「真実の口」1,545 新型コロナウィルス・・・77

前回の続き・・・。

前回、イタリアからの新型コロナウィルスの後遺症のレポートをご紹介した。

中国の孫文大学第五附属病院でも、新型コロナウィルス感染症で入院していた患者 57 人が退院した 1 ヶ月後も、半分以上が呼吸機能に何らかの異常が残っていると報告されている。

Impact of coronavirus disease 2019 on pulmonary function in early convalescence phase

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

≪概略≫

【目的】

本研究では、新型コロナウィルス( COVID-19 )が早期完治期の肺機能に及ぼす影響を検討した。

【方法】

孫文大学第五附属病院の COVID-19 患者を対象としたレトロスペクティブ研究を行い、退院後 30 日目に肺量( TLC )、スピロメトリー( FVC、FEV1 )、一酸化炭素の肺拡散能( DLCO )、呼吸筋力、 6 分歩行距離( 6MWD )、高分解能 CT を連続的に測定した。

【結果】

57 名の患者が連続評価を完了した。

非重症例は 40 例、重症例は 17 例であった。

31 例( 54.3% )に CT 所見の異常が認められた。

肺機能検査では 43 例( 75.4% )に異常が認められた。

以下の測定で予測値の80%未満であった

FVC (努力肺活量)・・・ 6 例( 10.5%)
FEV1 ( 1 秒間の強制呼気量)・・・ 5 例( 8.7% )
FEV1 / FVC 比 (1 秒間の強制呼気量/強制バイタル容量)・・・ 25 例( 43.8% )
TLC (肺総量)・・・ 7 例( 12.3% )
DLCO (一酸化炭素の肺拡散能障害)・・・ 30 例( 52.6% )
PImax (最大静的吸気圧)・・・ 28 例( 49.1%)
PEmax (最大静的呼気圧)・・・ 13 例( 22.8%)

重症患者は非重症患者と比較して、一酸化炭素の肺拡散能( DLCO )障害の発生率が高く( 75.6% vs 42.5% 、p=0.019 )、肺総重症度スコア( TSS )と R20 が高く、 TLC と 6MWD の予測値の割合が有意に低かった。

TSS と肺機能パラメータとの間に有意な相関は認められなかった。

【結論】

COVID-19 に感染した患者の半数以上では、早期回復期に拡散容量の低下、呼吸筋力低下、肺画像異常が認められた。

重症患者は、非重症患者と比較して DLCO 障害の発生率が高く、 TLC 低下と 6MWD 低下が多かった。

(中略)

≪詳細≫

【患者の選択】

当院退院後 30 日後の COVID-19 患者を対象としたフォローアップ試験を行った。

2020 年 1 月 17 日から 2020 年 3 月 1 日までに、孫文大学第五附属病院にCOVID-19 患者 103 名が入院した。

COVID-19 の診断は CDC 基準に基づいて行った。

すべての患者はリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応( RT-PCR )または次世代シークエンシングにより SARS-CoV-2 感染が実験室で確認されていた。

全員、中国国家衛生委員会が発行した一律退院基準に達しており、退院後 1カ月以上経過していた。

退院後 30 日以内に 18 歳以上の患者を対象とした。

肺切除の既往歴のある患者、神経疾患、精神疾患のある患者は本研究から除外した。

肺機能検査の前に患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。

本研究は、孫文大学第五附属病院の機関倫理委員会により承認された。

【分類】

これらの患者のカルテをレトロスペクティブに解析し、重症度に応じて非重症群と重症群に分けた。

重症患者とは、以下の基準のいずれかを満たした場合に定義された.

・息切れ、 RR ≧ 30 回/分
・安静時血中酸素飽和度 93% 以下
・動脈部分酸素圧( PaO2 )/吸入中酸素濃度( Fi02 ) ≦ 300mmmHg

呼吸不全は機械換気を必要とするショックが発生したか、または他の臓器不全を合併しており、 ICU での監視と治療を必要としていた。

そうでなければ軽症例であった。

【肺画像取得とCTの定量評価】

すべての被験者は、吸気終了時に仰臥位で高解像度スパイラル CT ( SOMATOM Definition Flash Siemens; Erlangen, Germany )スキャンを受けた。

画像はスライス厚 1.0mm、 1mm 刻みで 512mm × 512mm で再構成された。

画像は、臨床情報を盲検化した 2 人の放射線科医によって評価された。

肺炎症の重症度を定量化するために、 Michael らと同じ方法を用いた。

簡潔に言えば、 5 つの肺葉のそれぞれが病変の程度について評価され以下のように分類された。

病変なし( 0% )
最小( 1 ~ 25% )
軽度( 26 ~ 50% )
中等度( 51 ~ 75% )
重度( 76 ~ 100% )

また、以下のように対応された。

肺病変なし・・・葉スコア 0
最小病変・・・葉スコア 1
軽度病変・・・葉スコア 2
中等度病変・・・葉スコア 3
重度病変・・・葉スコア 4

すべての CT スコアは、 2人の呼吸器内科医によって独立して行われた。

合意はコンセンサスによって得られた。

【6 分歩行テスト】

6 分歩行テスト( 6MWT )は、心肺疾患を持つ患者の日常活動に関連する機能状態を評価する運動テストである。

歩行距離は性別、年齢、身長と密接に関連しており、従来は上記のパラメータに応じた階層的な分析が必要であった。

しかし、本研究ではサンプルサイズが小さく、年齢、性別、身長に基づく層別分析には適していなかった。

そこで、健常成人における 6MWT の参考式に基づいて、同性、同年齢、同身長の健常者の歩行距離を推定した。

そして、健常者の予測値に対する患者の実測値の比率を算出した。

この比率を比較することで、非重症者と重症者の COVID-19 患者の間で 6MWD に差があるかどうかを確認することができた。

【肺機能検査と呼吸筋力測定】

各被験者は、標準的な肺機能検査(マスタースクリーン、イェーガー、ドイツ語)を受けた。

記録されたパラメータには、肺総量( TLC )、強制バイタル容量( FVC )、残量( RV)、 1 秒間の強制呼気量( FEV1 )、最大呼気流量( MMEF75/25 )、 FEV1 / FVC 比、および一酸化炭素に対する肺の拡散容量( DLCO )が含まれる。

インポーズオシレーションシステム( IOS )を用いて、発振周波数 5Hz ( R5 )で気道粘性抵抗を、発振周波数 20Hz ( R20 )で中心気道抵抗を測定した。

口圧計は、フランジ付きシガレットホルダーを介して、最大静的吸気圧( PImax )または最大静的呼気圧( PEmax )を測定することができる。

すべての被験者は、この単純な方法を使用して、吸気筋力および呼気筋力を測定した。

スピロメトリー、 DLCO 、および呼吸筋力測定値は、予測された正常値のパーセンテージとして表された。

肺機能検査室のスタッフを保護するために、肺機能検査は陰圧装置のある部屋で実施した。

スタッフは、 N95 呼吸器、保護眼鏡、手袋、ガウンなどの個人用保護具を着用した。

さらに、各患者は検査中に使い捨てのウイルス・細菌フィルターを使用した。

【 COVID-19 登録患者の特徴】

この研究では、合計 102 人の患者を評価した。

5 名の患者は未成年のため除外した。

24 人の患者は退院後 30 日未満であったため除外された。

3 人の患者は神経学的または精神疾患のために除外された。

さらに、 8 人の患者が接触を絶っていた。

最終的に 57 人の患者が対象となり、本研究での連続評価を完了した。

平均年齢: 46.72 ± 13.78 歳( 19~71 歳)
平均体格指数: 23.99 ± 3.55kg / m2  (男性 26 名、女性 31 名)
喫煙歴: 9 名( 15.7% )
基礎疾患: 21 人( 36.8% )
・高血圧( 11 人)
・糖尿病( 4 人)
・悪性腫瘍( 3 人)
・心血管疾患( 3 人)

これらの疾患はすべて、試験期間中の検査時点で治癒しているか、または安定しており、良好にコントロールされていた。

慢性呼吸器疾患を有する患者は報告されなかった。

全症例のうち、重症例は 17 例( 29.8% )、非重症例は 40 例( 70.2% )であった。

重症者は男性が多く( 70.6% )、平均年齢は非重症者に比べて高年齢であった。

重症者の平均 PaO2 (動脈酸素分圧)/FiO2 (吸入中酸素濃度)比は非重症者に比べて有意に低かった。

一方,重症者は非重症者に比べて血清乳酸脱水素酵素( LDH )、 C 反応性蛋白( CRP )のピークが高く、リンパ球数も低かった。

しかし、白血球、クレアチンキナーゼ( CK )、乳酸ピーク、入院期間の値には両群間で有意差はなかった。

【肺機能検査と呼吸筋力】

COVID-19 患者の肺機能検査と呼吸筋力の結果。

退院後 1 ヶ月の追跡調査では、本研究に参加した 57 名の患者のうち、拡散能力に異常があったのは 30 名( 52.6% )であった。

ATS の呼吸器障害評価の推奨事項によれば、 DLCO の障害は 26 例( 86.7% )で軽度、他の 4 例( 13.3% )で中等度であった。

拡散能力の低下は両群間で有意差があり、非重症者では 42.5% 、重症者では 75.6% であった。

1 秒での強制呼気量( FEV1 )、静肺量の群平均は正常範囲内(予測値 80% 以上)であった。

しかし、 FVC 、 FEV1 、 FEV1 / FVC 比に異常が認められた症例が数例あった。

・ FVC (努力肺活量)
軽度障害・・・ 5 例( 8.7% )
中等度障害・・・ 1 例( 1.8% )

・ FEV1 ( 1 秒間の強制呼気量)
軽度障害・・・ 5 例 ( 8.7% )

・ FVV1 / FVC
軽度障害・・・ 25 例( 43.9% )

R5 が予測値の 150% 以上上昇した患者は 8 例( 14.0% )
R20 が予測値の 150% 以上上昇した患者は 10 例( 17.5% )

R5 、 R20 は、 5Hz 、 20Hz での気道抵抗のこと。

1ヵ月後の肺活量( TLC) の低下は 12.2% に達した。

そのうち軽度のものは 6 名、中等度のものは 1 名であった。

TLC の低下は重度の患者ほど顕著であった。

FVC 、 FEV1 、 FEV1/FVC には両群間で差はなかった。

FEV1 と FVC の障害の大部分は制限的な異常を示していた。

喘息の既往歴のない 1 名の患者では、 FEV1 / FVC 比が予測値< 70% (気管支拡張後は最大 72% )の閉塞性異常を有していた。

この患者には喫煙歴が著明であった。

喘息の症状を訴えていなかったが、他の 1 例ではサルブタモール吸入後に FEV1> 200ml の増分を伴う有意な気管支拡張反応を示した。

対象者の半数以上が呼吸筋力の障害を有していた。

PImax (最大静的吸気圧)値が予測値の 80% 未満の患者は 28例( 49.1% )
PEmax (最大静的呼気圧)値が予測値の 80% 未満の患者は 13 例( 22.8% )

13 例が中等度の呼吸筋力障害を有し、そのうち 11 例が非重症例であった。

ステロイドの投与量でグループ分けした場合、グルココルチコイド群と通常群との間に呼吸筋力の統計的有意差は認められなかった。

【胸部 X 線写真と肺機能との相関性】

退院後 30 日後の経過観察では、 6 名( 10.5% )が軽度の咳、 4 名( 7.0% )が息切れ、 3名( 5.3% )が時折の喘鳴を訴えていた。

この時のフォローアップ CT 検査では、 31 名( 54.4% )に残存異常が認められ、そのうち重症例 16 名( 94.1% )、非重症例 15 名( 37.5% )であった。

肺線維症は 4 例で、いずれも重症例であった。

重症患者は非重症患者に比べて CT スコアが有意に高かった。

急性期では肺全重症度スコアは TLC および R20 と負の相関を示したが、フォローアップ期間中には相関は消失した。

(後略)

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

中国での研究結果でも同様に後遺症が見られたようだ。

次回へ・・・。