「真実の口」2,299 サバイバー 54 ~堀ちえみさんのケース・中編~

前回の続き・・・。

ネットで自身は“がん”ではないかと気づいたその日。

関西でレギュラー出演している番組の生放送があり、「番組に穴を開けるわけにはいかないから」と気丈にも大阪の収録へと向かう。

病院の予約をご主人にお願いする。

「本当にがんなの?」

「きっと違う!」

何度も頭の中で浮かんでは消える・・・。

大阪の収録現場で、 20 年以上の親交があり、“芸能界のお父さん”と慕っている桂南光さんにのみ打ち明ける。

私は“がん”の疑いの状況の時は誰にも話さなかった。

“がん”と診断されて数人に話した。

ただ、こんな非常時にこそ、その人間が持つ人間性が現れることを身をもって知った。

2019 年 1 月 21 日。

都内の大学病院へ行く。

この時、診察したのは口腔外科・安部貴大医師。

舌を見せてくださいと言われ、口を開ける堀さん。

「口内炎ですね」と言われるようかすかな希望を持っていたが、医師の表情は、「そうではない」と物語ったていた。

「ちょっと、触りますね~。」

触診後、「今日、ご家族はご一緒にいらしてますか?」と尋ねられる。

ご主人も、ほかの家族も仕事中である。

堀さんは覚悟ができていた。

「私、大丈夫です。先生、これは悪性でしょうか?」と尋ねる。

「その可能性が高いと思います。」という返答だった。

すぐに、首のリンパ節のエコー検査が行われた。

検査は耳鼻咽喉科・福岡修医師が行った。

結果は、「他の検査と合わせて評価する必要がありますが、エコー検査上は首のリンパ節に複数の転移が疑われます。」と告げられた。

福岡医師は、発見が遅れたことについて以下のように語っている。

「(専門家医でなければ)悪性腫瘍となかなか見分けがつかないんですけど、普段から見慣れている専門家医であれば、もっと早い段階でみつけられたんではないかなと思います。」

治療は口腔外科で説明ががなされた。

前述の安部貴大医師。

「がんを撲滅する治療は大きく分けて二つあります。まず一つの選択肢は外科手術です。(外科手術は)元通りのしゃべり方に戻ることは難しいです。食べること喋ったりする機能はある程度は下がります。」

治療について、 5 年生存率がもっとも高い治療はがんに侵された組織を手術で切り取り、その代わりに身体の他の部分の組織を移植する再建手術である。

舌がん切除と再建

がん細胞が舌やリンパ節だけにとどまっていればこの切除手術を行うだけで済み、術後も抗がん剤や放射線などの治療を必ずしも行う必要はない。

私の場合がこれに当たる。

堀さんのように進行した舌がんで、舌を大きく切り取る手術は、再建された舌は見た目は以前の舌のように見えるが、全くの別物となってしまう。

舌がん手術後の舌

移植した組織は壊死しないように血管をつなげるが神経はつながっていないため動かない。

つまり、以前の動きを取り戻すことは 100% 不可能である。

上記の画像の場合は、向かって右側のみで舌全体を動かさなければいけないことになる。

人は食べるときに、舌を巧みに使い食べ物を歯の方に運び噛み砕き、それを喉の方に運び飲み込んでいる。

食べ物と舌の使い方

この一連の作業を残された舌の部分のみで行わねばならないということだ。

安部貴大医師。

「もう一つの選択肢は、舌を切り取らず、抗がん剤や放射線を組み合わせた治療のみでがん細胞をたたく治療ですが、この場合、手術よりも 5 年生存率は落ちます。」

更に、医師からは「他の選択肢として、薬で痛みを取り除きがんの進行を抑える治療もあるが、治療を希望されない方や有効的な治療がない方などに行うもの。完治を目指すものではありません」と告げられた。

緩和ケアのことである。

「症状を見る限り、かなり急いだほうが良いので、すぐに検査入院を行いましょう。」と早めの治療開始を勧められる。

堀さんは医師に尋ねる。

堀;「検査入院はどのくらいかかりますか?」

医:「一週間ほどです。」

仕事が入っていた堀さんは躊躇する。

医:「一泊でも良いので出来るだけ検査を進めましょう。」

診察後、出張先のご主人に電話し「やっぱりがんだった」と伝える。

更に、「子供たちの顔見たら普段通りいられないよ。」と子供たちの前で正気を保つ自信がないとこぼす。

私の場合は、子供たちへ如何様に伝えたか?

10 月 28 日、かかりつけの歯科医から市内の口腔外科を紹介してもらい受診した日である。

その日は、何度か触れているが、 10 年前に大病を患い手術した日であった。

私は、手術後、毎年、Second Birthday として旨い料理と旨い酒で自身の無事を祝っている。

そして、この日は、里帰り出産していた長女が帰る前日と言うこともあり、迎えに来た長女のパートナー、そして、帰宅する姉を見送りに来た長男家族と家に大勢押し寄せていた。

私、家内、末娘、長女、長女のパートナー、長女の子 2 人( 1 歳と生まれて約 1 ケ月半)、長男、長男のパートナー、長男の子 2 人( 4 歳と 10 ケ月)・・・。

総勢 11 人である。

私は、魚をさばきながら、何事もなかったように、子らに告げた。

私:「前の手術から 10 年目やけど、今日、検査行って、舌がんらしいから・・・。」

一同:「・・・?」

長男:「えっ?えっ?えっ?またまた~(笑)。」

長女:「本当なん?」

家:「本当なんよ・・・。」

一同:「え~~~っ!!!」

長男のパートナーがコソコソ長男に聞いている。

長男のパートナー(以下:義娘):「ねえ・・・。本当なん?」

長男:「多分・・・。いつも冗談交じりに話してばかりやけど、多分、ほんまやと思う。」

義娘:「え~っ・・・。」

私:「そういうわけやから、手術して治療に専念せんとあかんから、何かあったらお前ら長男・長女なんやから頼むぞ!」

長男・長女:「うん・・・。」

私:「まあ、これから詳しい検査を大阪国際がんセンターでするから、また、報告するから・・・。」

この時不在の関東在住の 3 番目と 4 番目には、術後の状況で話すか話さないかを決めることにした。

その後は、淡々と料理を作る私。

20241028

私の性格を知っているので、平常モードに戻る家族等・・・(笑)。

脱線したが堀さんの話に戻そう・・・。

子供たちの前で正気を保つ自信がないと心の内を明かされたご主人は、「夜までに帰るから一緒に帰ろう」と提案する。

堀さんは、ご主人と待ち合わせまでの時間、長くなるであろう入院生活に備え髪を切る事にする。

しかし、その一方で、「治療はやめて緩和ケアを選ぼう。」と心に決めたようだ。

次回へ・・・。