前回の続き・・・。
前回同様、‟放射線治療”の実際を掘り下げる。
4) 放射線治療の副作用と対策
・‟放射線治療”の副作用が起こる時期は、‟放射線治療”中または終了直後のもの(急性期)と、終了してから半年から数年たった後のもの(晩期)がある。
・また、‟放射線治療”の副作用は、全身的なものと、治療される部位に起こる局所的なものがある。
1⃣ 急性期の副作用
ⅰ ) 全身的な副作用
〇 全身的なものでは、疲労感やだるさ、食欲不振、貧血などのほか、感染や出血しやすくなるなどがある。
【倦怠感、だるさ、疲労感】
〔症状〕
・疲れやすい、だるい、気力が出ないなどの症状があらわれることがあり、個人差が大きく、まったく感じない人もいれば、非常に疲れを感じる人もいる。
・治療中に感じた疲れは、治療が終了して数週間で感じなくなる。
〔原因〕
・‟放射線治療”の疲れは、放射線による影響ばかりでなく、‟がん”になったことによる精神的な疲れや、外来通院の疲れなどが加わっても起こり得る。
〔対処方法〕
・治療中は過度な運動を避け、疲れやだるさを感じたら、無理をしないで休むようにする。
・調子のよいときは、適度な軽い運動が気分転換になる。
・夜は十分な睡眠をとることが重要である。
・眠れない日が続くようであれば、医師に相談して睡眠薬を処方してもらうことも考える。
【食欲不振】
〔症状〕
・放射線治療中に食欲がなくなることがある。
〔原因〕
・口、食道、胃や腸に放射線があたることによって症状が出る場合がある。
〔対処方法〕
・放射線により障害を受けた正常細胞の修復などのために、普段以上にカロリー、栄養をとることが望まれる。
・少量ずつ数回に分けて食べたり、高カロリーの食事をとったりするなどの工夫をする。
・食事がとれないときは無理をしないで、医師や医療スタッフ、栄養士に相談する。
【感染しやすくなる(白血球減少)、貧血(赤血球減少)、出血しやすくなる(血小板減少)】
〔症状〕
・細菌とたたかう白血球、酸素を運ぶ赤血球、出血を防ぐ血小板が減ることにより、感染しやすくなったり、貧血を起こしたり、出血しやすくなったりする。
〔原因〕
・血液細胞は骨髄でつくられ、骨髄がたくさんある骨盤、胸骨、椎体など広範囲に放射線が照射されると、骨髄で血液細胞をつくる能力が低下して(骨髄抑制)(※注 1 )、白血球、赤血球、血小板が減ってくることがある。
(※注 1 ) ‟がん”治療の副作用や‟がん”そのものによって骨髄の働きが低下している状態をいい、薬物療法で使われる一部の薬や放射線治療により、骨髄が影響を受けると、血液細胞をつくる機能が低下する。血液細胞のうち、白血球が減少すると感染症、赤血球が減少すると貧血、血小板が減少すると出血などが起こりやすくなる。
〔対処方法〕
・広範囲に放射線治療をしているときは、定期的に血液検査をして血球数の変化を観察する。
・白血球、血小板の減少が強いときには治療を休止することがある。
・放射線だけで治療している場合、中止しなければならないほど減少することはかなりまれである。
ⅱ ) 局所的な副作用
〇 局所的なものでは、照射された部位の皮膚の変化のほか、頭部で脱毛、口腔で口の渇き、味覚の異常、胸部で咳、息切れ、腹部で軟便や下痢など、照射される部位によってさまざまな副作用が起こる可能性がある。
【皮膚の変化】
〔症状〕
・照射された部位の皮膚に、皮膚の乾燥やかゆみ、ヒリヒリ感、熱感、色調の変化(発赤、色素沈着、色素脱失)、むくみ、表皮剥離などの皮膚炎が起こることがある。
・皮膚炎の程度は、照射の量や部位、照射方法によって異なるが、通常は、照射終了後 2 週間から 1 ケ月程度で、ほぼ治療前の状態に戻る。
・汗腺や脂腺の機能回復には時間がかかるため、乾燥肌で、汗をかきにくいなどの症状が残る場合がある。
〔原因〕
・皮膚の基底細胞(皮膚をつくり出している細胞)は、‟がん”細胞と同様に、分裂の盛んな細胞で、放射線には細胞分裂が盛んな細胞に働きかける作用があるため、皮膚が照射により炎症を起こすことがある。
〔対処方法〕
・予防的ケアが大切で、照射された部位は擦ったり、かいたりしないようにする。
・衣類は皮膚を刺激しないものにする。
・入浴やシャワーは短時間で、ぬるめのお湯にし、刺激の少ない石けんを使って泡で流すようにして、ゴシゴシ洗わないようにする。
・放射線皮膚炎は、放射線治療特有の症状であり、治療には放射線に関する専門的知識が必要であある。
・症状があらわれてしまった場合には、放射線腫瘍医の指示を受ける。
2⃣ 晩期の副作用
〇 晩期の副作用は、二次がんの発生や妊娠や出産への影響などがあるが、放射線量、照射する部位の大きさなどで発生頻度が推定できる。
〇 細心の注意を払って治療計画を立て、問題のないレベルで治療を実施するので、重篤な晩期の副作用はごく少数の人にしかあらわれない。
〇 個人差などにより、副作用が絶対起こらないとは断言できないので、治療後も定期的な診察で様子をみることが大切である。
ⅰ ) 二次‟がん”(※注 2 )の発生
・放射線は‟がん”を治す力ばかりではなく、‟がん”をつくり出してしまう力があるが、放射線が照射された部位から‟がん”ができる確率は、照射していない場合に比べて高いとされているが、非常に低い確率である。
(※注 2 ) 化学療法や放射線による正常細胞の傷害のために、治療を終えた数年から数十年後にもとの病気とは別の種類の‟がん”を生じることをいう。
ⅱ ) 妊娠や出産への影響
・男女とも、生殖器への照射を行う場合には、線量によっては不妊を来す可能性があるため、注意が必要である。
・将来妊娠・出産を希望される方、あるいは授乳中の方などは、治療開始前に医師に相談したほう良い。
5. 放射線治療後のフォローアップ、生活上の注意
・‟放射線治療”が終わった後も、治療の効果と副作用などを調べるために、放射線腫瘍医の診察を受け、必要に応じて検査を行う。
・‟放射線治療”の副作用は数ケ月以上たってからあらわれることもあるため、定期的に受診することが必要である。
6. 放射線治療に関する質問例
・‟放射線治療”の方法は、治療施設の所有している装置などにより異なる場合がある。
・治療の目的や、個々の生活環境に応じた治療方法、副作用などについて、主治医や放射線腫瘍医と十分な話し合いをしていくことが大切である。
※参考として、‟放射線治療”を受ける患者とそのご家族に向けて、主治医や放射線腫瘍医への質問の例を列挙するが、全てにあてはまるものではないので、参考程度に・・・。
ⅰ ) 治療前の質問例
【治療について】
・私の‟がん”は、どのような種類で、どこまで進んでいる(病期、ステージ)のでしょうか?
・私の‟がん”に‟放射線治療”を行う目的は何でしょうか?
・‟放射線治療”には、どのような効果があるのでしょうか?
・‟放射線治療”が効く確率はどのくらいでしょうか?
・ほかの治療法はありますか?
・‟薬物療法(化学療法)”や‟手術”などの治療も必要でしょうか?
・‟薬物療法(化学療法)”や‟手術”などの治療が必要なら、どの順序になりますか?
・‟放射線治療”が終了してどれくらいで‟薬物療法(化学療法)”や‟手術”を開始できますか?
・どのような種類の放射線を、どのような方法で照射するのでしょうか?
・外部照射でしょうか?それとも内部照射でしょうか?
・‟放射線治療”は何週間受けるのでしょうか? 1 週間に何回治療を受けるのでしょうか?
・‟放射線治療”では痛みを感じたり、違和感・不快感を覚えたりするのでしょうか?
・入院は必要でしょうか?通院で治療できますか?
・‟放射線治療”の効果はいつ、どのようにして調べるのでしょうか?
・‟放射線治療”を終えて帰宅した後に、疑問や不安が生じたら、どうしたらよいでしょうか?
【副作用や日常生活について】
・考えられる副作用とその対処法はどのようなものでしょうか?
・日常生活で、どのようなことに気を付ければよいでしょうか?
・‟放射線治療”中に支援を頼めるグループはあるでしょうか?。
・ひととおりの治療にかかる費用はどれくらいでしょうか?
・経済的に苦しいときはどうしたらよいでしょうか?
・公的医療保険は使えるでしょうか?
・‟放射線治療”施設まで自動車を運転して通院してもよいでしょうか?
・‟放射線治療”が将来の妊娠に影響するのでしょうか?
・‟放射線治療”中、避妊は必要でしょうか?
・(女性の場合)授乳中だが、‟放射線治療”の影響はないでしょうか?
ⅱ ) 治療中の質問例
・‟放射線治療”中や‟放射線治療”後の数週間は痛みを感じたり、違和感・不快感を覚えたりすることがあるでしょうか?
・放射線の副作用は、どのように対処するのでしょうか?
・副作用で外見が変化するのでしょうか?
・変化する場合、元に戻るのでしょうか?戻らないのでしょうか?
・戻る場合、戻るまでどれくらいかかるのでしょうか?
・自宅にいるときに風邪や体調不良になったら、どこに相談したらいいのでしょうか?
・日常生活を続けられるのでしょうか?
・‟放射線治療”中あるいは‟放射線治療”後に特別な食事が必要でしょうか?
・運動してもよいでしょうか?
・性生活は可能のでしょうか?
・喫煙や飲酒をしてもよいでしょうか?
・治療中にビタミン剤などのサプリメントを摂取しても安全でしょうか?
ⅲ ) 治療後の質問例
・‟放射線治療”後の診察や検査はどのくらいの頻度で受けなければならないのでしょうか?
・日常生活や仕事、性生活、運動ができるようになるまで、どのくらいの時間が必要でしょうか?
・‟放射線治療”を受けたことで、生活に長期的に影響が起きる可能性はあるでしょうか?
・どのような注意が必要でしょうか?
次回へ・・・。