「真実の口」2,206 マイクロプラスチック・SeasonⅡ⑬

前回の続き・・・。

~「毎週クレジットカード 1 枚分の摂取」は誇大~

9 つの摂取物の総計でみると、マイクロプラスチック(質量)を、 1 日当たりで子どもが 1.84 × 10-4 ( 0.000184 )mg 、大人が 5.83 × 10-4 (0.000583) mg を摂取しているという。

世界自然基金( WWF )が、チームが使ったデータの一部である 1 日 1 人当たりの摂取量( 約700mg )をもとに、人は毎週、クレジットカード 1 枚の重さ( 5g )分のプラスチックを摂取していると報じていることについて、チームは、 WWF が使った数値は、観測値分布の 99 パーセンタイルを超えた場合のもので、平均的な人の摂取量とはかけ離れていると批判する。

チームは,食料に含まれる他のマイクロサイズとナノサイズの粒子として、二酸化チタン(白色顔料、磁器材料、紫外線防止化粧品などに用いられる)やケイ酸塩(ガラス・陶磁器類の材料となる)を挙げる。

二つの物質の食事から摂取量は、英国の数値だが 1 日 1 人当たり約 40mg と見積もられている。

今回の研究のマイクロプラスチック摂取量はこの数値の 0.001% であるとチームは強調する。

とはいえ、これは単に量的な比較であり、毒性については同じではないことに留意が必要としている。

~便のMPの見積もりと実際のデータが一致~

さらに、チームは,人間の平均寿命を 70 年として、この期間に消化器や生体組織、便にマイクロプラスチックがどのくらい蓄積されるかを、肝臓で解毒作用をする胆汁の多寡(ゼロ、最小、中間、最大)で分けて検討した。

その結果、胆汁ゼロの場合でも、 70 年間で体内に残留した量は、生体組織において 1 人当たり 5.01 × 104 ( 50,100 )個、 0.041µg だった。

チームの見積もりでは、消化器(定常状態)の残存マイクロプラスチック量(中央値)は、 1 人当たり、子ども( 18 歳)で約 300 個、大人( 70 歳)で約 500 個、質量換算で 7.98 × 10-4 ( 0.000798 ) ~ 1.59 × 1.59 × 10-3 ( 0.00159 ) µg の範囲だった。

便のマイクロプラスチックについては過去の研究があり、 33 ~ 65 歳の便から見つかったマイクロプラスチック( 50 ~ 500µm )の中央値は、便 1g 当たり 2 個であった。

モデルによるマイクロプラスチック量はこの量の約 7% 分に過ぎないとするが、今回の研究で考慮された飲食物は平均的な食事の 20% 分の量であることからすれば合理的な範囲にあるとしている。

~マイクロプラスチックから浸出した化学物質は微量~

チームは、化学物質モデルから、マイクロプラスチックから浸出した 4 つの化学物質 ~ BaP (ベンゾ(a)ピレン)と DEHP ( フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)、 PCB (ポリ塩化ビフェニル) 126 、鉛~の生体組織への蓄積は、無機物の粒子と比較すると無視できるほど少ないとしている。

そのうえで次のように指摘する。

従来のリスクアセスメントは、マイクロプラスチックを化学物質の運搬因子として評価する際、マイクロプラスチックから化学物質が瞬時に 100% 浸出すると想定している。

一方、この研究では、マイクロプラスチックからの化学物質の曝露を確率論的に評価するアセスントを採用したという。

チームは、化学物質摂取におけるマイクロプラスチックの寄与度は、代表的な化学物質 4 種に関しては無視できるほど小さく、したがってマイクロプラスチックから浸出した化学物質は人に与える影響は少ないと見る。

ただ、チームは今回のモデル計算の限界も認めている。

マイクロプラスチックの生体内分布はいまだにわかっていないため、この研究では生体組織に蓄積した 1 ~ 10µm の大きさのマイクロプラスチックについての計算値を全身に関連付けて当てはめたとした。

そのうえでチームはこう記す。

マイクロプラスチックが体内に滞留する場合、特定の組織に集中するかもしれない。

銀ナノ粒子が肝臓と脾臓で集積しているという研究がある。

これにならい、マイクロプラスチックが肝臓に集積すると仮定し、胆汁排出がない場合、生涯の蓄積量が 1㍑ 当たり最大で 0.025µg になると見積もった。

最後に、チームは次のように主張する。

今のところ、ほかの食料に関するマイクロプラスチックのデータが不足しているため、今回のマイクロプラスチック摂取量は、平均的な日々の消費食料(質量)の約 20% 分で見積もられている。

調査数が少な過ぎて今回の研究では使っていない、果物と野菜からのマイクロプラスチック量をたとえ考慮したとしても、摂取する無機物の質量の0.004%に過ぎないとみる。

~プラスチック汚染の”免罪符”ではない~

ケルマンズ教授らの研究は、現時点においてマイクロプラスチックの人の体内への摂取と弊害は問題となるようなレベルではないと示唆した。

だが、世界のプラスチック生産量・廃棄量は増え続けている。

たしかに、先進国ではプラスチックごみが適正に管理されているかもしれない。

しかし、発展途上国では適正管理は十分とは言えず、プラスチックごみに囲まれ、汚染された水を飲むような暮らしをしている人が少なくないのも事実である。

発展途上国の人たちは、今回の研究の上限のマイクロプラスチック量に曝された生活をしているのかもしれないのだ。

私たちは、この研究成果を、プラスチック汚染の”免罪符”にするのではなく,マイクロプラスチックの議論・研究をさらに深める契機としなければならないだろう。

如何だろうか?

次回へ・・・。