「真実の口」2,058 ‟がん”という病 ④~日本人のための‟がん”予防法( 5+1 )編(その3)~

前回の続き・・・。

4. 身体活動

☞ 日常生活を活動的に。
☞ 歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を 1 日 60 分行う。
☞ 息がはずみ汗をかく程度の運動を 1 週間に 60 分程度行う。

中等度から強度の身体活動が、大腸(結腸)がんのリスクを下げることは‟確実”、また、閉経後乳がん、子宮体がんのリスクを下げることは‟ほぼ確実”、強度の身体活動により閉経前乳がんのリスクが下がることは“ほぼ確実”と評価されている( WCRF International/AICR )。

近年は、‟がん”罹患後の‟がん”死亡に対して予防的であるとの報告も蓄積されつつある。

また、アメリカ心臓協会は、中等度から活発な身体活動は血圧の管理に適しているとし、心疾患予防のために週当たり 150 分の中等度の身体活動、または 75 分の活発な身体活動を推奨している( American Heart Association Guidelines )。

日本人を対象とした研究に基づいて、身体活動は、大腸(結腸)がんのリスクを下げることは‟ほぼ確実”と評価している( Pham et al. Jpn J Clin Oncol 2012 )。

日本人を対象としたコホート研究では、仕事や運動などからの身体活動量が高くなるほど、‟がん”全体の発生リスクは低くなることが示されている( Inoue et al. Am J Epidemiol 2008 )。

さらに、身体活動量が高いと‟がん”のみならず心疾患の死亡のリスクも低くなることから、死亡全体のリスクも低まることが分かっている( Inoue et al. Ann Epidemiol 2008 )。

厚生労働省は「健康づくりのための運動指針 2013 」の中で、 18 ~ 64 歳では、身体活動量の基準として強度が 3 メッツ以上の身体活動を 23 メッツ・時/週行うことを目標としている。

メッツとは、身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が 1 メッツ、普通歩行が 3 メッツに相当する。

また、「楽」に感じれば 3 メッツ、「やや楽」なら 4 メッツ、「ややきつい」なら 5 メッツといったとらえ方もできる。

消費カロリーで見ると、座位安静時( 1 メッツ)の 1 時間あたりのエネルギー消費量は、 1.0 ( kcal ) × 体重( kg )で計算できる。

1 メッツ・時に相当する身体活動とは・・・。

〈生活活動〉
・ 20 分の歩行
・ 15 分の自転車や子どもとの遊び
・ 10 分の階段昇降
・ 7 ~ 8 分の重い荷物運び

〈運動〉
・ 20 分の軽い筋力トレーニング
・ 15 分の速歩やゴルフ
・ 10 分の軽いジョギングやエアロビクス
・ 7 ~ 8 分のランニングや水泳

「健康づくりのための運動指針 2013 」では、 65 歳以上の基準としては、強度を問わず 10 メッツ・時/週、具体的には横になったままや座ったままにならなければどんな動きでもよいので、身体活動を毎日 40 分行うことを目安としている。

日本人を対象としたコホート研究では、仕事や運動などからの身体活動量が高くなるほど、‟がん”全体の発生リスクは低くなることが示されている( Inoue et al. Am J Epidemiol 2008 )。

身体活動に起因する‟がん”罹患・死亡の割合は、男性で罹患 1.0% 、死亡 0.9%、女性で罹患 1.6% 、死亡 0.8% と試算されている( Inoue et al. Glob Health Med. 2022 )。

2019 年の国民健康・栄養調査によると、 20 歳以上で運動習慣のある者の割合は、男性 33.4% 、女性 25.1% と推計されている。

また、これまでの国民健康・栄養調査からのデータの推移からは、 1970 年代よりエネルギー摂取量が一貫して減少しているにも関わらず、男性においては、肥満指数( BMI:Body Mass Index )が増加傾向にあることから、仕事などでの身体活動量が低下していることが示唆される。

身体活動量を上げることは、糖尿病や循環器疾患など多くの生活習慣病の予防効果もあるので、特に、仕事において身体活動量が十分でない人に対して、運動習慣を持つ者の割合を増やすことが、重要な課題のようだ。

まあ、運動しないより運動したほうがいいことは誰でも分かっていることなのだが・・・(笑)

5. 適正体重の維持

☞ 適正な範囲内に。
☞ 中高年期男性の適正な BMI ( Body Mass Index :肥満度)値は、 21 ~ 27 、中高年期女性は 21 ~ 25 、この範囲内になるように体重を管理する。

※ BMI の求め方: BMI 値 = 体重( kg )/身長( m )2

日本人を対象とした研究に基づいて、肥満は、閉経後乳がん( Wada et al. Ann Oncol 2014 )および肝がん( Tanaka et al. Jpn J Clin Oncol 2012 )のリスクを上げることは‟確実”と評価している。

また、大腸がんに対しては‟ほぼ確実”、膵がん(男性 BMI 30 以上)、子宮内膜がん、閉経前乳がんでは‟可能性あり”と評価している。

‟がん”全体としてみたときは、男性において BMI 18.5 未満の‟やせ”について、また、女性において BMI 30 以上の‟肥満”においてリスクが上昇することは“可能性あり”と評価している。

高身長の評価は、大腸(結腸)がんのリスクを上げることが‟ほぼ確実”としている( Shrestha et al. Jpn J Clin Oncol 2022 )。

余談だが・・・。

‟高身長”とは、日本人の場合、身長偏差値的な基準としては、男性 175cm 、女性 162cm あたりから高いと言う評価になるようだが・・・。

ただ、医学的に‟高身長”と対義語に当たる、‟低身長”という言葉がある。

平均身長から -2SD の値に位置した数値からが‟低身長”という判断がされる。

日本人の平均値身長は・・・。

男性: 171.4cm
女性: 158.0cm

これに当てはめて -2SD は・・・。

男性: 160cm
女性: 148cm

逆に +2SD は・・・。

男性: 182cm
女性: 168cm

184cm の私は有無を言わさず、‟高身長”となり、大腸(結腸)がんのリスクを上げることが‟ほぼ確実”となるわけだ・・・(笑)。

閑話休題。

国内の 8 コホート研究を統合した結果によると、肥満度の指標である BMI 値が 1 増加するごとのリスク評価。

・大腸がん:男性 1.03 倍、女性 1.02 倍( Matsuo et al. Ann Oncol 2011 )
・閉経前乳がん(女性): 1.03 倍(Wada et al. Ann Oncol 2014)
・閉経後乳がん(女性): 1.05 倍(〃)

一方、国内の 7 コホート研究を統合した結果によると BMI と全死亡、‟がん”死亡(男性)のリスクとの間には逆 J 字形の関連がみられた。

女性においては BMI 30 以上の肥満でのみ‟がん”死亡のリスク上昇が見られ、男女とも BMI 21 ~ 27 あたりが最も全死亡のリスクが低い範囲であることが示された( Sasazuki et al. J Epidemiol 2011 )。

BMI と‟がん”全体の発生リスクとの関係を調べた、日本人中高年期( 40 ~ 69 歳)男女約 9 万人を対象としたコホート研究では、男性の BMI 21 未満の‟やせ”でのみ、リスクの上昇が認められた( Inoue et al. Cancer Causes Control 2004 )。

また、別の日本人中高年期( 40 ~ 64 歳)、男女約 3 万人を対象とした研究では、女性の BMI 27.5 以上の‟肥満”でのみ、リスクの上昇が認められた( Kuriyama et al. Int J Cancer 2005 )。

このように、‟肥満”と‟がん”全体との関係は、欧米とは異なり、日本人においてはそれほど強い関連がないことが示されている。

むしろ、‟やせ”による栄養不足は免疫力を弱めて感染症を引き起こしたり、 血管を構成する壁がもろくなり、脳出血を起こしやすくしたりすることも知られている。

その一方、糖尿病、高血圧、高脂血症等、やせればやせる程リスクが低下する病気もあるので、このような疾患のある人は、その治療の一貫として、太っていれば痩せることが効果的となる。

日本人の男女の各年代における平均 BMI は 25 未満のため、世界基準である BMI 25 以上を‟体重過多”(‟過体重”および‟肥満”)とすると、‟体重過多”に起因する‟がん”罹患・死亡に寄与する割合は男女とも 0% となっている。

そこで、 WHO に提案されているアジア人の‟過体重”( BMI23 以上)・‟肥満”( BMI25 以上)の基準を使用した試算では、日本における‟がん”罹患・死亡に寄与する割合は、男性で罹患 1.0% 、死亡 1.0% 、女性で罹患 0.3% 、死亡 0.3% となった( Inoue et al. Glob Health Med. 2022, Hirabayashi et al. Glob Health Med. 2022 )。

2019 年の国民健康・栄養調査によると、 20 歳以上で BMI 25 以上である割合は、男性 33.0% 、女性 22.3% 、一方、 18.5 未満の‟やせ”の割合は、男性 3.9% 、女性 11.5% と推定されている。

‟肥満”については、BMI 30 を超えないと明らかなリスクの増加が認められていないが、日本人において 20 歳以上で BMI 30 以上である人の割合は、男性 5.5% 、女性 3.8% に過ぎないので、‟肥満”対策による‟がん”予防効果は、小さいと思われる。

むしろ、日本人中高年においては、 BMI 21 未満の‟やせ”における‟がん”のリスクの増加も示され、その割合も20%を上回っているために、‟やせ”対策によるがん予防効果の方が大きい可能性があることに留意する必要があるようだ。

同調査では、 65 歳以上の高齢者で BMI 21 未満である割合は、男性で 12.4% 、女性で 20.7% と推定されている。

‟肥満”対策は、糖尿病や高血圧などの予防に有効である一方、‟やせ”対策は、感染症や脳出血の予防にも効果があるので、‟肥満”、および、‟やせ”の割合を減少させることが重要な課題となるようだ。

次回へ・・・。