前回の続き・・・。
『基盤的高感度地震観測網( Hi-net )』が構築される前段階までを寄稿した。
総数 1,313 ヶ所にものぼる全国に設置されている Hi-net は以下のようなシステムだ。
下図のように、観測計器を設置する観測井戸と地上の観測小屋から構成されている。
地表は、車や工場、波浪等の影響による雑微動が大きく、 高感度の地震観測を行う上では大きな障害となるため、 Hi-net では、比較的雑微動が小さい場所に深さ 100m 以上の観測井戸を掘削し、その孔底に、 水密耐圧性の容器に納めた高感度の地震計が設置されている。
これによって、 人間には感じられないようなごく小さな地震までをキャッチすることができるようになるそうだ。
地震計としては、上図の右端を見てもらえばわかるが、固有周期 1 秒の高感度速度型地震計 3 成分(上下、東西、南北)をセットされている。
また、高感度の地震計だけでは、大きな地震動のときに記録が振り切れてしまうため、 大きな震動まで記録できる強震計 3 成分(上下、東西、南北)も孔底に設置されている。
更に、地表にも強震計を設置し、地下の地盤に入ってきた地震波がどのように変容して地表を揺らすかを調査するためのデータを取得できるようになっている。
この強震計による観測は、 基盤強震観測網( KiK-net ) と呼ばれている。
Hi-net は長期間にわたる安定したデータ取得が求められているため、観測井戸に設置される地震計はセメント埋設型ではなく、引き上げ修理が可能なタイプが採用されている。
前回、設置条件を寄稿したが、観測井戸の深さは、堆積層の厚さや雑微動の大きさを考慮して決められている。
下図に,観測井戸の深さ別の観測点数を示す。
深さが 1,000m を超える観測井戸は、首都圏、近畿圏、中京圏といった大都市圏が多い。
最も深い観測井戸は、埼玉県さいたま市にある岩槻観測点の 3,510m だそうだ。
玉県さいたま市岩槻区大字末田字巻之上 2878 番 3 号
センサー標高は、-3502.3m にあるらしい。
全国の Hi-net 網は以下のリンクから見ることが出来る。
私の住む大阪には 5 ヶ所あるようだ。
① 観測点名:此花 大阪府大阪市此花区北港緑地二丁目 1 番 36 、 1 番 47 (大阪市有地): 掘削長 2032.81m
② 観測点名:交野 大阪府交野市私部 3192-1 府民の森交野地区(くろんど園地): 掘削長 202m
③ 観測点名:大阪 大阪府大阪市北区長柄東 2 丁目 毛馬桜之宮公園: 掘削長 1012.458m
④ 観測点名:太子 大阪府南河内郡太子町山田 1221 太子町立総合スポーツ公園: 掘削長 102m
⑤ 観測点名:田尻 大阪府泉南郡田尻町りんくうポート南 1 番地 りんくう公園予定地: 掘削長 1532.2m
やはり、市街地は深く掘らなければいけないようだ。
因みに、温泉を採掘する場合、その費用は 100m で約 1,000 万円かかると言われている。
さてさて、 Hi-net 設置のコストはいくらになるのだろうか?
Hi-net で観測された波形データはリアルタイムで、防災科研のほか、気象庁にも伝送され、 震源情報などの結果は、気象庁からの速報の形で防災関係機関等に伝えられるほか、地震調査委員会による地震活動の現状把握や、全国の研究者による地震の調査研究等、多面的に利用されている。
これらの各種センサーの動きは微弱な電気信号に変えられ、 信号ケーブルを通じて地表の観測小屋に設置された「 AD 変換装置」に導かれ、 Hi-net のデータは、ここで 1 秒間あたり 1,000 サンプルのデータとしてデジタル化されたのち、デシメーション処理され,周波数 100Hz 、分解能 27bit のデジタルデータとして整形され、更に、データは 1 秒単位の「パケット」にまとめられ,ネットワーク上に送信される。
これらデータには、 GPS から取得した時刻情報が付与される。
Hi-net の各観測点と茨城県つくば市にある防災科研地震観測データセンターとの間は、 IP ネットワークで接続されており、各観測点でパケット化されたデータは、 IP-VPN 網を介して、 24 時間連続的にデータセンターへ伝送されている。
データセンターでは、各観測点から収集された連続波形データをとりまとめて保存するとともに、震源決定等の処理や様々な研究に活用されているそうだ。
防災科研 Hi-net は、 2000 年 10 月の本運用スタートにあわせて、インターネット上で Hi-net の波形データや暫定震源情報の公開がされている。
また、 Hi-net 観測点のデータは、 2007 年 10 月より、一般向け提供が始まった緊急地震速報にも活用され、 2003 年 6 月からは、 Hi-net の波形データとあわせて、各機関のデータについても防災科研が蓄積ならびに公開することとなっている。
Hi-net や各機関地震観測網による波形データのほか、連続波形データを利用するための参考情報として、気象庁一元化処理震源の暫定処理結果やその震源情報に基づくイベント波形データも併せて公開している。
波形データおよびそれに関連する情報の利用に際しては、ユーザ認証制が採用されており、ユーザ登録すれば誰でも何時でも閲覧できる。
防災科学技術研究所の HP には過去のスローイベント関連のトピックスが掲載されている。
- 房総半島沖で「スロー地震」再来 (2011/10/31)
- 沈み込むプレート境界の浅部から深部にいたる3つの異なる「スロー地震」の連動現象の発見 (2010/12/10)
- スローイベント発生域の地震波速度構造 (2008/12/4)
- 深部低周波微動やスロースリップイベントに同期する新たなスロー地震の発見 (2007/1/26)
- フィリピン海プレートと陸側プレートの境界で発生する新たな “ゆっくり地震” の発見 (2006/12/1)
- 2006年1月の東海地域における移動性スロースリップ及び深部低周波微動 (2006/2/7)
- 2005年7月の東海地方における深部低周波微動活動と短期的スロースリップイベント (2005/7/26)
多額の予算がつぎ込まれ、スロースリップ地震( SSE )への期待は大きいはずなのに、 2011 年以降に TOPICS が立てられていない???
いやいや、その後も論文は発表されているようだ。
下にスクロールして、「各分野における成果」の中から‟スローイベント”をクリックすると、スロースリップに関する論文が見られるようになっている。
再び、問うが、果たして、予知は実現できているのだろうか?
次回へ・・・。