「真実の口」2,057 ‟がん”という病 ③~日本人のための‟がん”予防法( 5+1 )編(その2)~

前回の続き・・・。

3. 食生活

☞ 偏食しない。
☞ 塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする。
☞ 野菜や果物不足にならない。
☞ 飲食物を熱い状態でとらない。

【塩分】

食塩・塩蔵食品の評価は胃がんにおいて‟ほぼ確実”にリスクを上げる。

日本人を対象としたコホート研究では、食塩摂取量の多いグループで胃がんのリスクが高まることが男性で示されている。

ただ、女性では、はっきりした関連は見られていない。

いくら、塩辛、練りうになどの特に塩分濃度の高い食品をとる人ほど胃がんのリスクが高いことは男女共通して見られている( Tsugane et al. Br J Cancer 2004 )。

漬物、塩魚、塩蔵魚卵などの塩蔵食品は、がん全体、また、胃がんのリスクを上げることが示されている。

一方、ナトリウム全体としてはがんとの間に特に関連は認められていない( Takachi et al. Am J Clin Nutr 2010 )。

食塩・高塩分食品の摂取量を抑えることは、日本人で最も多い胃がん予防に有効であるのみならず、高血圧を予防し、循環器疾患のリスクの低下にもつながる。

1 日あたりの食塩摂取量としてはできるだけ少なくすることが望まれるが、厚生労働省は日本人の食事摂取基準として、男性は 7.5g 未満、女性は 6.5g 未満を 1 日あたりの目標値として設定している(厚生労働省策定:日本人の食事摂取基準 2020 年版)。

国際的には、 5 ~ 6g 未満が目標とされているが、日本食の特性を考えると、困難な目標と思われる。

食塩に起因するがん罹患および死亡の割合は、男性で罹患 3.0% 、死亡 2.5% 、女性で罹患 1.6% 、死亡 1.7% と試算されている( Inoue et al. Glob Health Med. 2022 )。

2019 年の国民健康・栄養調査によると、 20 歳以上の食塩摂取量の平均値は男性 10.9g 、女性 9.3g で基準値からはかけ離れている。

減塩対策は、血圧を下げ、脳卒中や心臓病を予防する効果もあるので、日本人の平均食塩摂取量を到達可能な限り低下させ、現状の日本人の食事摂取基準を達成出来ない者の割合を大きく減らすことが重要な課題のようだ。

【野菜・果物】

野菜・果物の評価は、食道がんのリスクが低くなるのは‟ほぼ確実”、胃、および肺がん(果物のみ)のリスクが低くなる‟可能性がある”( Wakai et al. Jpn J Clin Oncol 2011 )。

果物と肺がんリスクについての刊行論文のメタ解析では、最低摂取群に対する最高摂取群の相対危険度は 0.85 、 1 回摂取量あたりの相対危険度は 0.92 と、いずれも有意な結果が示されている( Wakai et al. Jpn J Clin Oncol 2011)。

一方、野菜・果物と脳血管疾患およびがん全体との関連を見たコホート研究では、果物と脳血管疾患との間に負の関連が見られたのに対し、がん全体との間には特に関連は見出されていない( Takachi et al. Am J Epidemiol 2008 )。

これまでの複数の研究からは、野菜・果物は少ない摂取量のグループにおいて、がんのリスクが上がることが示されているが、多く摂れば摂るほどリスクが低下するという知見は限られている

また、野菜・果物によるリスクの低下が期待される、食道・胃・肺がんは、いずれも喫煙との関連が強く、食道がんは飲酒との関連が強いがんであり、従って、まずは、禁煙と節酒が優先されるが、脳卒中や心筋梗塞等をはじめとする生活習慣病全体にも目を向けると、野菜・果物を毎日とることが勧められる。

世界がん研究基金( WCRF )は、野菜・果物を少なくとも 400g 摂ることを推奨している。

また、健康日本 21 では、 1 日あたりの平均野菜摂取量を 350g にすることを目標とし、果物もあわせた目安としては、野菜を小鉢で 5 皿分と果物 1 皿分を毎日食べる心がけで、 400g 程度になる。

野菜・果物摂取ががん罹患・死亡に寄与する割合は、以下のように試算されている( Ishihara et al. Glob Health Med Open. 2022 )。

〈男性〉
・野菜・・・罹患 0.3% 、死亡 0.2%
・果物・・・罹患 0.1% 、死亡 0.1%
〈女性〉
・野菜・・・罹患 0.1% 、死亡 0.1%
・果物・・・罹患 0.02% 、死亡 0.01%

2019 年の国民健康・栄養調査によると、 20 歳以上の平均摂取量は、野菜 280.5g、果物 100.2g となっている。

野菜・果物摂取は、多くの生活習慣病を予防する効果もあるので、不足している者の割合を減少させることが重要な課題である。

【熱い飲食物】

食道がんのリスクは、熱い飲食物の摂取によりリスクが上がるのが‟ほぼ確実”と評価されている。

飲食物を熱い状態でとることは食道がんのみならず食道の炎症のリスクを上げることを示す研究結果が多数ある。

飲食物が熱い場合はなるべく冷ましてからにして、口腔や食道の粘膜を傷つけないようにし、それにより、口腔・咽頭や食道のがんのリスクが低下することが期待出来るそうだ。

【加工肉と赤肉】

女性において、ハム、ソーセージなどの加工肉および赤肉(牛・豚・羊など。鶏肉は含まない)は大腸がんのリスクを上げる‟可能性がある”と評価している。

ただし、男性では‟データ不十分”と判定。

国際的な基準では、赤肉の摂取は 1 週間に 500g を超えないことを推奨されている。

日本コホート研究の結果によると、牛肉摂取量が一番低かったグループと比較して、一番高かったグループでは、男性で下行結腸がんリスクが高く、女性では結腸がんリスクが高くなっていた。

豚肉摂取についても、摂取頻度が最も少ないグループと比較して最も多いグループ(週 3 回以上)において、女性では下行結腸がんリスクが高くなっていた。

加工肉の摂取頻度が最も多いグループ(ほぼ毎日)においても、女性では結腸がんリスクが高くなっていた。

鶏肉については、有意な関連はみられなかった。

これらの結果から、赤肉の摂取により、結腸がんリスクが上昇することが明らかになった( Islam et al. Cancer Sci. 2019 )。

前編、中編、後編の 3 部構成にしようと思ったが、少し長くなるので次回へ・・・。