前回の続き・・・。
前回まで、国立がん研究センターが 8 月 1 日に発表した‟がん”が社会に与える経済的影響について、年間約 2 兆 8,600 億円が経済的負担となり、そのうち予防策のある‟がん”による経済的負担が、約 1 兆 2,000 億円と推計され、それに対する予防法を寄稿した。
『日本人のための‟がん”予防法( 5+1 )』以外にも注目を集めつつある要因があるらしいのでこちらも紹介する。
7. コーヒーと肝がん、子宮内膜がん
1 日あたりコーヒー摂取が 1 杯増す毎に肝がんリスクが 0.72 倍となり、コーヒー高摂取によって肝がんリスクが低下することは”ほぼ確実”であると評価されている。
一方、緑茶と肝がんリスクとの間に有意な関連はみられなかったことから、証拠は不十分であるという結論になっている。
8 つのコホート研究の結果では、男女共に 1 日あたり 5 杯未満の摂取によって死亡全体のリスクが低下したが、 5 杯以上になると関連が弱くなった( Abe et al. Prev Med 2019 )。
‟がん”以外の死因においても同様の関連がみられており、 1 日あたり 5 杯未満の摂取であれば日本人の主要な死因による死亡リスクの低下につながるかもしれないようだ。
また、男女共に 1 日 5 杯以上の緑茶摂取によって死亡全体のリスクが有意に低下する傾向がみられ、同様に、心疾患、脳血管疾患でも死亡リスクが低下した。
女性のみでは、 1 日あたり 1 ~ 4 杯の緑茶摂取で‟がん”による死亡リスクが低下し、 1 日あたり 3 杯以上では、呼吸器疾患死亡リスクが低下した( Abe et al. Eur J Epidemiol 2019 )。
更に、緑茶の高摂取によって、特に、心疾患や脳血管疾患死亡のリスク低下につながるかもしれないそうだ。
8. 授乳と乳がん
母乳を長期間与えることで、母親の乳がんリスクが低くなることを指摘する研究が数多くある。
授乳が乳がん予防に関連することは‟可能性あり”と判定されている( Nagata et al. Jpn J Clin Oncol 2012 )。
国際的にも、授乳の乳がん予防効果は‟確実”とされている。
初経年齢が早いことや初産年齢が遅いことなどは乳がんのリスクを上げる確実な要因として知られているが、今更、変えることは出来ない。
子供を産んだ後はなるべく母乳で育てることは子供のためだけでなく、母親本人の乳がんリスクを低くすることも期待出来る。
以上、要因と予防法を挙げてみたが、‟がん”予防法利用のための予備知識も持っていた方が良い。
☞ 食品や栄養素の摂取量と発がんリスクとの関係は、必ずしも単純には考えられない
良いものは多くとるほど効果が上がるという直線的な関連になるとは限らない。
この点は、特に栄養補助剤(サプリメント)の服用に際して注意が必要である。
☞ 欧米の研究だけに基づく情報の場合には、日本人ではリスクやその意味合いが変わる可能性がある。
日本人では罹りやすい‟がん”の種類が違ったり、肥満の割合が少なかったりという特徴がある。
その違いを踏まえたうえで、日本人ではどうなのかを解釈する必要がある。
☞ 特定の‟がん”を予防するための生活習慣が、必ずしも健康的とはいえない。
肥満に関連する‟がん”や糖尿病を予防するにはやせればやせるほど効果的だが、やせ過ぎて、その他の部位の‟がん”や感染症のリスクが高くならないよう、総合的な健康に配慮し、バランスをとる必要がある。
☞ ある人にとって最適な予防法は、常に同じというわけではない。
‟がん”予防のための予防戦略は、ひとりひとりの体質、生活習慣やライフステージなど、さまざまな条件との兼ね合いの中で、あらためてその位置づけを問い直さなくてはならない。
最後に、国立がん研究センターでは、日本人のための‟がん”予防法に掲げた 6 項目は日本人を対象とした研究にもとづいた、科学的根拠の明らかなものでるが、数値目標としてあげた値は‟がん”のみならず広く生活習慣全体をも考慮し、逆効果の可能性や、既存の指針などの情報も加味して総合的な判断のもとに設定したものである。
‟がん”は多数の要因が複雑に折り重なって長い時間をかけて発生してくるものであり、 1 つの要因のある値を境に急に‟がん”のリスクが上がったり下がったりすることはむしろまれである。
したがって、この目標値より少しでもはずれたら意味がないというものではない。
‟がん”予防法を具体的に実践に移すための手がかりとして、ひとつの目安と考えて欲しいとまとめている。