前回、小児原因不明急性肝炎について寄稿した。
今回は‟サル痘( mpox :エムポックス)”を取り上げたいと思う。
‟サル痘”は、‟サル痘ウィルス”による急性発疹性疾患である。
主にアフリカ大陸に生息するリスなどのげっ歯類が自然宿主とされており、感染した動物に噛まれたり、感染した動物の血液、体液、皮膚病変(発疹部位)との接触による感染が確認されている。
主に感染した人や動物の皮膚の病変・体液・血液に触れた場合(性的接触を含む)、患者と近くで対面し、長時間の飛沫にさらされた場合、患者が使用した寝具等に触れた場合等により感染するとされている。
これまでアフリカ大陸の流行地域(アフリカ大陸西部から中央部)で主に発生が確認されていたが、 2022 年 5 月以降海外渡航歴のない‟サル痘”患者が欧米等を中心に世界各国で確認されている。
‟サル痘”の潜伏期間は、 6 ~ 13 日(最大 5 ~ 21日 )とされており、潜伏期間の後、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などの症状が 0 ~ 5 日続き、発熱 1 ~ 3 日後に発疹が出現、発症から 2 ~ 4 週間で治癒するとされている。
発熱、発疹等、体調に異常がある場合には身近な医療機関に相談するとともに、手指消毒等の基本的な感染対策を行ってください。
海外では、‟サル痘”の予防に対しては、天然痘ワクチンが有効であるとの報告がなされており、ウィルスへの曝露後 4 日以内の接種で感染予防効果が、曝露後 4 ~ 14 日以内の接種で重症化予防効果があるとされている。
我が国では、承認されている天然痘ワクチンについては、令和 4 年 8 月 2 日にサル痘の予防への適応が追加で承認され、国内において、接触者の方に対して必要に応じて投与するための体制を構築している。
4 月 18 日(火)、 厚生労働省は、東京で新たに 2 人の‟サル痘”感染が確認されたと発表し、国内でのサル痘感染は昨年 7 月 25 日に初めて確認されて以来、あわせて 111 人に上っている。
国内では、今年に入り、‟サル痘”の感染が急増し、感染確認が 112 人に上り、 10 ~ 70 代で、全て男性だという。
下グラフは、国内における‟サル痘”の症例発生状況( 2023 年 4 月 14 日時点の 109 例)である。
世界的には男性同士の性的接触があった人の感染報告が多いといわれているので、感染者への偏見も気になるところである。
2022 年 1 月 1 日以降、 2023 年 3 月 27 日までに 86,724 例の症例が世界の 110 の国と地域から報告され、 WHO の 6 つある地域すべてから報告されている。
累積の死亡は 116 例となっている。
累計症例数の上位 10 ケ国
アメリカ・・・ 30,091 例
ブラジル・・・ 10,897 例
スペイン・・・ 7,549 例
フランス・・・ 4,144 例
コロンビア・・・ 4,089 例
メキシコ・・・ 3,956 例
ペルー・・・ 3,785 例
イギリス・・・ 3,738 例
ドイツ・・・ 3,692 例
カナダ・・・ 1,480 例
これら上位 10 ケ国で世界の症例数の 84.5% を占めている。
・性別が確認されている 77,738 例のうち 74,939 例( 96.4% )は男性である。
・年齢中央値は 34 歳( 29-41 )である。
・年齢が判明している 83,251 例のうち 1.1% ( 933/83,251 )は 0 ~ 17 歳、 0.3% ( 272/83,251 )は 0 ~ 4歳児であり、 0 ~ 17 歳例の 73% ( 684/933 )がアメリカ地域からの報告である。
・性的指向の情報が確認されている症例のうち 84.1% ( 25,682/30,546 )は、ゲイ、バイセクシャル、またはその他男性間での性的接触のあるものでる。
・感染経路が判明している症例のうち 82.2% ( 15,562/18,939 )が皮膚や粘膜を介した接触感染である。
・一つ以上の症状が判明している 33,995 例のうち、発疹が 80.8% と最も多く、発熱が 59.2% 、全身性および性器の発疹がそれぞれ 47.5% 、 44.1% である。
・ HIV 合併の有無に関する情報が得られている 36,357 例のうち 17,581 例( 48% )が HIV 陽性だった。
・ HIV 合併のある ‟サル痘” 症例の 65% が免疫不全だった。
・免疫不全の症例はそうでない症例に比較し高い入院率や致死率を示している。
日本では、薬害エイズという問題もあったので、 HIV の時のような偏見・差別が起きなければ良いのだが・・・。
次回へ・・・。