前回の続き・・・。
《がん治療による様々な症状》
【 全身に起こる症状】
9⃣ 貧血
( 1 ) 貧血について
● 貧血とは、血液中の赤血球の中にある、ヘモグロビン(※注 1 )の濃度が低くなった状態を指す。
(※注 1 ) ヘモグロビンは酸素とくっつくことで、酸素を体のすみずみまで運ぶ重要な役割を果たしている。
● 貧血になると、体内の酸素が少なくなり、立ちくらみ、息切れ、めまい、ふらつき、頭痛、胸の痛み、動悸、疲労感などの症状が出ることがる。
● 採血による ヘモグロビン値(血色素量)が、成人男性で 13g/dL 未満、成人女性で 12g/dL 未満の場合に貧血と診断される。
● 検査の結果表では、ヘモグロビン値は Hb や HGB と略記されていることがある。
● ‟がん”の治療や‟がん”自体の影響によって、骨髄にある造血幹細胞がダメージを受けると、骨髄抑制が起こり、血小板の数が減少する。
( 2 ) 原因
● ‟がん”そのものや、‟がん”の治療、鉄やビタミンの欠乏による栄養障害など、さまざまな原因によって起こる。
● ‟がん”そのものによる貧血は、‟がん”ができた部位からの出血や、骨髄浸潤(がん細胞が骨髄へ入り込むこと)で起こることがある。
● 胃がんの手術後では、胃の本来の機能であるビタミン B12 や鉄の吸収ができなくなり、赤血球やヘモグロビンを作るための栄養が不足して貧血になる。
● 胃を全摘した人ほど、貧血になる可能性が高くなる。
● また、胃の切除後数年してから起こることもあるため、注意が必要である。
● ‟薬物療法”や‟放射線治療”によって、骨髄抑制や、溶血(※注 2 )が生じて貧血が起こることがある。
(※注 2 ) 赤血球が通常よりも早期に壊れてしまうこと。
● ヘモグロビンを作るために必要な鉄分の不足、ビタミンの欠乏、鉄の代謝がうまくいかなくなることなどの栄養障害も貧血の原因となる。
( 3 ) 貧血が起きたとき
● ふらつきを感じたときには、安静な姿勢を取り、十分な休息を取るように心がける。
~貧血の原因を治療する~
・貧血の原因および程度に応じて、鉄剤・ビタミン剤での治療を、‟がん”の治療と並行して行う。
・‟がん”ができた部位からの出血や、治療の副作用による出血が原因となっている場合には、止血剤を使ったり、手術によって止血を試みたりする。
・溶血が原因である場合には、ステロイド薬を使って治療することがある。
・‟がん”の治療が原因で貧血が起こっている場合には、安全に‟がん”の治療を続けることができるように、治療の時期を変更することもある。
~輸血を行う~
・ヘモグロビン値が大幅に低下している場合は、症状の改善をはかるため輸血を行う。
・輸血を行うかどうかは、患者の状態によって望ましいヘモグロビン値が異なるため、慎重に決めていく。
( 4 ) 本人や周囲の人が出来る工夫
● 貧血によってクオリティ・オブ・ライフ( QOL :生活の質)が低下することがあります。日常生活の中で以下の工夫をしてみましょう。
~ふらつきを感じたときには、すぐにその場でしゃがむ~
・ふらつきやめまい、意識が遠のくような感覚があるときには、すぐにその場にしゃがみ、落ち着くまで様子をみることにより、症状の悪化や転倒の予防になる。
・‟薬物療法”などによって貧血と血小板減少が重なる時期には、ふらつきやめまいなどによる転倒が致命的な出血を引き起こすこともあるため、特に注意が必要である。
・ふらつきやめまいが落ち着いてからも、急に立ち上がることは避け、歩き出しは一呼吸おいてゆっくりと行った方がよい。
・すぐつかまることができるよう手すり側を歩いたり、歩道の奥側を歩いたりして危険を避けるようにする。
~自分の状態と症状を把握しておく~
・血液データのヘモグロビン値と自分で感じる症状を把握しておくことが大切である。
・貧血が比較的ゆっくりと進行した場合には、ヘモグロビン濃度が低くても、症状がないこともあり、反対に、貧血が急速に進行した場合には、ヘモグロビン濃度が正常に近い値でも、貧血の症状が起こることがある。
~食事を工夫する~
・ヘモグロビンの材料となるタンパク質や鉄分を豊富に含む食品を摂取し、バランスの取れた食事を心がける。
・タンパク質は、魚や肉、卵、チーズ、ミルク、ナッツ、豆など、鉄分は、プルーンやレーズン、豆などの食品に多く含まれる。
・鉄の吸収を高めるビタミン C や、赤血球を作るのに必要なビタミン B12 を含む食品、葉酸を含む食品を一緒に取ると良い。
【参考】国立がん研究センター東病院 柏の葉料理教室から生まれた がん症状別レシピ検索『CHEER!(チアー)』~貧血~
~休息時間を確保する~
・体の疲れを感じたときには、楽な姿勢で休息を取る。
・日中の休息は、少しずつこまめに分けて取ると疲労回復につながり、気分転換にもなる。
・外出からの帰宅時、入浴後、食後などは、休息をしてから次の行動に移る。
・夜、眠れないときには担当医に相談し、睡眠導入剤を処方してもらうこともできる。
~体調が許す範囲で運動やマッサージをする~
・手足のストレッチやマッサージなどで緊張感を和らげることは、貧血によって生じるだるさ・倦怠感を軽くするために効果的であるといわれている。
・症状が軽くなったら、可能な範囲で、ウオーキングなどの運動を行うことも良い。
~周りの人に協力してもらう~
・めまいやふらつきなどがある場合や、日常生活がつらい場合には、家族や友人など周りの人に協力を求める。
・家事など身の回りのことを手伝ってもらうことを推奨する。
・周りの人は患者の生活をサポートしながら、めまいやふらつきなどの症状が起こっていないか見守るように心がける。
( 5 ) こんなときは相談する
● 立ちくらみ、息切れ、めまいなどの貧血の症状がみられる場合は、具体的な症状を把握しておき、医師や看護師に伝える。
● 手足がしびれる、手足の知覚が鈍い、便に血液が混じる、月経ではない時期や閉経後に出血がある、嘔吐してしまうなどの症状がある場合にも、貧血が起きている可能性があるため、医師に相談する。
次回へ・・・。