「真実の口」2,117 能登半島地震 ②

前回の続き・・・。

専門家の間では、 2023 年 5 月に観測された、震度 6 強の地震後、その後のシナリオとして、専門家の間では 2 つのシナリオが考えられていたそうだ

一つは、‟流体”によって生じた断層のひずみが解消され、今後、徐々に地震活動が落ち着く。

もう一つは、‟流体”が活断層の深い所に達して、それがきっかけで大地震が起こる。

前回、「何故、火山がない地域で、これほど長く地震が続いているのだろうか?」という言葉で締めくくったが、その答えは、地殻変動ということらしい。

専門家によると、地震の原因を探るうえで 1 つの鍵になるのは、地震活動とともに始まった“謎の地殻変動”らしい。

地殻変動は、地球のマントルを覆う「地殻」に力が加わり、年に数 mm ~数 cm 程度、ゆっくりと動く自然現象である。

こうした大地のわずかな動きを捉えるために、人工衛星からの電波を受信して地上の位置を正確に測る「 GNSS :Global Navigation Satellite System 」と呼ばれる仕組みが使われているそうだ。

「 GNSS 」は、衛星測位システムの総称で、我々に馴染みのあるものとして、スマートフォンの位置情報やカーナビゲーションに利用されているのがアメリカの「 GPS 」である。

断層がずれて地震が発生すると、地表では地殻変動が観測され、言い換えれば、地殻変動を測ることで、地下で断層がどう動いたかを調べることも可能で、「 GNSS 」のデータを地震の予測に役立てようとする研究者もいまる。

国土地理院が珠洲市内に設置した観測点では、地震活動が始まった 2020 年 12 月からの約 1 年間で、地盤が 3cm ほど隆起する謎の地殻変動が起こっていたそうだ。

「 GNSS 」のデータで地震を予測している京都大学防災研究所の西村卓也教授によると、「火山がないところで、これほど顕著な変動がみられることは今までなかった」という。

珠洲市の地下には、北西から南東方向に向かって傾斜する複数の断層が走っている(と考えられている)。

‟流体”(後で解説)がこの断層の隙間に流れ込み、周りの岩盤を押し広げるだけでなく、深さ 14km ~ 16kn の領域まで拡大。

今回の地震前まで、地震を伴わないゆっくりとした断層の滑り=「スロースリップ」を引き起こす。

流体は断層のさらに浅い部分にも広がり、北側の領域で地震活動が活発になる。

これまでに供給された‟流体”の量は、およそ2,900万㎥ 、東京ドーム 23 個分に相当。

活火山の近くで群発地震が発生するとき、‟流体”はマグマであることが多い。

これらは、私等の頭でも映像が安易に思い浮かべることが可能である。

しかし、今回の珠洲市のケースでは、地震波の速さなどをもとに、「水」である可能性が高いと考えているそうだ。

西村教授によると、 2011 年の東日本大震災でも海水が日本列島の下に潜り込み、およそ 10 年かけて上昇してきた可能性もあると語っている。

ただし、地下深くにある流体を実際に採取するのは困難で、流‟流体”が何なのか、その正体は明らかになっていないと言うもの事実である。

現在は、‟流体”のありかを調べる研究も進んでいるそうだ。

吉村教授は、電流や磁気をもとに地下の構造を明らかにする研究を行っており、「水などの流体は電気を通しやすいため、地下の電気の通しやすさを測ることで、‟流体”がある領域を確認できる」という。

こうした電気を通しやすい領域は、 2007 年の能登半島地震でも震源近くにあることが分かっていて、‟流体”が地震を引き起こした可能性が指摘されているようだ。

吉村教授等は、 2021 年 11 月、珠洲市や能登町、輪島市の合わせて 32 ケ所に観測機器を設置し、地表から深さ 20km までの構造を三次元的に解析した。

その結果、地震活動が始まった南側の領域の地下深くに、電気を通しやすい領域を発見。

さらにその領域は、地震活動が活発な北側の領域に向かって続いていた。

地下深くから‟流体”が供給され、北側に流れていったとする西村教授らの仮説を裏付ける結果となったそうだ。

“能登群発地震”の原因

時間を少し遡って、 2023 年 3 月。

地震学の平松良浩・金沢大学教授が、 2 年余り続いてきた地震活動の中で、ようやく収束に向かっていること言及した。

珠洲市北部の一部の地域を除いて、地殻変動も全体的に収束に向かっている様子が確認されていたというのだ。

また活動の初期に大量の‟流体”が上昇した南側の領域でも、流体の供給が 1 年以上、落ち着いていたそうだ。

平松教授は「変動の様子がやや収まってきている。この傾向がそのまま続くと、地震活動も徐々に落ち着くのではないか。一方で群発地震の場合、大きな地震がどういうタイミングで起こるかはかなり予測が難しい。地震活動の初期なのか、中期なのか、末期なのか、どこで最大規模の地震が起こるか分からない」として、引き続き強い揺れに注意するよう呼びかけていた。

それからわずか 1 ケ月余りで、震度 6 強の揺れが珠洲市を襲ったのである。

2023 年 5 月 5 日 14 時 42 分ごろ、能登半島沖で M6.5 の地震が発生。

1 人が死亡、 48 人が負傷をし、全壊 34 棟を含む 944 棟の住宅が被害を受けた。

西村教授は「ずっとこういう大きい地震が起こるのではないかという可能性は持っていたが、地震活動も地殻変動も収まってきている状況だった。あのタイミングで来るというのは若干意外だった」と明かしている。

この地震の後、前述した 2 つのシナリオが考えられていたが、最悪のシナリオ現実には、“珠洲沖セグメント”と呼ばれる活断層において地震が誘発されるという最悪のシナリオが、現実になったということらしい。

次回へ・・・。