「真実の口」2,212 エムポックス②

前回のつづき・・・。

2 度目の「国際保健規則( IHR )に基づく国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態( PHEIC )」宣言がだされたエムポックだが、今後、どこまで拡大するのかが気になるところである。

以下は、東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授・濱田篤郎氏がメディカルノートに寄せた記事と WHO の緊急事態宣言に記されていた内容を併せたやや楽観的な見方である。

当然のことだが、アフリカ域内ではコンゴ民主共和国を中心に、さらに広がる可能性が高い。

これを抑えるためには、流行地域の住民へのワクチン接種を拡大させる必要がある。

エムポックスには天然痘に用いたワクチンが有効であり、その接種により 22 年からの 2 型(西アフリカ型)ウィルスの拡大が抑えられた。

このワクチンは 1 型(コンゴ型)ウィルスにも同様の効果が期待できそうである。

現在、エムポックスに使用されている 2 つのワクチンは、 WHO の予防接種に関する専門家の戦略的諮問グループによって推奨されており、 WHO のリストに掲載されている国の規制当局、およびナイジェリアやコンゴ民主共和国を含む個々の国によっても承認されている。

先週、 WHO 事務局長は、エムポックスワクチンの緊急使用リストへの登録手続きを開始した。

これにより、自国の規制承認をまだ発行していない低所得国でのワクチンへのアクセスが加速すると想定される。

緊急使用リストに登録されたことで、 Gavi(※注 1 ) やユニセフなどのパートナーは配布用のワクチンを調達することも可能になる。

(※注 1 ) Global Alliance for Vaccines and Immunisationの略。途上国の子供への予防接種の普及に取り組む、資金援助プログラム。

WHO は、ワクチンの寄付の可能性について各国やワクチン製造業者と協力し、暫定医療対策ネットワークを通じてパートナーと連携して、ワクチン、治療薬、診断薬、その他のツールへの公平なアクセスを促進している。

更に、 WHO は、監視、準備、対応活動を支援するために、当初 1,500 万$ の資金が直ちに必要になると予測している。

WHO は緊急時の対応を可能にするため、 WHO 緊急対応基金から 145万$ を拠出しており、今後数日中にさらに拠出する必要があるかもしれない。

次に、アフリカ域外への拡大はどこまで進むのだろうか?

アフリカで感染した欧米などの渡航者が、帰国後に発症するケースは今後、散発するものと考えられる。

しかし、欧米の MSM などのハイリスクグループは、 2 型ウィルスの対策ですでにワクチン接種を受けている人が多く、そこで広がる可能性は低いと考えられる。

つまり、アフリカ域外への流行拡大のリスクはあまり高くないと予想されているようだ。

では、日本への影響はどうだろうか?

日本からコンゴ民主共和国やその周辺諸国に滞在する渡航者も、近年は増えているようだ。

こうした地域への渡航者が、出国前にエムポックスのワクチン接種を受けることは現時点では難しい状況である。

なぜなら、ワクチンは一般流通しておらず、指定施設での接種対象は患者に接触した人などに限定されているからだ。

このため、流行地域への渡航者は、滞在先でエムポックスを疑う患者(皮膚病がある人など)に接触しないことが、もっとも有効な予防法になると言えるだろう。

ワクチンの話が出たので、天然痘と天然痘ワクチンについて触れておく。

天然痘は紀元前より、伝染力が非常に強く死に至る疫病 として人々から恐れられていた。

また、治癒した場合でも顔面に醜い瘢痕が残るため、江戸時代には「美目定めの病」と言われ、忌み嫌われていたとの記録があ る。

天然痘の感染力、罹患率、致命率の高さは古くからよく知られていた。

1663 年、アメリカでは、人口およそ 40,000 人のインディアン部落で流行があり、数百人の生存者を残したのみであったことや、 1770 年、インドの流行では 300 万人が死亡したなどの記録がある。

エドワード・ジェンナーによって種痘が発表された当時( 1796 年)、イギリスでは 45,000 人が天然痘のために死亡していたといわれる。

我が国では明治年間に、 20,000 〜 70,000 人程度の患者数の流行(死亡者数 5,000 〜 20,000 人)が 6 回発生している。

第二次大戦後の 1946 (昭和 21)年には 18,000 人程の患者数の流行がみられ、約 3,000 人が死亡しているが、緊急接種などが行われて沈静化し、1956 (昭和 31 )年以降には国内での発生はみられていない。

1958 年には、世界天然痘根絶計画が WHO 総会で可決されている。

当時、世界 33 ケ国に天然痘は常在し、発生数は約 2,000 万人、死亡数は 400 万人と推計されていた。

ワクチンの品質管理、接種量の確保、資金調達などが行われ、常在国での 100% 接種が当初の戦略として取られた。

しかし、接種率のみを上げても発生数は思うように減少しなかったため、「患者を見つけ出し、患者周辺に種痘を行う」という、サーベイランスと封じ込め( surveillance and containment )に作戦が変更された。

その効果は著しく、 1977 年ソマリアにおける患者発生を最後に地球上から天然痘は消え去り、その後 2 年間 の監視期間を経て、 1980 年 5 月、 WHO は天然痘の世界根絶宣言を行った。

その後も現在までに患者の発生はなく、天然痘ウィルスはアメリカとロシアのバイオセイフティーレベル( BSL ) 4 の施設で厳重に保管されている。

日本では、 1976 年まで種痘が行われてきた。

年齢で言えば、 47 歳以上の世代は、定期接種として天然痘ワクチンを受けていることになる。

1964 年生まれの私にも、肩のあたりに種痘の後が残っている。

初めて知ったのだが、ヒトの感染症で、根絶できたのは唯一、天然痘だけだそうだ。有効なワクチンがある感染症がほかにもたくさんあるのに天然痘だけが根絶できたのは、根絶に有利な条件がそろっていたからです。

まあ、取り合えず、日本国内で言えば、 47 歳以上の人は一定数の免疫があるということになるのだろうか?

つまり、日本国内では、ハイリスクグループの中にはすでにワクチン接種を受けている人も多く、国内に持ち込まれても、そこで広がることは少ないと考える。

すなわち、国内でも流行拡大のリスクは低いと予想される。

次回へ・・・。