前回の続き・・・。
前々々回、 SARS ワクチンでさえ完成していない現状で、新型コロナウィルス( Covid-19 )に対するワクチンなど開発できるのだろうかという疑問を投げかけてみた?
何故、 SARS ワクチンを作ることが出来ていないのかを考えてみたいと思う。
大槻氏が、 IB ウィルス研究を始めた 1970 年代はじめ、 IB 予防のためのワクチン使用が初めて認可される直前だったことは前述した。
そして、それから 50 年近くが経過し、現在では数多くの種類の生ワクチンが世界の養鶏界では広く使われているそうだ。
しかし、ワクチン効果は期待されたほど上がっていないのが現状らしい。
その理由は、 IB 生ワクチンを接種しても野外からの IB ウィルスの感染を阻止することが難しいからだという。
このようなことから、 IB は現在でも制圧が容易ではない大変難しい感染病という位置づけらしい。
この説明として、「 IB ウィルスには、多数の血清型がある。」ことが原因とされている。
しかし、大槻氏は、『この説明に疑問を持ち、制圧が難しいのは、このウィルスは様々な「変異」を起こしており、その「変異」が原因であるのではないか?』と考えたという。
ただ、その当時、コロナウィルスが「変異」を起こすことを実験的に証明した報告が、世界的になかったらしい。
感染症学の教科書には、「様々な動物にコロナウィルス感染病が存在し、また数多くの動物種からコロナウィルスは分離されるが、一般的には、コロナウィルスの宿主域は限定されており、動物種を超えての感染は起きな。」と記載されているそうなのだが・・・。
大槻氏は、「今回の新型コロナウィルス、 SARS ウィルス、 MERS ウィルスの起源はすべてコウモリにあり、いろいろな種類の哺乳類間でのウィルス伝播が起きた末に人にまで感染が及んだ動物由来感染病(人獣共通感染病)と考えられている。したがって、一般的に考えられているほど、コロナウィルスの宿主域は狭くないのではないか?」と予想している。
大槻氏は、 30 年以上前、鳥類のコロナウィルスである IB ウィルスの詳細な宿主域は分かっておらず、人を含む哺乳類にも感染する可能性を考え、宿主域を調べることに関心を持って、試験管内実験を始めたらしい。
その当時、 IB ウィルスは鶏に感染する鳥類のウィルスであるから、ウィルスの増殖は、発育鶏卵、鶏腎細胞という鳥類由来の細胞でのみ可能と考えられていたようで、 IB ウィルスの本来の宿主ではないほ乳類由来の細胞で増殖するか否か調べたという。
いくつかの種類のほ乳類由来の培養細胞を調べた結果、ハムスターの腎臓由来の細胞である BHK-21 細胞で、増殖できる IB ウィルス株のあることが分かったらしい。
IB ウィルスの最古の株と考えられる 1930 年代にアメリカで分離された Beaudette-42( Be-42 )株がその一つ。
そこで次のステップとして、このウィルス株を、 BHK-21 細胞で増殖を繰り返すことにより、抗原性を変化させるかもしれないと考えたらしい。
BHK-21 細胞で IB ウィルス Be-42 株の増殖を繰り返し・・・。
そして、その間にこのウィルス株の抗原性に変化が生ずるか否かを、ウィルス中和試験によって調べた結果、 21 回、 BHK-21 細胞で増殖を繰り返したところ抗原性が変化しまたという。
更に、 50 回まで増殖を繰り返したところ、大きく抗原性が変化したそうだ。
つまり、本来の宿主ではないほ乳類由来の細胞で累代継代したために抗原変異が起きたということだ。
更に更に、この「変異」したウィルスを鶏由来の鶏胎児細胞で、さらに増殖を繰り返したところ、抗原性は元に戻ってきたという・・・?
次に、この Be-42 株に対する免疫血清を新たに作成し、 Be-42 株を完全に中和して感染力を消滅させる抗血清の濃度を調べた後、ウィルスの感染力を完全に消滅させる手前の濃度の抗血清存在下でこのウィルス株を連続して増殖させたところ、免疫圧力をこのウィルスにかけて「変異」を誘発したのだという。
結果、わずかな継代で、このウィルス株を完全に中和させるためには、非常に高い濃度の抗血清が必要になったそうだ。
すなわち、このウィルス株は、免疫圧力を加えられることにより抗原性が大きく変化したということになる。
簡単に言えば、鳥類のコロナウィルスである IB ウィルスは、少なくとも試験管内では哺乳類由来の細胞で増殖することができ、その細胞で増殖を繰り返している間に「変異」を起こすウィルスであるということである。
大槻氏は、更に、面白い実験を重ねている。
IB ウィルスには、以下のような種類のウィルスが存在するらしい。
➡鶏の呼吸器で旺盛に増殖して強い呼吸器症状を起こす(呼吸器病型)ウィルス
➡呼吸器で増殖するが腎臓で旺盛に増殖し腎炎を起こす致死性の高い(腎炎型)ウィルス
これらの IB ウィルスのタイプを利用して、「変異」を起こすことにより、病型を変えることが可能ではないか?
つまり、呼吸器病型の IB ウィルスを腎炎型の IB ウィルスに変化させ、逆に腎炎型のウィルスを呼吸器病型に変えるというのだ・・・(笑)
実験の内容も詳細にされているのだが、私自身が、上手く解説する自信が無いので、省かせていただき、結果だけをお伝えしよう。
呼吸器病型ウィルス➡腎炎型ウィルス
腎炎型ウィルス➡呼吸器病型ウィルス
双方向に病気のタイプが変わったと言う・・・!
更に、この実験では、興味深いデータが得られたそうだ。
上記の2株の IB ウィルスが増殖した呼吸器と腎臓から回収されたそれぞれのウィルスの抗原性の比較を行ったところ、同一鶏個体の呼吸器と腎臓から回収されたウィルスの抗原性は、同じウィルス株であるにもかかわらず、明らかな違いが認められたという・・・。
呼吸器で増殖したウィルスとは別の性質を持ったウィルスが腎臓で増殖していたというのだ。
つまり、想定していたウィルス「変異」が、想定外のウィルス「変異」までも引き起こしていたと言うことになる。
大槻氏は、『これらの実験から、鳥類のコロナウィルスである IB ウィルスは、様々な「変異」を頻繁に起こすウィルスであることが明らかになった。さらに、「変異」が起きる要因として、 IB ウィルス株は、均一な性質を持つウィルス集団から成り立っているのではなく、様々なバラエティーに富んだ性質を持つ、数多くの subpopulation (小集団)から構成されているという結論に達した。』という。
どういうことかと言うと、 IB ウィルス株を構成する様々な subpopulation (小集団)のバランスに変化が生じた時に、このコロナウィルスに「変異」という現象が認められ、その「変異」とも様々な形で、例えば、抗原性、病原性、臓器嗜好性などまで変わって発症していくと言うことだ。
このように書いて、「アレ?」と思わないだろうか?
新型コロナウィルス( Covid-19 )も、当初は、呼吸器系から肺炎、川崎病のような症状そして、血栓、脳梗塞、コロナの爪痕(?)、多臓器不全と病気のタイプが変遷していったことに・・・。
IB ウィルスが増殖する環境あるいは宿主の状態が違えば、優勢に増殖する subpopulation (小集団)はその都度異なり、優勢に増殖した subpopulation (小集団)の性状がその時のウィルス性状としてとらえられるのではないだろうか?
同一ウィルス株でも、感染する動物種が異なれば異なる病像を呈することは、鳥インフルエンザウイルスでの実験で得られている。
今般の新型コロナウィルス( Covid-19 )では、犬、猫、虎、ライオン、フェレット等への感染が確認されている。
一方、豚や鶏、カモなどを含む家畜では、ウィルスに感染しにくいことも判明してきている。
話は変わるが、大槻氏は、 IB が発生した養鶏場で、興味深い状況を確認できたと言う。
「鶏が示す IB ウィルス感染態度は、鶏の飼育状況、特に鶏舎の衛生状態に大きく左右される。
つまり、飼育密度が高く、飼育環境が劣悪で、衛生状態の悪い汚れた鶏舎で飼育されている、大きなストレスのかかっている鶏に IB 生ワクチンを接種した場合、ワクチン接種ヒナに重篤な IB の症状の発現する場合がある。
逆に、衛生状態の行き届いた理想的な環境で飼育されている、病原体に対する抵抗力の備わった鶏に IB ワクチンを接種した場合、ワクチンウイルスの鶏への感染力が不十分で、抗体産生が微弱な状態で終始する場合がある。」
私が、今投稿の 59 回で、以下のように寄稿したのだが・・・。
「新型コロナウィルスでの死亡率の高い国の共通点は、公衆衛生が整備されて予防接種の義務化をやめた所謂“先進国”である。
基本的に、従来の公衆衛生学的には、病原菌や寄生虫を駆逐して環境を清潔にすることが目的だったので、病原菌がいなくなると予防接種は必要なくなる。
医療が発達して病気が薬で治療できるようになると“反ワクチン派”が増え、予防接種を個人の選択にゆだねるようになる。
そして、主義主張の強い欧米系の民主国家に、新型コロナウィルスの被害が集中していると考えるのは私だけだろうか?
発展途上国では、公衆衛生も治療も十分に出来ないので、感染症が拡がるより、政府が一律に予防接種をして、病気の感染自体を抑え込んだ方が安上がりだ。
日本は、世界に類のない国民皆保険と言う制度の下、先進国の中でも、異例のワクチン予防接種という医療体制が続いている。」
3密( 3 Cs )を意外に軽視した欧米は重篤者が多くあらわれ・・・。
衛生状態の行き届いた理想的な環境である日本は抗対率が上がらない・・・。
さてさて、これから新型コロナウィルスの「変異」がどのようになっていくかは要注意である。
次回へ・・・。