前回の続き・・・。
『介護殺人 殺人事件の「告白」』シリーズ第四回目は、12月10日、『痛みを見かねて』というタイトルで掲載された。
サブタイトルは、「妻の後追った70歳」。
※2012年 地域:大阪府 加害者:妻(67) 被害者:夫(66)
【介護の状況】:関節リウマチを患い、昼夜問わず痛がり苦しむ寝たきりの妻に、肉体的・精神的に限界を感じ、自殺未遂まで起こし、あげくに妻を痛みから解放してあげたいという一心で・・・。
記事の内容は、前回同様、要約して、時系列を並び替えてある。
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男性は、中学から技術を学んだ左官職人。
1968(昭和43)年、23歳で中学の同級生の妻と結婚。
マイホームの購入。
長女の誕生。
仕事は順調で、数え切れないほど家族旅行に行く。
92年、妻が関節リウマチを発症。
関節リウマチは、免疫異常で全身の関節に炎症が起こる病気。
10年後、妻は車いす生活になり、男性の介護が始まる。
毎朝4時から、自分の弁当と妻の食事を用意し、仕事に出かける生活。
妻は、夫以外の介護を嫌い、長女や医師には触らせようとしない。
男性は、1人での介護を余儀なくされる。
妻は、事件の数カ月前から、1人でトイレや食事ができなくなる。
男性は、真夜中も妻の体を抱えあげて、トイレの介助を行う。
睡眠時間は1日2~3時間。
ある日、男性は自宅で農薬を飲み自殺を図る。
しかし、吐き出して助かる。
「妻の介護のために神様が助けてくれた。」
その1カ月後、2012年3月、日が傾きかけた頃。
男性は、突然、ベッドで眠る妻の左胸を包丁で5回も刺す。
隣家に行って、警察と救急車を呼んでほしいと依頼。
しかし、救急車が着いた時には、既に手遅れ。
「かわいそうでな。見ていると、つらかった。」
「苦しまないで済むようにしてあげたかった。痛がるのを自分も見たくなかった。」
2015年6月、刑務所出所。
長女夫婦と孫が一緒の同居が始まる。
男性は、この夏の取材で「介護はつらかった。追い詰められていた。」と振り返った。
記者が、別の機会に話を聴きたいと依頼すると、「少し時間を空けてから連絡して。」と携帯電話の番号を教えてくれた。
それから2週間後・・・。
男性は風呂場で自ら手首を切り、自殺。
長女によると・・・。
男性は毎日、妻の仏前に手を合わせ、左官の仕事も少し再開。
ただ、いつもぼんやりしており、好きな酒もほとんど飲まなかったらしい。
父親の形見となった壁に土を塗るのに使う数本の鏝(こて)を前に、長女がしみじみと語った。
「『昔を忘れて好きなことをして過ごしてよ』。父にはそう言っていた。でも、ずっと母のことを思い続けていたのかもしれない」
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2013年に厚生労働省が全国の要介護(支援)者約7,300人を対象にアンケートした結果。
同居する家族を介護する人の約3割が男性。
このうちの7割は、60歳以上。
介護者を支援する団体などによると、介護者は介護以外に掃除、洗濯、炊事などの家事を担うことが多く、不慣れな男性は特に追い詰められることが多いという。
女性に比べて、男性は、介護の相談窓口などを訪れることも少ないらしい。
在宅医療をしている茨城県の医師が、介護をしているおよそ730人にアンケートを実施したところ。
『悩みを相談する相手がいない』と答えたのは女性は8.4%だったのに比べ、男性は28.3%と三倍以上に上ったという。
男性は、介護をまるで仕事のように感じて、弱音を吐いてはいけないんだと感じている人が多いという。
完璧を求めて、一人で抱え込んでしまいやすい傾向が如実に現れるという・・・。
次回へ・・・。