前回の続き・・・。
《がん治療による様々な症状》
【 全身に起こる症状】
7⃣ 白血球減少
( 1 ) 白血球減少について
● 白血球は、血液に含まれる細胞の一種で、細菌や真菌(カビ)、ウィルスなどの病原体から体を守る役割がある。
● 白血球には好中球、リンパ球などいくつかの種類があるが、中でもほとんどの割合を占め、重要な役割を果たすのが好中球である。
● 白血球が通常より少ない状態(白血球減少)になると、病原体に対する抵抗力が下がり、感染しやすくなる。
● 特に、白血球の中の好中球が 500/μL 未満になると、感染のリスクが非常に高くなる。
( 2 ) 原因
● ‟がん”の治療や‟がん”そのものの影響によって骨髄抑制(※注 1 ) (血液細胞を作る機能が低下すること)が起こると、白血球が減少する。
(※注 1 ) ‟がん”治療の副作用や‟がん”そのものによって骨髄の働きが低下している状態をいい、‟薬物療法”で使われる一部の薬や‟放射線治療”により、骨髄が影響を受けると、血液細胞をつくる機能が低下し、血液細胞のうち、白血球が減少すると感染症、赤血球が減少すると貧血、血小板が減少すると出血などが起こりやすくなる。
● 骨髄抑制が起こる可能性のある治療として、‟薬物療法”(特に細胞障害性抗がん薬の使用)や‟放射線治療”(特に血液細胞を作る骨髄が多くある骨盤、胸骨、椎体などへの広範囲の放射線照射)がある。
● なお、‟薬物療法”は、使用する薬の組み合わせによって、骨髄抑制の起こりやすさが異なり、どの程度、感染に注意する必要があるかは、担当医や薬剤師などのに確認したほうが良い。
● 血液・リンパの‟がん”(白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)であることや、それ以外の‟がん”の場合は、‟がん”が骨髄に浸潤(※注 2 ) することで、骨髄抑制が起こることがある。
(※注 2 ) がんが周囲に染み出るように広がっていくこと。
● 血液・リンパの‟がん”で強力な‟薬物療法”を受ける場合は、副作用によってさらなる白血球の減少が起こる可能性があり、感染症に注意が必要である。
( 3 ) 白血球減少が予想されるとき、起きたとき
~薬物療法の延期を検討する~
・‟薬物療法”を受けているときは、次回の治療が安全に行えるかを確かめるため、血液検査で白血球や好中球の数を調べる。
・治療の回数を重ねるごとに、白血球や好中球の数の回復が遅れることがあり、数が回復するまで治療を延期することもあり、また、次回以降の治療で使う薬の量を減らすこともある。
・治療が延期になったり、使う薬の量が減ったりすると、‟がん”が進行するのではないかなど心配になるかもしれないが、感染症が起こるとさらに治療が延期になることや、ときには命に関わることもあり、このようなリスクを減らすため、医師は治療の効果と副作用のバランスを十分に考えながら、‟薬物療法”を予定通り行うか、延期するかを検討している。
~好中球を増やす薬の使用を検討する~
・発熱性好中球減少症が起こるリスクが高い‟薬物療法”を受けるときや、血液・リンパのがんなどで強力な薬を使って治療するため骨髄抑制のリスクが高いときは、あらかじめ、好中球を増やす薬( G-CSF )を使う場合がある。
・‟がん”の種類や使う薬の種類、治療の目的などによって、好中球を増やす薬を使うかどうかは異なり、副作用も含め、詳しくは担当医に確認する。
~抗菌薬等を予防的に使う~
・治療の影響で、白血球減少などによる免疫抑制(細菌やウィルスなどの異物から体を守る力が弱くなること)が起こり、感染症にかかるリスクが高いと考えられるときや、‟造血幹細胞移植”などの治療を受けるときは、感染症を予防するために、あらかじめ抗菌薬や抗真菌薬を使うことがある。
( 4 ) 本人や周囲の人が出来る工夫
● 感染を予防するために、以下のことを心がける!
~こまめに手を洗う~
・食事の前や排せつ後、外出後は石けんを使って丁寧に手を洗い、水でしっかり流すことが大切である。
・ペットのトイレの世話やガーデニングでは手袋を使い、終わった後は手を洗う。
~体を清潔に保つ~
・皮膚の正常な機能を守り、感染を予防するため、可能な限り毎日のシャワー・入浴を心がける。
・皮膚や陰部を清潔に保ち、必要に応じてローション等で皮膚の乾燥やひび割れを防ぐ。
・口腔内を清潔に保つためにうがい、歯磨きの習慣が大切である。
・歯ブラシは柔らかいものを使用し、歯茎を傷つけないように注意する。
・虫歯がある場合は、‟がん”の治療が始まる前に、歯科の受診をしたり、虫歯の治療が必要かを‟がん”治療の担当医に相談する。
~傷を作らないようにする~
・けがややけどに注意する。
・皮膚に傷が付くと、そこから病原体が入ることがあり、感染のリスクが高まる。
・また、便秘や下痢などで肛門周辺の粘膜が傷付くことも感染のリスクとなるため、便秘や下痢が続くときや肛門痛が生じた際には、医師に相談する。
~人ごみを避ける~
・白血球減少が起きているときは、不特定多数の人が集まる混雑した場所に行くことは避けたほうが良い。
・人ごみにやむを得ず行く場合は、必ずマスクを着用する。
・体調不良の人と会うことは避けまる。
・ただし、白血球が少ないからといって、一切外出してはいけない、人と会ってはいけないというわけではない。
・気分転換のための外出や人と会うことについて心配があるときには、医師や看護師などに相談しする。
~白血球が減少しているときの食事~
・白血球が少なくなっているからといって、必ずしも特定の食品を避ける必要はない。
・食事を準備する際の基本的な感染対策は守る。
→野菜や果物はしっかり洗う
→生の肉や魚には細菌が付いている可能性があるため、まず野菜から調理する
→野菜と肉・魚のまな板を使い分ける
・調理した食事は、衛生面から早めに( 2 時間を目安)食べる。
【参考】「食品をより安全にするための5つの鍵マニュアル- WHO -」
- 清潔に保つ
- 生の食品と加熱済み食品とを分ける
- よく加熱する
- 安全な温度に保つ
- 安全な水と原材料を使用する
・好中球が 500/μL 以下のときや、好中球減少がなくても‟造血幹細胞移植”後、免疫抑制剤を使用している患者などでは、生もの(生肉、刺身、生野菜)や発酵食品、ドライフルーツ等を避け、十分加熱したものをとることが勧められる場合がある。
・詳しくは医師や管理栄養士などに確認する。
( 5 ) こんなときは相談する
● 白血球が減少しているときや予測される状況で、以下のような症状があらわれた場合は、感染症が起こっている可能性がある。
● 以下のような症状があらわれたときには、‟がん”の治療を受けている医療機関にすみやかに連絡し、受診が必要かどうかの判断を仰ぐ。
- 37.5℃ 以上の発熱
- 悪寒、寒気
- 咳や痰
- のどの痛み
- 歯の痛み
- 歯肉の腫れ
- 皮膚(特に傷口)が赤くなる
- 発疹
- 腹痛、下痢(薬の一般的な副作用の可能性もある)
- 新型コロナウィルス、インフルエンザ、水痘、麻疹などに感染している人と接触してしまった場合
・また、担当医に、どれくらい感染に注意する必要があるのか、どのような症状のときに医療機関に連絡をしたらよいかを、あらかじめ相談しておく。
・‟がん”患者にはインフルエンザや新型コロナウィルス、肺炎球菌や帯状疱疹のワクチン接種が勧められており、接種のタイミングは担当医に相談する。
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