「真実の口」2,220 エムポックス⑩

前回の続き・・・。

エムポックスの恐怖心を煽るばかりでなく、今回は、感染予防策を講じたいと思う。

以下は、国立感染症研究所から出されている予防策である。

【感染予防策】

エムポックスは、接触感染や飛沫感染を起こすが、日常生活の中で空気感染を起こすことは確認されていない。

ただし、空気感染を起こすと考えられている麻しんや水痘との臨床的な鑑別が困難であるため、発熱と発疹がありそれらの感染症が否定できない間は、エムポックス疑いの患者には空気予防策の実施が求められる。

医療従事者がエムポックス確定患者に接する場合(検体採取時含む)は、患者を換気良好な部屋に収容し、 N95 マスク、手袋、ガウン、眼の防護具を着用する(患者のリネン類を扱う者や清掃担当者も同様)。

患者が使用したリネン類は、診断が確定するまでなるべく触れずに管理し、診断が確定してから適切な処理を行う。

エムポックスが確定したら、リネン類は、前述の個人防護具を着用して自身の粘膜に触れないように運搬し、通常の洗剤を用い常温で洗濯を行う(※注 1 )

(※注 1 ) WHO 、 USCDC (アメリカ疾病予防管理センター)、 UKHSA (英国保健安全保障庁)では、温水による洗浄を推奨している。

手指衛生を頻回に行い、特にリネン類を扱った後は必ず手指衛生(流水と石鹸による手洗い、又は擦式アルコール性手指消毒薬での消毒)を行う。

患者が滞在する、又は滞在した環境は通常に清掃を行い、その後消毒(エンベロープウィルスに対して強い消毒効果を発揮する薬剤・消毒用エタノール等)を行う。

廃棄物は感染性廃棄物として扱う。

エムポックス疑い例やエムポックス患者は、可能な限り不織布マスクを着用し、水疱を含む皮膚病変はガーゼなどで被覆する。

エムポックス疑い例やエムポックス患者は、自宅等の滞在場所では、以下に留意する。

患者は同居人と肌や顔を接しないようにし、リネン類の共有を避ける。

患者が使用したリネン類は、病変や体液からの感染性粒子が飛散する可能性があるため、不用意に振り回したりせず、静かにビニール袋等に入れて運搬し、洗濯機に入れる。

洗濯した後は再利用可能である。

ベッド、トイレ、患者が接触した場所(家具や床など)は、使い捨て手袋を着用して清掃し、その後消毒薬で清拭する。

清掃や消毒後は手指衛生を行う。

患者が使用した食器や調理器具は、石鹸や洗剤等で洗った後に再利用可能である。

常に十分な換気を行うよう配慮する。

全ての皮疹が痂皮となり、全ての痂皮が剥がれ落ちて無くなるまで(概ね 21 日間程度)は上記の感染対策を継続する。

言うまでもないが、風俗産業や不特定多数との性行為はもっての外である(笑)。

【 治療と診断 】

( 1 ) 臨床症状:

・発熱、頭痛、リンパ節腫脹などの症状が 0 ~ 5 日程度持続し、発熱 1 ~ 3 日後に発疹が出現。

・リンパ節腫脹は顎下、頸部、鼠径部に見られる。

・皮疹は顔面や四肢に多く出現し、徐々に隆起して水疱、膿疱、痂皮となる。

・多くの場合 2 ~ 4 週間持続し自然軽快するものの、小児例や、あるいは曝露の程度、患者の健康状態、合併症などにより重症化することがある。

・皮膚の二次感染、気管支肺炎、敗血症、脳炎、角膜炎などの合併症を起こすことがある。

・エムポックスでは手掌や足底にも各皮疹が出現することなどが、水痘との鑑別に有用とされる。

※ 2022 年 5 月以降の欧米を中心とした流行では、以下のような、従来の報告とは異なる臨床徴候が指摘されている

・発熱やリンパ節腫脹などの前駆症状が見られない場合があること

・病変が局所(会陰部、肛門周囲や口腔など)に集中しており、全身性の発疹が見られない場合があること

・異なる段階の皮疹が同時に見られる場合があること

( 2 ) 診断:

・水疱や膿疱の内容液や蓋、あるいは組織を用いた PCR 検査による遺伝子の検出

・その他、ウィルス分離・同定や、ウィルス粒子の証明、蛍光抗体法などの方法が知られている。
 
( 3 ) 治療:

・対症療法

・国内で利用可能な薬事承認された治療薬はない。

・欧州においては、特異的治療薬としてテコビリマットが承認されており、我が国においても同薬を用いた特定臨床研究が実施されている。

【 ワクチン 】

天然痘ワクチンにエムポックスの予防効果があると考えられている。

現時点の国内では、エムポックスの予防を目的とした接種は一般的にはされていないが、エムポックスに感染している方との接触者を対象とした臨床研究での接種がされている。

なお、天然痘ワクチンは、天然痘が撲滅された現在では通常は接種されておらず、日本の 1976 年生まれよりも若い世代は、天然痘ワクチンの接種歴がない。

【 考察 】

現段階では、接触感染及び飛沫感染のみの感染経路だが、コロナのように変異して空気感染を引き起こすようになれば、再び、世界的にパンデミックが起きないとも限らない。

限定されている地域からの感染拡大を防くことが急速な課題である。

次回へ・・・。