「真実の口」2,058 ‟がん”という病 ⑤~日本人のための‟がん”予防法( 5+1 )編(その4)~

前回の続き・・・。

6. 感染

☞ 肝炎ウィルス感染の有無を知り、感染している場合は治療を受ける。
☞ ピロリ菌感染の有無を知り、感染している場合は除菌を検討する。
☞ 該当する年齢の人は、子宮頸がんワクチンの定期接種を受ける。

IARC により、B 型・ C 型肝炎ウィルスの持続感染は、肝がんおよび非ホジキンリンパ腫( C 型肝炎ウィルス)について、また、ヒトパピローマウィルス 16 型は、子宮頸、外陰、膣、陰茎、肛門、口腔、中咽頭、扁桃のがんについて、ヘリコバクター・ピロリ菌は非噴門部胃がん、胃 MALT リンパ腫について、発がん要因であるのは‟確実”と評価されている。

感染に起因する‟がん”は、先進国全体では 9% と比較的低いのに対し、発展途上国では 23% となっている。

また、日本では、胃がんや肝がんが多いため、 B 型・ C 型肝炎ウィルス、ヘリコバクター・ピロリ菌、ヒトパピローマウィルス感染に起因する‟がん”は 20% と推計されていて、先進国の中では高い方である( IARC 2003 )。

日本人を対象とした B 型肝炎ウィルスと肝がんの 34 研究と、 C 型肝炎ウィルスと肝がんの 20 研究に基づいて、 B 型・ C 型肝炎ウィルスは肝がんのリスクを上げることは‟確実”と評価している。

また、 C 型肝炎ウィルス治療により肝がんのリスクを下げることが‟確実”と評価している。

献血者約 15 万人を追跡し、 B 型・ C 型肝炎ウィルスマーカーが陰性の人と比べて、陽性者のリスクは 100 倍を上回ることが報告されている( Tanaka et al. Int J Cancer 2004 )。

別の一般住民を対象としたコホート研究では B 型・ C 型肝炎ウィルスマーカーが陰性の人と比べて、 B 型・ C 型肝炎ウィルスそれぞれの単独感染では肝がんのリスクがそれぞれ 35.8 倍、 16.1 倍、また、両ウィルスによる重複感染があると肝がんのリスクが 46.6 倍であるとの報告もある( Ishiguro et al. Cancer Lett 2011 )。

また、肝がんの約 8 割が B 型または C 型肝炎ウィルス陽性者から発生するとの報告もあるので( Ishiguro et al. Eur J Cancer Prev 2009 )、これらのウィルスに感染していなければ、肝がんはまれにしか発生しないことになる。

B 型・ C 型肝炎ウィルスは、主に血液、また、 B 型肝炎ウイルスは性的接触を介しても感染する。

出産時の母子感染、輸血や血液製剤の使用、まだ感染リスクが明らかでなかった時代の医療行為による感染ルートも考えられる。

その他、医療従事者は肝炎ウィルスに感染している人の血液が付着した針を誤って刺した場合に感染する恐れがある。

現在、中高年の方は、輸血や血液製剤の使用などに思いあたることがなくても、昔受けた医療行為などによって、知らないうちに感染している可能性もあるので、地域の保健所や医療機関で、一度は肝炎ウィルスの検査を受けることが重要である(検査の日時や費用は各施設によって異なる)。

もし、陽性であればさらに詳しい検査が必要なので、ウィルス駆除や肝臓の炎症を抑える治療、あるいは肝臓がんの早期発見のために、肝臓の専門医を受診したほうがベストである。

C 型肝炎ウィルスの場合、インターフェロン治療でウィルス駆除に成功すると肝がん発生リスクが 1/5 になるという報告がある( Yoshida et al. Ann Intern Med 1999 )。

また、インターフェロン治療と他の抗ウィルス薬を組み合せた最新の治療法ではウィルス駆除率が約 9 割になるとされている( Hayashi et al. J Hepatol 2014 )。

もし、インターフェロン治療が不可能あるいは効果がなかった場合でも、副作用の少ない経口薬のみによる治療が 2014 年 9 月から可能となり、ウィルス駆除率は 8 ~ 9 割とされている( Kumada et al. Hepatology 2014 )。

特に、 C 型肝炎ウィルスの治療は、肝がんのリスクを確実に低下させると評価されているので、必ず治療を受けるようにしよう。

B 型肝炎ウィルスの場合、ウィルス駆除はかなり困難になるが、インターフェロンあるいは抗ウィルス薬を用いることによってウィルス量を減らすことができ、これに伴って肝がん発生リスクが減少する事が報告されている。

C 型肝炎および B 型肝炎のいずれの場合でも、肝臓の専門医とよく相談しながら治療を進めていくことが大切である。

肝炎ウィルス感染の治療法の進歩はめざましく、さらに有効な新薬の開発が進められており、医療費助成の制度が設けられているので、是非、活用したほうが良い。

詳細は、以下のHPに記載されている。

厚生労働省肝炎対策推進室
国立国際医療研究センター 肝炎情報センター

日本の B 型・ C 型肝炎ウィルス感染者は、それぞれ 150 万人、 200 万人とも言われているので、適切な対策により、効果が期待できるといえる。

【ヒトパピローマウィルスと子宮頸がん】

日本人を対象としたヒトパピローマウィルスと子宮頸がんの 7 研究に基づき、ヒトパピローマウィルスが子宮頸がんのリスクを上げることは‟確実”と評価されており、特に、ウィルスタイプの 16 型および 18 型で一貫した結果が見られている。

また、 HPV ワクチンは子宮頸がんのリスクを下げることが‟確実”と評価されている。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウィルス( HPV )は、性交渉により感染することが知られている。

また、性交経験のある女性のほとんどが、一生に一度は HPV に感染することがわかっている。

国内の調査では、細胞学的に異常のない女性の場合、 15 ~ 19 歳で 35.9% 、 20 ~ 29 歳で 28.9% に HPV が検出されたと報告されている( Onuki et al. Cancer Sci 2009 )。

また、別の研究においても、女性の HPV 感染率は、 10 ~ 30% 、性経験のある女性なら約 80% はハイリスクタイプの HPV に一度は感染すると報告されている( Keam et al. Drugs 2008 )。

特に、性交渉の活発な年代ではごく普通に見られる感染といえる。

感染しても多くの場合、 HPV は自然に消滅する一方、繰り返し感染を起こす。

また、長期持続的に感染した場合に、細胞に障害(前がん病変)を引き起こし、その後、子宮頸がんに進展する可能性がある。

しかし、 HPV 感染や、初期の子宮頸がんに特徴的な症状はないため、定期的にがん検診を受ける、禁煙するなどの配慮が必要となる。

子宮頸がんでは、喫煙は発がん促進そのものではなく、 HPV により誘発された細胞の障害が退縮するのを妨げるように作用しているのではないかと考えられてる( Matsumoto et al. Cancer Sci 2010 )。

子宮頸がん検診/子宮疾患の治療のために医療機関を受診した約 2,300 名の女性を対象とした研究では、浸潤子宮頸がんの 67% に、 HPV16 型、 HPV18 型単独感染、あるいは、他の型も含めた混合感染がみられることが分かった( Onuki et al. Cancer Sci 2009  )。

現在、この HPV16 型と HPV18 型 2 種類に対するワクチン、さらに HPV6 型と HPV11 型(がんを引き起こすリスクは低いが、尖圭コンジローマのリスクとなる)も含む 4 種類に対するワクチンが国内で接種可能となり、公費助成の動きも広がってきている。

日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本婦人科腫瘍学会は、ワクチンの推奨接種年齢を 11 ~ 14 歳とする共同声明を発表していまる、費用対効果の面からは 45 歳まで接種が勧められている( Konno et al. Int J Gynecol Cancer 2010 )。

一方、 2014 年 10 月に出された WHO の方針書では、ワクチンを国のプログラムとして行うことを推奨しており、適用年齢の範囲は 9 ~ 13 歳を第 1 の候補と定めている( WHO position paper, 2014 )。

二価ワクチンのブリッジング試験として日本で行われた 4 年間の追跡調査の結果では、ベースラインで HPV16 型と HPV18 型が陰性の女子において、 CIN1 以上の発生は HPVワクチン群で 0 例だったのに対し、コントロール群( A 型肝炎予防ワクチン接種)では 5 例だった( Konno et al, Hum Vaccin Immunother 2014 )。

同報告では、日本人女性においても HPV ワクチンの効果が高いことに加えて、ウィルスの抗体価が一定期間持続することや深刻な副作用、新規疾患の発症、何らかの臨床症状について両群で差がないことを示しており、これらは海外の大規模な臨床試験の知見を支持するものと同様だった。

日本人を対象とした研究結果から、 HPV ワクチンが子宮頸がんのリスクを低下させることは‟確実”と評価されている。

2022 年 4 月からは HPV ワクチンの接種について、積極的な勧奨が再開されることとなった(予防接種情報/厚生労働省( mhlw.go.jp )。

子宮頸がんはその他の‟がん”と異なり若い世代に多く見られ、定期接種に該当する年齢(小学校 6 年から高校 1 年相当)の場合は、ワクチンを接種するとともに子宮頸がん検診を定期的に受診することが、子宮頸がんの予防と早期治療のために有効と考えられる。

【ヘリコバクター・ピロリと胃がん】

日本人を対象としたヘリコバクター・ピロリ菌と胃がんの 19 研究に基づき、ヘリコバクター・ピロリ菌が胃がんのリスクを上げることは‟確実”と評価されている。

また、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌により、リスクを下げることは‟確実”と評価されている( Lin et al. Jpn J Clin Oncol 2021 )。

日本人の中高年のヘリコバクター・ピロリ菌感染率は非常に高く、胃がんである人にも胃がんでない人にもピロリ菌の感染者が多くいることが報告されている。

感染時期は 5 歳くらいまでとされ、糞便等を介して感染すると考えられている。

日本では、戦後、衛生環境が劇的に改善され、出生の時期によって感染率が大きく異なっている。

日本人健常者の研究を統合したメタ解析では、 1940 年代頃までの出生世代で 70 〜 80% くらいと感染率が高く、 1950 年代以降の出生世代については、出生年が遅くなるほど、感染率が低下し、 2000 年以降の出生世代では 10% 未満になっている( Wang C et al. Sci Rep 2017。

ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がんの発生リスクとの関係を調べた日本人中高年期( 40 ~ 69 歳) 4 万人を 15 年追跡したコホート研究では、ヘリコバクター・ピロリ菌陰性者と比べて、現在の陽性者、過去も含めた陽性者のリスクはそれぞれ、 5 倍、 10 倍であることが報告されている( Sasazuki et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2006 )。

しかし、日本人中高年の感染率は非常に高く、胃がんになった人の 6 ~ 10 割近くが感染者であったのに対し、胃がんでない人でも 4 ~ 9 割の人が感染者であることが報告されている。

感染の有無にかかわらず、‟禁煙”、‟塩や高塩分食品の摂取過多”、‟野菜・果物の摂取不足”などの生活習慣への配慮も必要である。

また、感染している場合には除菌治療がある。

除菌治療では 9 割以上の人が除菌に成功するとされている。

19 のコホート研究や無作為化比較試験をメタ解析した結果では、ピロリ菌の除菌治療を行うことで、胃がんのリスクが有意に低下することがみられた。

このように、除菌治療による胃がん予防効果を示唆する研究結果が蓄積されてきているが、除菌しても将来的に胃がんが発生するケースもあるので定期的な検査の継続が必要である。

また、人により起こりうる皮膚症状や他の疾病への影響など、不利益の側面に関する情報は不足している。

除菌治療を選択する場合は、利益と不利益を考えたうえで主治医と相談し決めた方が良い。

2014 年に IARC/WHO による専門委員会は各国の医療優先度、経済効果などの事情に応じた、ピロリ菌検査や治療などを含むピロリ菌対策を模索するよう勧告しており、その対策は、実施可能性、効果、副作用について考慮された科学的に妥当な方法でもって実施されるべきであると指摘している。

これら 3 つの要因、肝炎ウィルス、ヒトパピローマウィルス、ヘリコバクター・ピロリ菌に、 Epstein-barr virus 、 Human Adult T Cell Leukemia Virus ( HTLV )-I virus を加えた場合、感染の‟がん”全体に起因する割合は、男性で罹患の 18.1% 、死亡の 18.5% 、女性の罹患の 14.7% 、死亡の 16.5% となった( Inoue et al. Glob Health Med. 2022 )。

‟感染”は、男性では‟喫煙”に次いで、また、女性では最も‟がん”の原因としての寄与が高い要因であることが分かっている。

次回へ・・・。