「真実の口」2,168 来るべき大地震に備えて ㉛

前回の続き・・・。

前回、スロースリップに関しての検証を行ってみた。

ただ、我が国では、前述した電子基準点の他に、地震観測に関する『基盤的高感度地震観測網( Hi-net )』というものがある。

『基盤的高感度地震観測網( Hi-net )』とは、 1995 年(平成 7 年) 1 月 17 日に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)を契機に、 地震に関する調査研究の気運が広がり、「地震防災対策特別措置法」が施行されたことにより構築されていったシステムである。

この法律に基づき、科学技術庁長官(現在は文部科学大臣)を本部長とする 「地震調査研究推進本部」が新たに総理府(現在は文部科学省)に設置され、政策委員会と地震調査委員会を 2 本の柱として、活動が開始した。

この推進本部の重要な仕事のひとつとして、総合的な調査観測計画の策定と実施があり、 政策委員会の下に設けられた調査観測計画部会を中心として検討が進められた結果、 以下のような基本方針が定まったそうだ。

●基本目標 : 地震による災害の軽減に資する地震調査研究の推進

●目的 :
( 1 ) 地震現象の解明及びそれに基づく地震の発生予測
( 2 ) 地震動の解明とそれに基づく地震動の予測等

●施策 : 総合的な調査観測計画の中核として,以下の基盤的調査観測を推進する
( 1 ) 地震観測
① 陸域における高感度地震計による地震観測(微小地震観測)
② 陸域における広帯域地震計による地震観測
( 2 ) 地震動(強震)観測
( 3 ) 地殻変動観測( GPS続観測)
( 4 ) 陸域及び沿岸域における活断層調査

内陸で発生する地震の規模は、通常、地震時に破壊する断層面の大きさと変位量に依存するとされている。

このうち、断層の長さや変位量をあらかじめ推定することは非常に困難だが、もし、内陸地震が発生し得る深さの限界を把握することができれば、経験的に断層面の最大幅を予測することができると考えられた。

内陸で起きる地震の深さは通常 15 ~ 20km 以浅で、それらの地震の深さを精密に決定して、起こり得る地震の最大規模を推定するため、観測点の間隔を概ね 20km 程度として設置していった。

・日本全国に、約 20kmメッシュを基本として観測点を配置する(全国で約 1,000 点)。
・気象庁や国立大学等による既存の地震観測点の近傍は避け、観測体制の空白地域から優先的に配置する。
・上記の配置を終えたのち、既存点の観測能力等を見直し,必要な更新等を行う。 また、必要な離島への観測点配置を行う。

こうして整備されたものが、防災科研の 781 ヶ所、気象庁の 235 ヶ所、国立大学の 222ヶ所、産総研の 28ヶ所、国土地理院のヶ所に加え、海底地震計 45 ヶ所で総数は 1,313 ヶ所にのぼる。

以下が、「地震防災対策特別措置法」施工前と施工後の震度観測点である。

震度観測点遷移

如何に予算が使われてきたのかが分かると思う。

この地点を決めるにあたっても、予算が相当使われているのは言わずもがなである。

以下がその流れらしい。

◆ 1-1.  机上での配点計画の作成

1. 日本列島の重心( 137°42′44″E ,37°30′52″N : 国土地理院ホームページ による)を原点として、 日本列島全体を Gauss-Kruger 図法で投影し、一辺 20km の正三角形グリッドを作り、その格子点のうち海中にあるものを除いて、座標リストを作る。 ただし、離島は 20km 間隔グリッドの概念から外れるため、別途考慮する。

2. 上記リストのうち、既存の地震観測点(国土地理院「微小地震観測施設要覧」及びその後に追加された既設点)から 12 ~ 15km 以内に位置する格子点を除く。

3. 上記格子点を大縮尺の地図上で確認し、電気・電話のない山岳地帯や鉄道・高速道路、海岸線の真上といった不適格地点は、半径 5km くらいの範囲内で適当と思われる場所へ移す。 5km 内に適地がない場合、その候補点は除外する。

4. 各地点につき、資料でわかる範囲で、地質および環境条件〔国立公園、急傾斜地、保安林、地滑り地帯、都市域、巨大振動源(巨大工場)、砕石場等〕、 必要掘削深度、工法(ケーシング段数等)、経費概算等について調査する。

掘削深度については,先第三系の基盤深度等を勘案するが、地表から岩盤の場合であっても、 気象の影響等による地表付近の雑微動を避けるために、最低 100m は掘削することとした。 逆に、地質条件の悪い場合や、幹線道路に近い等、ノイズ環境の悪い場合には 200 ~ 300m の掘削も考慮した。大市街地等の観測条件の悪い場所では 1000m 級の観測井が必要な場合もある。

◆ 1-2. 借地可能な候補地点の推薦

高感度地震観測施設は、長期間にわたり安定した観測を実施することが求められている。 したがって、技術的な事項のみならず、半永久的な地震観測用地として借地可能な土地が得られるかどうかが大きな問題となるため、市町村等に対し、以下に示すような設置条件を満たし、かつ借地が可能であるような候補地点を、できれば複数個所推薦して頂く。

1. 地質・地形条件

ア. 設置点の地質条件としては、中新統前期ないしそれより古い地層もしくは深成岩が 50m 以浅に分布しているのが最適である。ただし、石灰岩層は、鍾乳洞等があるので、避けた方がよい。
イ. 顕著な断層破砕帯付近、深層風化(とくに花崗岩地帯)、地滑り、山崩れ等を起こしやすい地質・地形条件の場所は避ける。

2. 社会・環境条件

1 )
・新幹線・高速道路から 3km 以内、鉄道・主要幹線道路から1km以内、砕石場・発電所・大工場・瀑布等の震動源から 0.5 km以内、生活道路・急流等から 30m以内の場所は避ける。
・山地ならば支流沿いで行止まりないし交通量の少ない谷地が望ましい。
・平坦地ならば、主要地方道からできるだけ離れた場所が望ましい。
・山の上はできるだけ避け、可能な限り谷地を選定すること。

2 )
・土地借用上の問題からは、学校・公民館・公園・神社・寺等の公共施設もしくはそれに準じる施設の用地内が望ましい。

3 )
用地の面積(観測施設 20 ~ 40㎡ 、ほかに作井および観測小屋設置作業用に 200㎡ ほど)が確保でき、地形条件・道路条件が作業に適していること(4トン車が入れば充分)。また、水利のあることが望ましい(川があれば利用可、水道があれば業者支払い、何もない場合は給水車利用)。

4 )
電力および電話回線の引き込みが可能な場所であること。引き込み線の長さは、 100m 以下であることが望ましい。

5 )
電気的ノイズを拾わないため、高圧電力線の直下は避けること。

6 )
長期間の観測を可能にするため、近い将来に開発の予定されている地域は避けること。

◆ 1-3. 現地調査・交渉

上記で推薦された各候補地点において、地質条件・環境条件・工事の難易度等、技術的側面として必要な事項につき、地質コンサルタント等の専門家による調査を行う。この調査結果を受けて研究者が現地に赴き、複数の候補地点の中から高感度地震観測施設としてもっとも適切な候補地を選定すると同時に地元へのあいさつ、借地交渉を行なう。

◆ 1-4. 全体実行計画の策定・設置地点の決定

・現地調査がひととおり終了した段階で、経費を含めた当該年度の全体実行計画を策定し、実際に高感度地震観測施設を設置する地点を決定する。

◆ 1-5. 観測点の建設

・観測井の掘削は、現地に 200 ~ 250㎡ の工事用敷地を確保して機材を配置し、掘削装置によって行う。 掘削のためのやぐらの大きさは、脚部が約 5m 四方,高さ約 15m 。掘削した孔内には 3 重のケーシングパイプを挿入し、その外側は全長をセメンティングして周囲から閉鎖する。観測井周辺の地下水系には影響を与えない。

・観測井の完成後、孔底部のケーシングパイプに設けたキー溝の方位を測定して、設置時に水平動の地震計が正しく南北と東西に向くよう調節を行ったのち、地震計等を収納した観測装置を孔底に設置する。 観測装置は全長約 3m で、底部は台座に着底し、頭部はバネ式の固定器によって周囲のケーシングパイプに固定される。観測装置には、信号ケーブルのほかに吊りワイヤが取り付けられており、このワイヤを引張ることにより固定器が外れ、観測装置を回収することが可能となる。

・観測施設の完成後、現地観測所は常時無人とし、担当者が定期的に巡回して、施設及び機器の保守・点検を行う。

この流れを見るだけで地震予知にジャブジャブと予算が使われているのが分かると思う。

次回へ・・・。