前回の続き・・・。
≪“広域抗菌薬”第 3 世代セファロスポリン薬の使用について≫
以下、「抗菌薬の適正使用」というテーマで、日本環境感染学会から出されている資料を参考にする。
まず、抗菌薬とは何か?
「感染症の予防や治療に用いられる薬物を抗微生物薬と呼び、その標的となる病原微生物の種類によって、抗菌薬、抗真菌薬(※注 1 )、抗ウィルス薬(※注 2 )などに分類される。」らしい・・・。
(※注 1 ) 真菌(カビ)に作用し、生育阻止作用、殺菌作用を示す物質。抗カビ剤、抗カビ薬、殺真菌剤、殺真菌薬、殺カビ剤、殺カビ薬、防カビ剤、防カビ薬とも表現される。
(※注 2 ) ウィルスは自身の細胞を有しないため、細菌など病原体の細胞を直接破壊する抗生物質療法と、薬理学的性格が大きく異なる。進化の系譜も細胞を有する生物とは著しく異なり、個々のウィルスの分子生物学的な形質の多様性は著しく高い。そのため、それぞれの生活環、転写因子が異なっており、それぞれに対する治療薬が必要となることが多い。
では、抗菌薬はどのような作用をもたらすのか?
「1.細胞壁の合成阻害作用:最近特有の細胞壁の合成を選択手に阻害する。
2.細胞膜の阻害作用:細菌の細胞膜に直接作用して障害を引きおこす。
3.タンパク合成阻害作用:タンパク合成の場であるリボゾーム(※注 3 )の機能に作用し、タンパク合成阻害する。
(※注 3 ) 生物体の全細胞の細胞質中にあり、たんぱく質合成の場となる小粒子。
4.核酸合成阻害作用:核酸代謝を阻害して抗菌作用を示す。」
次に、抗菌薬の適正使用とは・・・。
「適正な抗菌薬の選択と投与量・投与期間及び安全に配慮して感染症を治療させることであり。科学的根拠に基づいた使用が求められている。」
最後に、抗菌薬の使用法はどのように決定されるのか?
「 “薬物治療モニタリング: TDM ( Therapeutic Drug Monitoring )を通して、臨床薬物動体学の観点から血中の薬物濃度を測定して治療方針を決め、薬物の資料効果や副作用を確認しながら、適切な薬物投与を決定する。」
この最終的な抗菌薬を決定するまでに、段階を経て、効果のある抗菌薬を絞り込んでいくらしい・・・。
以前は、最初はペニシリン系(※注 4 )から始めて、効果がなければセフェム系(※注 5 )へと、抗菌スペクトラム(※注 6 )を広げて行き、それでも効き目がなければカルバペネム系(※注 7 )、それでもだめな ら抗真菌薬の併用という選択方法だったらしい・・・。
(※注 4 ) 1929年、A.フレミングがアオカビの一種の培養液中に、グラム陽性菌の発育を阻止する物質を発見し、ペニシリンと命名された世界で最初に発見された抗生物質。ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌等のグラム陰性菌の感染症や淋(りん)菌症、梅毒等のスピロヘータ症などに効果。
(※注 5 ) 1945年、放線菌より単離されたセファロスポリンが耐性菌にも活性を示したことをきっかけに開発・研究が進められた抗生物質。その生物学的特徴から、ペニシリン耐性菌を含むグラム陽性菌に強い活性を示す第 1 世代薬、b-ラクタマーゼに対する安定性の強化とともにグラム陰性菌に対する活性も併せもつ第 2 世代薬、グラム陰性菌に対する活性の増加とともに酵素に対する安定性も増した第 3 世代薬に分類され、さらに近年、黄色ブドウ球菌に対する抗菌力にすぐれ経口剤として投与可能な第 4 世代ともいえる薬剤も開発されている。第 3 世代・第 4 世代セファロスポリンを併せて、第 3 世代セフェム系ということが多い。
(※注 6 ) 抗生物質や化学療法剤の微生物発育阻止作用を、多種類の細菌について観察して、それら細菌の発育を阻止する最小濃度を系列的に比較して図表化あるいは数表化したものをいう。これによって、ある特定の薬剤に対する諸種微生物の感受性を一覧することができる。
(※注 7 ) 1976 年のチエナマイシンの発見をきっかけに、グラム陰性菌、グラム陽性菌、嫌気性菌にも抗菌力を発揮し、多くの細菌に対して効果があり、広域である。
これに対して、最近では、de-escalation(デ・ エスカレーション)(※注 8 )という考え方が主流になってきているらしい・・・。
(※注 8 ) 最初にスペクトラムの広い抗菌薬を使用し、培養結果と臨床的効果をみて、不要な抗菌薬を中止したり、より狭いスペクトラムの抗菌薬に変更する治療法のこと。
分かりづらいので、図を紹介する。
ここまで解説すれば、“広域”抗菌薬が理解できたと思う。
適用範囲の広い抗菌薬ということである。
毎日新聞では、以下の症例を紹介している。
半年程前から、右手人さし指の腫れに悩まされていた近畿地方に暮らす女性( 85 )。
受診した整形外科で、「細菌感染による関節炎の疑いがある。」と診断されたという。
そして、第 3 世代セファロスポリン薬が、“飲み薬”として処方された。
10 日間飲んだが、腫れが引かないばかりか、食欲の低下や下痢の症状も現れたらしい。
別のクリニックで診てもらった時には、既に意識障害が生じ、血圧も低下したため病院に運ばれたが、翌日死亡したという。
第 3 世代セファロスポリン薬は、経口投与での吸収率は 50% 以下と低い為、ほとんど吸収されず便と共に排泄されるらしいのだ・・・。
言い換えれば、半分以上が便になり、効いてほしい場所まで抗菌薬が十分に届かないということだ・・・( ̄ロ ̄lll)ガッカリダヨッ!!!!
感染症の専門家の間では、だいたいウンコになってしまうことから、この抗菌薬を「DU(DAITAI UNKO)薬と、読んでいるらしい・・・( ̄▽ ̄;)アハハ…
更に、“広域”抗菌薬と言われるだけあって、不必要なまで多くの菌に効いてしまうらしいのだ・・・オイオイ・・ (;´д`)ノ
前述の女性は、大切な腸内細菌が死んでいく一方で、「クロストリジウム・ディフィシル」という菌が生き残って増えてしまい、毒素による腸炎を引き起こしたことが死因とされているようだ。
毒素による腸炎を引起した患者は、下痢を引起すのだが、やっかいなことに、クロストリジウム・ディフィシル菌は、便と一緒に排出されて、周りの人にもうつってしまうといのだから質が悪い・・・ヽ(*`Д´)ノ
欧州疾病予防管理センター( ECDC )の調べによると、日本はこの第3世代セフェム系の使用量が異常なほどに高いらしい・・・工エエェェ(´ロ`ノ)ノェェエエ工
現実に、風邪と診断されたら、第 3 世代セフェム系が多く出されるらしい・・・。
そう言えば、以前、子等を病院に連れて行くと、よくこんなセリフを耳にしていた。
医師:「とりあえず抗生剤出しときますね。」
声:「居酒屋じゃあるまいし、とりあえずビールみたいなノリで抗生物質出すなよな!」
NNT 4000
突然、何を言い出したんだと思うかもしれないが・・・。
感染症の専門家の間では、当たり前に使われている指標である。
NNT → Number Needed to Treat
一人の治療効果を得るために必要な患者数らしいのだが・・・。
NNT 4000 とは、「 4,000 人に抗菌薬を投与すれば、 1 人には予防効果がある」ということらしい・・・。
具体的には、風邪の後に、肺炎・咽頭膿瘍・乳突蜂巣炎などを起こす患者を 1 人防ぐために、4,000 人もの患者に抗生剤を投与しないといけないという素晴らしい事実である。
更に、抗生剤を 4,000 人に処方した場合、理論上、以下の症状が現れる方が発生するらしい・・・(。-∀-) ニヒ
皮疹・・・ 40 ~ 120人
下痢・・・ 40 ~ 760人
アナフィラキシー・・・0.4人
それでも、敢えて予防のために抗菌薬を摂取しますか?
もし、第 3 世代セフェム系が処方されたら、きっぱりと、「風邪はウィルスが原因なのでしょう?抗菌薬は効かないのでは?ウンコになるだけの抗菌薬は出さないでください(笑)。」と断る勇気を持とう!
【参考】
国内で使用されている主な第 3 世代セファロスポリン薬の商品名
セフィキシム( CFIX )・・・商品:セフスパン
セフジニル( CFDN )・・・商品:セフゾン
セフポドキシム・プロキセチル( CPDX-PR )・・・商品:バナン
セフカペン・ピボキシル( CFPN-PI )・・・商品:フロモックス
セフジトレン・ピボキシル( CDTR-PI )・・・商品:メイアクト
セフトラムピボキシル( CFTM-PI )商品:トミロン
次回へ・・・。