前回の続き・・・。
前回、ゲノム食品に対する主にメディアの反応を紹介した。
今回は識者の見解を紹介したいと思う。
●山本卓・広島大学大学院理学研究科教授・日本ゲノム編集学会会長
「従来の遺伝子改変技術は、ある限られた生物種にしか、また限られた改変しかできなかった。
しかしゲノム編集という新しい技術によって基本的には全ての生物種でできるようになった。
しかもこれまでの遺伝子組み換えはどの部分を改変するかをコントロールすることは難しかったが、ゲノム編集では狙ったところで改変ができる。
しかも自然突然変異と同じタイプの改変を作りだすことができる。
農産物の品種改良の例では、現品種に放射線を当てたり、遺伝子のある部分を変化させる薬剤を与えて改変し、有用なものができればそれを取り出して選抜する、ということを何度も繰り返す。
このため品種改良には 5 年、長ければ 10 年という長い時間が必要だった。
ただ、放射線を当てるにしても遺伝子のどこを改変するかは選べないために、多ければ何千カ所にも改変が加わって、塩基配列に変化が起きてしまう。
その何千カ所分の一カ所で非常に有用な形質を出す改変が加わればいい品種として使えるが、残りの改変部分のすべてを改変前に戻すことは事実上不可能だ。
これに対してゲノム編集は、狙った部分だけをうまく改変できるという意味で基本的に安全と言える。」
●石井哲也・北海道大学教授
「ゲノム編集は、遺伝子組み換えよりも精度の高い技術です。
ただし進歩しているとはいえ、100% 確実というわけではありません。
『狙った遺伝子だけをターゲットにする』と言われますが、そうならない場合もあるのです。
切断しようとした場所と遺伝情報が似ている場合、誤った場所を切断してしまうことがあります。
これを「オフターゲット作用」と呼びます。
もしも誤って切断した場所に重要な遺伝子があると、ガンなどの病気を発症してしまう恐れがあります。
食用作物の場合、アレルギー物質などが生じる恐れもあります。
今後、ゲノム編集を使った医療や、食品の安全性、環境への影響評価などを議論する際に、この「オフターゲット」の問題は避けて通れない重要な課題となるはずです。
遺伝子組み換え作物について言えば、これまで、『従来の作物と実質的に同等である』という米国の主張を前提に、流通しているのが現状です。
他方では『同等ではない』という見解もあります。
農産物の輸出国であるニュージーランドは、自国製品のブランドの信頼度を守るため、『遺伝子組み換え作物もゲノム編集も全てが規制対象である』と規制を改正しました。
結局、各国の状況に応じて判断しているのが実態です。
ただし、ゲノム編集では、これまでのような『実質的同等性』議論を超える生物の開発が、あり得るかもしれません。
ゲノム編集を遺伝子組み換えの一分野と考えるのか、別の新しい技術と位置づけるのかについては、今後、世界全体の課題となるでしょう。」
●バビロフ一般遺伝学研究所・細胞技術研究室のセルゲイ・キセリョフ教授
「遺伝子組み換えとは、生物もしくは植物のゲノムにドナーの遺伝子を 1 つないしは複数、組み込むことを言います。こうした操作はこれまで通り、日本では禁止されています。
ゲノム編集も遺伝子組み換えのひとつですが、遺伝子的に異質なものは何も組み込まれないため、安全だと認められています。
ゲノムの中でそれ自身の遺伝物質が修正されるのです。
つまり、遺伝子の持つ負の影響を減少させたり、逆に有用な効果を増幅させたりするのです。
この方法では変異が誘発されることがないため、日本の学者らがこの方法を無害だと考えたのは至極もっともです。
こうした食品が誰かに対して押し付けられることはなく、選択肢を拡げるにすぎません。
経済的に恵まれたアメリカでは遺伝子組み換え食品が市場の 80% を占めています。
現代社会はすべての新しいものに対してオープンであるべきです。
日本は最も進んだハイテク国のひとつとして、このトレンドに従っているのです。」
●鈴木宣弘・東京大学大学院教授
「異種の遺伝子を導入しないゲノム編集食品は、編集の形跡が残りません。
本来、厚労省がしっかり規制をして、安全性を継続的に検証する必要がありますが、表示は最低限の規制です。
表示がされていれば、ゲノム編集食品を食べてこうなったと、何とか推測はできるからです。
表示までが任意や、なくていいことになると、目に見えない形で、未知の技術が普及していくことになります。
何か起こっても検証すらできず、責任も問えないことになります。」
●山川隆・東京大学特任教授
「人がなじみのないものを怖がるのは、未知のものをなんでも食べたら危険だから。
消費者が不安に思うのは当然だ。
成り立ちを知り、損失と利益のバランスで考えてほしい。」
如何だろうか?
数人の識者の見解をピックアップしてみたが・・・。
当然のことながら、推進派、慎重派、否定派、様々な意見がある。
しかし、残念ながら、あなたがどの立場に立ったとしても、国はゲノム編集食品を今夏にも解禁し、市場に流通する見込みが強い・・・( ̄へ ̄|||) ウーム
18 日の発表後の各所から上がった不安の声に対応するかの如く、一応、政府はゲノム編集技術を使ったとする表示の義務を検討しているようだが・・・。
実際、出回ってしまえば分からないというのが現実である・・・(笑)。
今寄稿内でも、若干触れてはいるが、他の国の取り扱いを見てみると・・・。
★アメリカ
米・農務省のソニー・パーデュー長官は、 2018 年 3 月 28 日(米国時間)の声明のなかで、「特定のゲノム編集作物に関しては、設計・栽培・販売を無規制で行える。リスクが存在しない場合、農務省は革新を優先させたいと考えている。」と述べた。
Secretary Perdue Issues USDA Statement on Plant Breeding Innovation
★カナダ
遺伝子組み換え作物( GMO )組換え技術に限らず、 NBT (新育種技術: New Breeding Techniques )を有する作物、食品の観点から審査している。
★アルゼンチン
アルゼンチン農牧水産省は、 2015 年 5 月 にNBT (新育種技術:New Breeding Techniques )由来作物について“事前相談手続き”を定め、「外来遺伝子が存在しているか」と「中間段階で外来遺伝子を組み込んだか」について、2つとも「No」とされれば“非遺伝子組換え作物”と見なされ、さらに「Yes」であっても、「最終製品において外来遺伝子が除去されているか」について、科学的知見に基づき「Yes」と答えられれば、その製品は“非遺伝子組換え作物”扱いという決定を下した。
★ブラジル
GM作物自体を容認しているので、ゲノム編集作物も容認。
★チリ
アルゼンチンと同様の扱い。
★オーストラリア
2013 年、専門家会合で「小規模な単純な遺伝子の削除は規制対象外、遺伝子を導入する場合は(小規模でも)規制対象とすべき」との見解を出すが、その後法制化の動きは進んでいない。
★ニュージーランド
2013 年、環境保護庁( EPA )はゲノム編集による樹木(マツ)は規制対象外としたが、環境団体が提訴し、 2014 年、高等裁判所は科学的に十分確立された技術ではないと判断し EPA が敗訴。その後法制化の動きは進んでいない。
★欧州連合( EU )
欧州司法裁判所は、 2018 年 5 月 25 日、原則として従来の遺伝子組み換え作物( GMO )の規制の対象とすべきだとの判断を示した。
今夏解禁予定のゲノム編集食品について、様々な情報だけを提供させて頂いた。
また、国から何らかの動きがあれば取り上げることにして、ゲノム編集食品に関しては、今回は終わる。
少し時間を開けて、ゲノム編集技術についてもう少し切り込んでみたい思う。