「真実の口」2,171 来るべき大地震に備えて ㉞

前回の続き・・・。

前回、 K-net Kik-net F-net という地震観測網を紹介した。

今回は、海溝海底で起きた地震津波観測網を紹介する。

まず、東日本大震災で津波による被害が甚大だったことを受けて整備された S-net ( Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench :日本海溝海底地震津波観測網)である。

2011 年の東日本大震災時の観測網は陸域および沿岸に重点的に展開され、海域においては釜石沖に東京大学地震研究所が設置していた地震計 3 台と津波計 2 台からなる観測システムがあったのみだった。

この脆弱な観測システムでは、陸域地震観測網データから沿岸の津波を推定する津波警報には精度的に限界があることを明らかになり、当時の海溝型地震の発生現場である海域にリアルタイムの観測網が十分に配置されていなかったことが、東日本大震災の被害が大きくなった要因のひとつではないかと考えられた。

東北地方太平洋沖では、引き続き規模の大きな地震が発生し、今後も強い揺れや高い津波に見舞われるおそれがあるため、海域に地震・津波の観測網を整備して、より正確な地震・津波情報を迅速に提供することが極めて重要と考え、 S-net の構築が進められたわけだ。

文部科学省補助金により、平成 23 年にスタートした日本海溝海底地震津波観測網整備事業は、北海道沖から房総沖までの海底に、観測点 150 ケ所を新設して総延長約 5,700km(計画当時)の海底ケーブルで結び、観測データを陸上までリアルタイムで伝送し、関係機関に即時流通させて監視や地震調査研究に活用しようとする、世界初の海底観測網の整備事業となった。

まず、壮大な計画図を見て頂こう。

S-net

観測網は次の 5 つの海域と日本海溝の外側にそれぞれ設置されている。

① 房総沖
② 茨城・福島沖
③ 宮城・岩手沖
④ 三陸沖北部
⑤ 釧路・青森沖
⑥ 海溝軸外側(アウターライズ)

そして、以下の絵を見て頂こう。

S-net サブシステム

1 つの観測システム(サブシステム)は、平均約 25 の観測点(観測装置)を概ね 30km 間隔で網の目状に設置されている。

ケーブル全長は約 800km で、水深 1,500m 以浅の漁業操業海域では、海底に深さ 1m 程度の溝を掘り、その中にケーブルと観測装置を設置し、沿岸や浅部ではケーブル保護のため外装ケーブルが使用されている。

また、各サブシステムの観測データは、海底ケーブルで 2 つの陸上局に 24 時間連続して双方向伝送されている。

観測点は、地震計( 3 成分速度計、ハイゲインとローゲイン 6 成分加速度計)、水圧計、傾斜計で構成されている。

速度計、加速度計、傾斜計は 100Hz 、 水圧計は 10Hz のデータを取得しており、これらの観測データが防災科研や関係機関へ送信され、地震と津波の監視、緊急地震速報の改善、海域の地殻構造と地震像解明の基礎データとして活用されている。

例えば、 5 月 14 日 2 時 13 分に、茨城県沖で、深さ 39km 、 M3.5 の地震が発生している。

20240514-0213

このときの S-net で観測された連続する 5 ヶ所の波形を見てみる。

N.S2N23

N.S2N24

N.S2N25

N.S2N26

N.S3N01

素人目ながらこれがリアルタイムで分かるのであれば、地震の大きさで津波の発生が予測できるような気がする。

S-net の構築により、例えば、日本海溝付近で津波が発生した場合、これまでより 20 分程早く津波を実測・検知して情報発信、沿岸へ到達前に津波高を高精度に即時予測することが可能になるという。

また、日本海溝付近で発生した地震の場合、これまでより 30 秒程早く地震動を早期検知して情報発信、緊急地震速報の高度化、早期の避難行動等被害の軽減に貢献できるとされている。

地震の早期検知イメージ図
陸上にある観測網のみによる検知イメージ図

津波の早期検知イメージ図
日本海溝海底地震津波観測網完成後の検知イメージ図

防災科学技術研究所が作った動画で見るとより分かりやすいかと思う。

陸上にある観測網のみでみる地震波伝播のシミュレーション

日本海溝海底地震津波観測網完成後の地震波伝播のシミュレーション

日本海溝海底地震津波観測網で東北地方太平洋沖地震と同等の地震によって発生する津波を観測する様子

色んな地震観測網を紹介してきたが初めて役に立つものを見たような気がする(笑)。

次回へ・・・。