「真実の口」2,071 ‟がん”という病 ⑱~集学的治療(その3)・放射線療法編(1)~

前回の続き・・・。

前回、‟放射線治療”に関しての概要を説明したが、今回は放射線治療が実際どのようなものか掘り下げてみる。

《放射線治療の実際》

1. 放射線治療を行う目的

1⃣ 根治を目指す治療

ⅰ ) 放射線単独治療

‟放射線治療”を他の治療法と併用せずに行う治療のこと。

転移再発した‟がん”でも、局所にとどまっていれば、放射線で治療する場合がある。

ⅱ ) 化学療法治療

放射線治療薬物療法(化学療法)を併用する治療法のこと。

・‟がん”の種類によっては、化学放射線療法が標準治療として推奨されていることもある。

手術をした部位から再発した‟がん”に対して行うこともある。

ⅲ ) 手術・薬物療法の補助療法

手術薬物療法と組み合わせて治療効果を高めるために行う放射線治療のこと。

術前照射

・手術中に散らばるおそれのある‟がん”細胞をできるだけ死滅させておくことや、‟がん”をできるだけ小さくして手術をしやすくすることを目的として手術前に行う。

術後照射

・手術で切除しきれずに残った‟がん”細胞を死滅させ、再発の可能性を下げるために手術後に行う。

術中照射

・手術中に直接目で確認して、確実に‟がん”組織に照射する方法で、‟がん”組織周りの、放射線に弱い腸管などの組織への照射を避けるために行う。

薬物療法の補助療法

・代表的なものに血液がんの治療で行う造血幹細胞移植(※注 1 )の移植前処置がある。

(※注 1 ) 造血幹細胞移植とは、通常の化学療法免疫抑制療法だけでは治すことが難しい血液がんや免疫不全症などに対して、完治させることを目的として行う治療のことである。通常の治療法に比べて、非常に強い副作用や合併症を生じることもあるため、造血幹細胞移植を行うかを決定する際には、患者さんごとに、慎重な検討がされる。

・免疫力を落とすことで、移植されるドナー幹細胞の拒絶を予防してうまく生着(患者の骨髄の中で血液を作り始めること)させたり、‟がん”細胞をできるかぎり減少させたりすることを目的に全身照射を行う。

2⃣ 症状を緩和する治療

骨転移による痛み、脳転移による神経症状、‟がん、組織による気管、血管、神経などの圧迫による症状があるときに、原因となっている部位に放射線をあて、症状を和らげまた、手術後に再発した‟がん”による症状を緩和する目的でも行われる。

2. 放射線治療の流れ

【放射線治療のフローチャート】
放射線治療の流れ

1⃣ 放射線腫瘍医の診察、説明

主治医から‟がん”の治療として、放射線治療を勧められた場合は放射線腫瘍医の診察を受けることになる。

放射線腫瘍医は、‟がん”の広がりや体の状態、これまでの検査、治療内容などから、放射線治療を行うかどうか、行う場合の方法、治療目的、副作用、あわせて行う治療などについて検討する。

説明を受ける際は、治療の方法、治療期間、期待される効果、予想される副作用などについてよく聞き、必要であればメモに残そう。

2⃣ シミュレーション

正確に腫瘍に放射線を照射するためにシミュレーションを行う。

実際の治療を模擬したベッドに寝て CT や MRI などの撮影を行い、治療中の姿勢や放射線を照射する範囲、方向などを決める。

呼吸状態を測定したり、体と機械が接触しないように確認したりする。

多くの場合 CT を使うため、これらの作業を CT シミュレーション(位置決め)と呼ぶ。

また、皮膚の表面や固定具に印を付けるマーキングを行う。

マーキングは治療を行うための目印なので、治療期間中は消さないようにすること。

毎回同じ体位を再現することが大切である。

体位の固定のために、照射部位によってはシェルと呼ばれる固定具をつくることがある。

頭部固定用のシェル装着

3⃣ 治療計画の作成

コンピューター(治療計画装置)を使い、どの部位に、どの方向から、どれくらいの量の放射線を何回に分けて照射するかを検討し、放射線腫瘍医を中心に治療計画を立てる。

‟がん”の部位、その周囲の‟がん”細胞が残っている可能性のある部位、正常組織の部位、それぞれの線量分布を綿密に計算して計画する。

治療の目的、全身状態などを考慮して、適切な治療方法を決定する。

4⃣ 放射線の照射

放射線治療室で行い、まず、治療室で体位を決めた後、診療放射線技師が隣接する操作室に入る。

操作室ではモニターで患者の様子を常に確認している。

放射線治療室にはマイクが取り付けてあり、何かあればいつでも診療放射線技師に話しかけることができる。

気分が悪くなったり、具合が悪くなったりしたときには、いつでも治療を止0めることができる。

1 回目の照射は、照射部位の位置合わせや確認作業に時間がかかることがあるが、 2 回目からは比較的短時間で終わる。

実際に放射線が照射されている時間は数分だが、動かずにじっとしていることが重要である。

シミュレーションの際に固定具を作成した場合には、照射の際にも毎回正確に同じ体位がとれるように、固定具を使う。

照射中に痛みは感じない。

放射線治療室にいる時間は治療の内容によって変わるが、約 10 ~ 30 分である。

5⃣ 治療期間中

ほとんどの患者は通院で治療を受けており、多くは通常の日常生活を続けることができる。

照射は土日と祝日を除き、毎日行うことが一般的で、治療期間は病状や治療目的によって 1 日〜 2 ケ月程度と異なる。

治療期間中は医師が定期的に診察を行う。

副作用に伴う薬の処方や処置、治療計画の変更による CT 撮影を行うこともある。

診察日以外でも 診療放射線技師や看護師などから医師に報告されるので、気になることがあれば遠慮なく医療スタッフに伝えることが大切である。

3. 放射線治療に必要な体制とチーム医療

放射線治療を実際に行うためには、いろいろな職種の関わりが必要となる。

一般的には、放射線腫瘍医、診療放射線技師、医学物理士(※注 2 ) 、看護師、受付・クラークなどが協力して治療を行う。

(※注 2 ) 放射線治療において、放射線治療医と連携をとり、患者ごとに最適な放射線量や照射方法の計画や、機器の管理などを物理学的な視点から行う専門家である。

放射線腫瘍医は、治療方法を決定し、放射線治療の計画を立てます。治療中・治療終了後の診察や副作用の確認も行う。

診療放射線技師は、治療部位への放射線照射を担当し、治療計画のための CT 撮影なども行う。

医学物理士は、医師の指示通りに放射線治療が行われるよう、放射線治療の設計図の作成や治療の安全管理を担当し、施設によっては、診療放射線技師が医学物理士の資格を持って業務に従事している。

また、診療放射線技師とともに治療機器の保守管理なども行う。

看護師は、治療中の体調管理や副作用の確認などを担当し、治療中や治療後の生活のアドバイスなども行う。

また、治療について迷っていることや困っていることなどの相談にも対応している。

受付・クラークは治療の案内や事務手続きなどを担当している。

次回へ・・・。