定症例と疑い症例の合計はそれぞれ 20 件未満であった。
エムポックスは、 2003 年にガーナから輸入された感染したエキゾチックアニマルからエムポックスウィルスに感染したペットのプレーリードッグとの接触後に米国で 47 件の確定例または疑い例の発生が発生するまで、アフリカ以外では報告されていなかった。
近年、旅行に関連したエムポックスの症例が数件発生しているが、すべてナイジェリアでの曝露に起因している。
2018 年にはイスラエルで 1 件、イギリスで 3 件( 2018 年に 2 件、 2019 年に 1 件)、 2019 年にシンガポールで 1 件の症例があった。
イギリス( 2018年 )での 4 件目の症例は、医療従事者への院内感染によるものだった。
何故、コンゴ民主共和国を中心に拡がったのか?
これは、子ども中心とした“ブッシュミート”を起点に細々と感染が広がっていたと考えられているようだ。
“ブッシュミート”とは文字通り、森林地帯の野生動物の肉を食用にするものである。
エムポックスのウィルスがどの動物により保たれているかは不明だが、野生ではリスが持っていると疑われているそうだ。
食事をまともに摂ることが出来ない環境、つまり、経済的な困窮が影響していると見られている。
コンゴ民主共和国の研究によると、 30 代よりも 10 代の方がリスを食べた経験があると回答しているそうだ。
経済的な困窮などを背景に、若い層が“ブッシュミート”に手を伸ばしているという現実があるようだ。
コンゴ民主共和国では、エムポックスの感染者の半数が 15 歳未満と報告されているが、それはエムポックスウィルスを持つ“ブッシュミート”に接する機会が多い年代であることが関連すると考えられている。
コンゴ民主共和国では、エムポックスの症状が主に顔に出たというのは、食習慣と関係したことが予想される。
しかも、種痘の廃止に伴い、天然痘と同じウィルス属に分類されるエムポックスのウィルスに対する免疫が低下し、種痘の接種を受けていない 40 代より下の世代には感染しやすくなっているのではないかと見られている。
ここまでが、第一回目の PHECS 宣言前である。
次回へ・・・。