前回の続き・・・。
6 月に入り、幾分、落ち着きを取り戻してきたようだが、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、 2 月下旬以降、消毒用アルコールが手に入りづらい状況は続いているようだ。
それに伴い、自治体によっては、“次亜塩素酸水”を無料配布しているというニュースも目にした。
このニュースを見て、私は大丈夫なのだろうかと懐疑的だった。
また、厚生労働省でさえ、新型コロナウィルスの感染防止に、『食器・手すり・ドアノブなどの身近な消毒には、アルコールよりも熱水や塩素系漂白剤が有効』だと呼びかけている。
塩素系漂白剤とは、“次亜塩素酸ナトリウム”のことである。
“次亜塩素酸水”と“次亜塩素酸ナトリウム”・・・。
名前は似ているが、全く別物である。
“次亜塩素酸水”は、 2002 年食品添加物(殺菌料)に指定された( 2012 年改訂)、 10 ~ 80ppm の有効塩素濃度を持つ酸性電解水に付けられた名称のことである。
食品添加物と聞くと、安全(?)・安心(?)と誤解する方もいるかもしれないだろうが、ここでは触れずにおく・・・( ̄▽ ̄;)アハハ…
専用の装置を使用し、塩化ナトリウム水溶液、塩酸、あるいは塩酸と塩化ナトリウムの混合液を電気分解することで、次亜塩素酸を主成分とする次亜塩素酸水をつくることができる。
作り方は以下のような方法があり、用途も紹介しよう。
① 次亜塩素酸ナトリウムを水で希釈する方法
➡日本国内の水道水、プール水、公衆浴場水、温泉水に使用されている。
② 次亜塩素酸ナトリウムに塩酸や炭酸等で次亜塩素酸水を生成する方法
・次亜塩素酸ナトリウム( NaClO ) + 塩酸( HCL ) → 次亜塩素酸水( HClO ) + 塩化ナトリウム( Nacl )
・次亜塩素酸ナトリウム( NaClO ) + 炭酸( H2CO3) → 次亜塩素酸水( HClO ) + 炭酸水素ナトリウム( NaHCO3 )
➡家庭での使用に pH 調整されている。
③ 次亜塩素酸カルシウムを水で希釈する方法
➡日本国内のプールや簡易専用水道に使われている
④ 次亜塩素酸カルシウムを水で希釈するとともに塩酸や炭酸等で pH 調整をする方法
➡あまり普及していない
⑤ ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを水で希釈する方法
➡日本国内のプール水、温泉水に使われている
⑥ トリクロロイソシアヌル酸ナトリウムを水で希釈する方法
➡日本国内のプール水、温泉水に使われている
このように紹介すると、「ああ、プールの消毒で使われている奴ね・・・。」と合点がいく人も多いだろう。
あくまで次亜塩素酸ナトリウムを希釈しているものだ。
一方、“塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)”は、水酸化ナトリウムの水溶液に塩化水素を通じて得られるものだ。
化学式は、 NaClO ・・・。
反応式は・・・。
2NaOH + Cl2 ⟶ NaCl + NaClO + H2O2NaOH + Cl2 ⟶ NaCl + NaClO + H2O
お気付きの方もいるかもしれないが・・・。
水酸化ナトリウム( NaOH )は、毒物及び劇物取締法により、原体および 5% を超える製剤が劇物に指定されている。
塩化水素( HCl )も、毒物及び劇物取締法により、原体および 10% を超える製剤が劇物に指定されている。
“塩素系漂白剤”の代表格と言えば、誰でも思い浮かぶのが、花●のハ●タ●ではないだろうか?
容器には必ず、混ぜるな危険と注記されている。
何故、危険かと言うと、塩素系漂白剤と酸性タイプの洗剤を混ぜると塩素ガスが発生するからだ。
前述のように、塩素系漂白剤には、次亜塩素酸ナトリウム( NaClO )が含まれている。
次亜塩素酸ナトリウムは不安定な物質で、塩素が出やすい性質をもっており、通常は安定させるために、アルカリ性に調整されているのだ。
塩素系漂白剤は、漂白する物質と接触するとゆっくりと塩素を放出して、その作用で漂白されるのだが、酸を混ぜると短時間で多量の塩素が発生する。
塩素は強い毒性を持つため、人類初の本格的な化学兵器としても使われたことがある。
まあ、混ぜるな危険とはあるが、何がどうなるとは書かれていない・・・
1986年には徳島県で、1989年には長野県で、実際に塩素系漂白剤と酸性洗浄剤を混ぜたことにより、塩素ガスが発生し死亡した事故が起こっている。
ちょっと、恐怖感をあおるために具体的な事故例を紹介しよう・・・ε=┏(; ̄▽ ̄)┛
〈1〉 1982 年、愛知県で主婦の入院事故発生。
▶塩素系漂白剤とトイレ用酸性洗浄剤を便器の掃除中に混合したらしい。この時の漂白剤には、正面ラベルに赤文字で「注意」と表示してあり、新聞の記載も消費者の不注意を指摘していた。
〈2〉 1985 年、長野県岡谷市のスーパーマーケットの魚介類調理室の作業員が倒れ、4人が入院する事故が発生。
▶消防署と警察の合同現場検証が行なわれ、隣室の瞬間湯沸器の排気ファンが停止していたため、調理室内に一酸化炭素が流入して中毒を起したものと断定されたフキンの漂白に塩素系漂白剤を使用していたが、刺激性の塩素ガスの発生は認められなかった。
〈3〉 1987 年、徳島県で主婦がトイレと浴室を洗浄中に倒れ死亡する事故が発生。
▶主婦は、救急車で搬送・入院したが、気道部位の浮腫が原因とみられる呼吸不全で死亡。キッチン用カビ取り剤とトイレタイル用酸性洗浄剤を併用していたため、家屋内全体に刺激臭が充満していたというこの事故は、家庭用品品質表示法に基づく表示は実施されていたが、正面ラベルの表示が不徹底であったため当協議会を創設して業界全社の統一表示を決定することになった。
〈4〉 1987 年、兵庫県で男性が浴室の掃除にカビ取り剤を使用していて突然死亡する事故が発生。
▶救急車で搬送された病院の医師が警察の嘱託医を兼ねていたこともあり、死体検案の際、ずい液検査の結果、脳内出血のためと診断された。
〈5〉 1988 年、苫小牧の近郊において主婦がくみ取り式トイレの掃除をしていて失明位する事故が発生。
▶掃除中、気分が悪くなり、翌日入院し、 48 間程度経過したとき、失明したことが判明。塩素系漂白剤を中性整髪剤の手押スプレー容器に入れて使用していた。その後、トイレ用酸性洗浄剤を使用したため漂白剤と酸性洗浄剤は混合されたと考えられるが、刺激臭については明らかではない。
塩酸などの強酸性物質(トイレ用洗剤など)ほどではないが、食酢やクエン酸、炭酸を多く含む物質をかけた場合でも、塩素ガスが発生することがある。
例えば、生ごみの中にレモンの搾りカスなどがあった場合には、塩素系漂白剤と反応して塩素ガスが発生する可能性もあるということだ。
如何だろうか?
結構、取り扱いには注意が必要な薬剤なのだ・・・。
厚生労働省は、塩素系漂白剤をどのように消毒液に使えと提示しているのだろうか?
0.05% 濃度とかなり希釈されている。
希釈されていれば、安全なのだろうか?
次回へ・・・。