前回の続き・・・。
3⃣ 移植に使用する細胞による分類
ⅰ. ) 骨髄移植
・骨髄にある造血幹細胞を採取して移植する方法で、通常、骨髄液は腸骨(ちょうこつ)という骨盤の骨から採取される。
ⅱ ) 末梢血幹細胞移植
・血液中にある造血幹細胞を採取して移植する方法で、通常、造血幹細胞は血液中にはいないため、白血球をふやす薬である G–CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を投与したあと、骨髄から血液中に流れ出した造血幹細胞を「血球成分分離装置」を使って採取する。
ⅲ ) 臍帯血移植
・胎児と母親を結ぶ臍帯と胎盤に含まれる胎児由来の血液(臍帯血)に造血幹細胞が豊富に含まれており、臍帯血の提供に同意した妊産婦がドナーとなり、分娩後に臍帯血を採取し、臍帯血中に含まれる造血幹細胞を移植する方法である。
【各造血幹細胞移植の特徴】
分類 | 種類 | 長所 | 短所 |
---|---|---|---|
移 植 前 処 置 |
骨髄破壊的移植 (フル移植) |
・抗腫瘍効果が高い。 | ・移植前処置の副作用が強いため、年齢や全身状態などの制限がある。 |
骨髄非破壊的移植 (ミニ移植) |
・移植前処置の副作用が少なく、高齢者や臓器障害がある患者さんにも適応になる場合がある。 | ・抗腫瘍効果や免疫抑制効果が弱いため、再発や拒絶が増加する可能性がある。 | |
ド ナ | と の 関 係 性 |
自家造血幹細胞移植 (自家移植) |
・ GVHD(※注 1 ) や拒絶がない。 | ・幹細胞採取時に腫瘍細胞が混入することや、移植後の GVL(※注 2 ) 効果がないことから、再発リスクが高まる可能性がある。 |
同種造血幹細胞移植 (同種移植) |
・ GVL 効果が期待できる。 | ・ GVHD や拒絶のリスクがあり、免疫抑制剤の投与が長期間必要になる。 ・免疫回復に月~年単位の長期間を要する。 ・免疫不全に伴って感染症にかかりやすくなる。 |
|
細 胞 の 由 来 |
骨髄移植 | ・通常 1 回の採取で移植に必要な細胞数を確保できる。 | ・血液をあらかじめ採取する自己血貯血の必要があり、採取時の全身麻酔、採取後の痛みなど、ドナーの負担が大きい。 ・好中球(※注 3 )回復(生着)が末梢血幹細胞移植に比べて遅い( 3 週間前後)。 |
末梢血幹細胞移植 | ・ドナーに全身麻酔や自己血貯血が不要であり、負担が少ない。 ・好中球回復(生着)までの期間が短い( 2 週間前後)。 |
・採取前にG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の投与を要し、また1回の採取で必要な細胞数を確保できないことがある。 ・慢性 GVHD が多い。 |
|
臍帯血移植 | ・ドナーへの負担がない。 ・ HLA(※注 4 ) 型の適合範囲が広い。 ・凍結保存された細胞のため、提供申請から臍帯血入手までの期間が短い。 ・慢性 GVHD が起こりにくい。 |
・採取できる細胞数が少ない。 ・好中球回復(生着)までの期間が長い( 3 ~ 4 週間)。 ・生着不全のリスクが高い。 |
(※注 1 ) Graft Versus Host Disease:移植片対宿主病のこと。移植片対宿主病( GVHD )は、同種移植後に特有の合併症で、ドナー由来のリンパ球が患者さんの正常臓器を異物とみなして攻撃することによって起こる。 重症化すると治療が難しく時に命に関わることもある。
(※注 2 ) Ggraft Vversus Leukemia:移植片対腫瘍のこと。ドナー由来の免疫担当細胞(主に T 細胞)がレシピエント(患者)体内に残存する腫瘍細胞を攻撃し、原病の治癒や制御がもたらす現象。
(※注 3 ) 白血球の中の顆粒球の一種であり、白血球全体の約 45 ~ 75% を占め、強い貪食(どんしょく)能力を持ち、細菌や真菌感染から体を守る主要な防御機構となっている。
4⃣ HLAとは
・HLA ( Human Leukocyte Antigen )とは、ヒトがもつ白血球の型のことである
・HLA には多くの型があり、‟造血幹細胞移植”では特に HLA-A ・ HLA-B ・ HLA-C ・ HLA-DR を合わせる必要がある。
・ヒトは、 HLA-A ・ HLA-B ・ HLA-C ・ HLA-DR を 2 セットもっており、合計 8 抗原が一致することが最良となる。
・両親から 1 セットずつ遺伝的に受け継ぐため、 HLA が完全に一致する確率は兄弟姉妹間では 1/4 だが、非血縁者間では極めて低くなる。
・ドナーを検索する際、血縁者に HLA が一致したドナーがいない場合は、骨髄バンクへ登録し非血縁ドナーを探す。
・HLA 8 抗原が完全に適合しないと移植ができないわけではないが、一部が不適合のドナーから移植を受けた場合は、生着不全や移植片対宿主病( GVHD )をはじめとする免疫関連合併症のリスクが高くなるため、免疫抑制剤を使用して予防を強化する必要がある。
・近年では、免疫抑制療法の工夫により、親子間などで HLA が 1 セットしか合っていないドナーからの移植( HLA 半合致移植、通称:ハプロ移植)も行われるようになっている。
次回へ・・・。