前回の続き・・・。
前回、戦国大名である織田信長が好んで謡いそして舞った‟幸若舞・敦盛”の節を紹介した。
科学的には、人間はいくつまで生きられるるのだろうか?
2016 年、米国の研究チームが「人類の年齢の限界は 115歳 」という論文を科学雑誌「ネイチャー」に発表した。
これまでの人間の最高齢記録を分析したところ、 1960 年頃には 110 歳前後に、 1990 年頃には 115 歳前後に伸びたが、それ以降は伸びが鈍化しているという。
記録上、最も長生きしたのは 1997 年に 122 歳で亡くなったフランス人ジャンヌ・カルマンさんだが、この人は例外中の例外らしい。
日本でもこれまでに 115 歳を超えた人は 10 人もいない。
やはり、ネイチャー掲載の論文にある生理的限界がこのあたりという説には説得力も増してくるのではないだろうか?
我々生物は、‟細胞”というパーツが集まってできていることは言うまでもない。
‟細胞”が‟分裂”を行うことにより増殖していく。
しかし、‟細胞”には、‟分裂”できる回数というのが決まっている。
また、‟細胞”が‟分裂”、‟増殖”するには自身の‟ DNA ”を複製する必要がある。
生物の‟ DNA ”は、細胞核の中でだら~んと長々と伸びているのではなく、‟ヒストン”と呼ばれるタンパク質に巻きつき、一定の形を取っている。
これが、所謂‟染色体”というもので、ヒトの場合大小交えて計 46 本が存在しているというのは、ご承知だと思う。
‟ DNA ”は極めて細長い分子であるが、当然‟末端”が存在する。
この‟末端”は、他に見られない特殊な構造をとっており、これは‟テロメア”と呼ばれる。
この‟テロメア”は、元々、染色体の末端を保護する役割を持っている。
‟細胞”が‟分裂”、‟増殖”を繰り返す度に、どんどん短くなってその短縮は、最後には限界に達してしまう。
‟ DNA ”の‟末端”である‟テロメア”が、生物の運命を決定していると言っても過言では無いのである。
つまり、‟テロメア”が限度以下に短くなってしまえば、それ以上‟細胞”は‟分裂”できないため、生物の寿命にも大きな影響を与えていると言う訳である。
人の細胞の‟分裂”は 40 ~ 60 回とされており、これが 110 ~ 120 年ぐらいの時間にあたるそうだ。
余談だが、身体の小さなマウスでは、分裂回数が 14 ~ 28 回で、寿命は約 3.5 年、一方、長生きとされるゾウガメでは、分裂回数が 80 ~ 125 回で、 175 年もの寿命があると言われている。
そして、この‟テロメア”の分裂の限界を、‟ヘイフリック限界”というらしいのだが、これが‟がん”に起因してくるのである。
現実には、人間の体の中では、この‟ヘイフリック限界”を超えても、いつまでも分裂し続ける細胞がある。
これが、無制限に増殖する‟がん”細胞なのである。
‟がん”細胞がどれだけ分裂を繰り返すかというと、研究用に用いられる HeLa 細胞は、 1951 年に子宮頸がんで亡くなった女性から採取された‟がん”細胞なのだが、 80 年を経過した現在でも世界中の研究室で‟分裂増殖”を繰り返しているらしい。
何故、‟がん”細胞は‟分裂増殖”を繰り返すのか?
この謎を解いたのが C.W.Greider と E.H.Blackburn の 2 人のアメリカ人女性博士である。
二人は、短くなっていく‟テロメア”を伸ばす働きを持つ酵素‟テロメラーゼ”を見つけ出し、この功績によって 2009 年のノーベル医学生理学賞を受賞している。
通常、‟テロメラーゼ”は、生殖細胞など特殊な細胞でのみ発現しているが、‟がん”細胞はこの酵素を‟悪用”し、‟テロメア”を延ばすことで自らを延命しているというらしいのだ。
実際、‟がん”細胞の 9 割でこの‟テロメラーゼ”が発現していると見られているそうだ。
逆の見方をすれば、‟テロメラーゼ”は‟がん”細胞にとってのアキレス腱にもなりうるということじゃないだろうか?
‟テロメラーゼ”は、正常細胞ではほとんど発現していないことから、‟テロメラーゼ”の働きをブロックすることで、副作用の少ない優れた”がん”治療が実現する可能性も考えられるらしい。
2020 年 3 月 25 日、国立がん研究センターでは、『‟テロメラーゼ”に新しいがん化機能を発見 全く新しいタイプのがん治療法の開発を期待』という研究結果を英国科学誌『 Nature Communications 』に発表している。
興味を持っていただいたところで次回へ・・・。