前回の続き・・・。
『介護殺人 殺人事件の「告白」』シリーズ第三回目は、12月9日、『昼夜叫ぶ夫を「楽に」』というタイトルで掲載された。
サブタイトルは、「トイレ 1日数十回」。
※2007年 地域:大阪府 加害者:妻(62) 被害者:夫(65)
【介護の状況】:脳梗塞で左半身が麻痺し、認知症の症状も併発。一日数十回のトイレに、毎度、夫を抱えて連れて行き、昼夜問わず大声でわめく夫に寝る間もなく、肉体的・精神的に限界を感じた。
記事の内容は、前回同様、要約して、時系列を並び替えてある。
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知人の紹介で出会った2人は、1970(昭和45)年に結婚。
夫は、塗装業を営み、女性は、専業主婦として2人の子を育てる。
夫は、年に何回か必ず家族旅行に連れて行き、琵琶湖畔でのキャンプへも・・・。
孫娘が生まれると溺愛。
一緒に大阪市天王寺動物園に連れて行き、てっちり(ふぐ鍋)を囲む。
しかし、事件の数年前から不況に見舞われて仕事が激減。
酒に溺れた夫は、体をこわし、借金を抱える。
2005年、夫が脳梗塞を患い左半身に麻痺が残る。
認知症も併発。
2007年初頭、夫のトイレの回数が1日数十回に。
「おーい。」
夜中に何度も起こされ、女性は夫を抱えてトイレに連れて行く。
「何か食わせろ。」
明け方までの咆哮が日常茶飯事。
週3回、午後4時までデイサービスに通わせたが、他は女性が、昼夜、世話をする。
事件当日の昼過ぎ。
歩行器で自宅内を移動していた夫が転倒。
「痛い、痛い。」
子供のように叫び続ける夫。
女性は夫を寝かせ、睡眠薬を飲ませる。
病院に連れて行く気はしない・・・。
以前、「騒ぐから。」とすぐ退院させられた経験があるから・・・。
うつぶせ状態の夫に馬乗りになって首にタオルを巻く。
首の後ろでタオルの端を交差させ、両手で思いっきり引っ張って絞め続ける。
事件当日の記憶は断片的。
息をしない夫をあおむけにして胸元で手を組ませ、顔にタオルをかけたことも覚えていない。
ぼうぜんとしていると、同居する長男(42)が仕事から帰宅。
慌てた長男は近くに住む長女(44)に知らせ、警察が来る。
「夫を楽にしてあげて、自分も解放されたかった。」
逮捕された女性の供述である。
「他に方法はあったやろ。」
取調室で若い検事に言われ・・・。
「検事さんには私の苦しみは分からん。」
・・と女性は泣きじゃくる。
殺人罪で懲役3年の判決を受けて服役。
「何であんなことしたか分からへん。ただ、寝る間もない介護で気が狂っていた。」
女性は、夫の命日の9月15日、夫の大好物だったおはぎを仏壇に供え、手を合わせた。
自宅の壁にはビニールプールではしゃいだり、バースデーケーキの前ではにかんだりする孫の写真が並ぶ。
どれも夫が撮影したものである。
女性は写真を眺め、夫や孫に申し訳ないと思った。
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介護保険では、夜間も対応する訪問介護サービスがある。
在宅介護を対象に、定期巡回と通報で駆けつけるサービスだ。
しかし、実施している事業所は全国で数百しかなく、利用者の費用負担も軽くはない。
厚生労働省によると、今年5月の利用者は、約18,000人に過ぎない。
家族が一時的に介護ができなくなった場合に、要介護者が施設に短期間入るショートステイもあるが、人手不足などで受け入れ態勢は十分ではない。
次回へ・・・。