前回の続き・・・。
前回、市立四日市病院内科に救急外来で受診し、高病原性肺炎桿菌で亡くなられた 59 歳・男性の症例を報告した。
今回は、この症例に関わった医師らの考察である。
【 考察 】
高病原性肺炎桿菌は従来の細菌株より病原性遺伝子保有率が高く、健常者であっても重篤な経過をきたしうる。
消化管に保菌された肺炎桿菌が血流を介して、肝臓、眼、肺、中枢神経などの多臓器に播種することが特徴であり、致死率が高く、世界的な問題となっている。
既報では、 rmpA 、 rmpA2 、 iroBCDN 、 iucABCD 、 iutA のいずれかの遺伝子を保有する株が高病原性肺炎桿菌と定義されている。
(参考)Genomic analysis of diversity, population structure, virulence, and antimicrobial resistance in Klebsiella pneumoniae, an urgent threat to public health
☞ 公衆衛生に対する緊急の脅威であるクレブシエラ・ニューモニエの多様性、集団構造、毒性、抗菌薬耐性のゲノム解析
rmpA 、 rmpA2 は莢膜の産生を亢進させ、高病原性肺炎桿菌に特徴的なコロニーの高粘稠性に寄与する。
iroBCDN 、 iucABCD 、 iutA は鉄を外部環境から効率よく捕捉するシデロフォアシステムを構成し、細菌の増殖に関係する。
また、高病原性肺炎桿菌は、莢膜の構成多糖体の抗原性と multilocus sequence typing ( MLST )により分類される。
中国浙江省の大学病院で肝膿瘍から検出された高病原性肺炎桿菌 56 株の検討では、莢膜型は K1 ( 36 / 56 株)、 K2 ( 11 / 56 株)、および non-K1 / K2 ( 9 / 56 株)であった。
(参考) Diversity of virulence level phenotype of hypervirulent Klebsiella pneumoniae from different sequence type lineage
☞ 異なる配列型系統からの強毒性クレブシエラ肺炎菌の毒性レベル表現型の多様性
莢膜型 K1 では、 ST23 ( 34 / 36 株)が主であったが、莢膜型 K2 の場合、 ST は多彩で、 ST65 ( 3 / 11 株)、 ST86 ( 3 / 11 株)、 ST375 ( 3 / 11 株)などであった。
高病原性肺炎桿菌のスクリーニング検査として、 string test が報告されている。
(参考)A Novel Virulence Gene in Klebsiella pneumoniae Strains Causing Primary Liver Abscess and Septic Metastatic Complications
☞ 原発性肝膿瘍および敗血症性転移合併症を引き起こすクレブシエラ・ニューモニエ株の新たな毒性遺伝子
固形培地上のコロニーを微生物用のループで触れて牽引した際、 5mm 以上の糸を引いた場合、陽性と判定される。
近年の研究では、感度 70% 、特異度 90% 程度と報告されており、判定基準の定量性が低く、検査自体が菌株の保管条件や培養条件、実施環境によって影響を受けることが問題とされる。
高病原性肺炎桿菌は多剤耐性肺炎桿菌と遺伝的背景が大きく異なり、薬剤感受性は一般に良好とされていた。
しかし、 2010 年代以降,中国などから高病原性肺炎桿菌における多剤耐性株の増加が報告されるようになった。
2010 年から 2012 年にかけて中国の単施設で行われた研究では、高病原性肺炎桿菌株の 17% ( 5 / 29 株)が extendedspectrum β-lactamases ( ESBL )(※注 1 )産生菌であった。
(※注 1 ) 基質特異性拡張型βラクタマーゼ( extended-spectrum β-lactamase )の略称で、ペニシリンなどの β ラクタム環を持つ抗生物質を分解する酵素である。
(参考) Increasing occurrence of antimicrobial-resistant hypervirulent (hypermucoviscous) Klebsiella pneumoniae isolates in China
☞ 中国における抗菌薬耐性の強毒性(高粘液粘性)クレブシエラ肺炎菌分離株の発生増加
我国でも尿路感染症由来の IMP 型カルバペネマーゼ産生 K1-ST23 株が検出され、全ゲノム解析の結果、 IMP-6 遺伝子と CTX-M-2 ( ESBL )遺伝子を持つプラスミドを獲得したことが耐性機序として確認された。
(参考) Emergence of IMP-producing hypervirulent Klebsiella pneumoniae carrying a pLVPK-like virulence plasmid
☞ pLVPK様毒性プラスミドを有するIMP産生の強毒性肺炎桿菌の出現
K2-ST86 株による感染症 33 例の報告の集計では東南アジアからの報告が多く、中国 9 例,日本 5 例などで、大部分が入院症例であった。
肺炎が主で、その内訳は、市中肺炎( 9 例)、院内肺炎( 4 例)、菌血症( 3 例)、肝膿瘍( 3 例)などであった。
また、患者背景等が記述されている高病原性肺炎桿菌 K2-ST86 株による市中肺炎の報告はこれまで 9 例ある。
平均年齢は 59 歳で、男女比は 6:1 であった。
基礎疾患はアルコール依存症( 3 例)が最も多く、他、悪性腫瘍、糖尿病、関節リウマチが各 2 例、 1 例、 1 例であった。
菌血症( 7 例)、敗血症性ショック( 6 例)を合併したが、播種性病変は認めなかった。
抗生物質は第 3 世代セファロスポリン系製剤が主に選択され( 7 例)、薬剤感受性検査は ABPC 以外に耐性を示さなかった。
致死率は 60% で、死亡例は多臓器不全、播種性血管内凝固症候群を合併し、入院後 24 時間以内に死亡していた。
本例は、抗菌薬の投与歴、入院歴などがないため耐性菌のリスクが低く、抗生物質投与 6 時間後に採取した喀痰グラム染色では観察できるグラム陰性桿菌が減っていたため、抗生物質は変更しなかった。
既報と同様に、起炎菌は感受性菌であったが、敗血症性ショックを合併し短期間に死亡した。
ST86 株による市中肺炎の死亡例は年齢、基礎疾患にかかわらず認めており、救命には集中治療室での集学的治療を早期に行うことの重要性が示唆された。
以上。
如何だろうか?
市立四日市病院に救急搬送されて亡くなられた方は、自覚発症後、 1 日と 9 時間で死に至っている。
統計でも、 60% が 24 時間以内に亡くなっている。
殺す技術を使う限りは、次から次へと人間の脅威となるウィルスや菌が生まれてくる。
そろそろ気付くべきでは無いだろうか?
殺す技術から生かす技術への転換に・・・。