「真実の口」2,082 ‟がん”という病 ㉙~がんゲノム医療とがん遺伝子検査編(その1)~

前回の続き・・・。

《がんゲノム医療とがん遺伝子検査》

1⃣ がん医療における遺伝子検査

・従来の‟がん”の医療では、肺がん、大腸がん、乳がんといった‟がん”の種類別に治療や薬が選ばれていたが、近年では、‟がん”の種類だけではなく、遺伝子変異などの‟がん”の特徴に合わせて、一人一人に適した治療を行うことができるようになり、このような医療を「個別化治療」と呼ぶ。

・肺がん、大腸がん、乳がんなど一部の‟がん”では、医師が必要と判断した場合に、‟がん遺伝子検査”が行われ、 1 つまたは少数の遺伝子を調べて診断することや、検査結果をもとに薬を選ぶ治療が行われている。

ⅰ ) 個別化療法とは

・従来の‟がん”医療では、肺がん、大腸がん、乳がんといったがんの種類別に治療や薬が選ばれていたが、 2000 年代に入り、‟がん”の原因となっている分子(タンパク質)やそのもととなる遺伝子の解明が進み、このような分子や遺伝子などを標的にして‟がん”を攻撃する「分子標的薬」を使うことができるようになってきた。

・‟がん”の遺伝子情報にもとづく「個別化治療」は、主に、 1 つまたは少数の遺伝子を調べる‟がん遺伝子検査”と、多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」に基づいて行われる。

ⅱ ) がん遺伝子検査とは

標準治療

2⃣ がん遺伝子検査の実際

‟がん遺伝子検査”は、「‟がん”の診断」や「薬が効きそうか?」「副作用が出やすいか?」の判断などに役立つ。

‟がん遺伝子検査”のうち、保険診療となっているものは、全国の病院ですでに一般的に行われている。

・医師が必要と判断した場合には、生検や手術で取り出したがん組織などを用いて検査が行われる。

ⅰ ) ‟がん”の診断

・血液の‟がん”などでは、病気の診断の確定や、予後(※注 1 )の予測、分子標的薬造血幹細胞移植などの治療法の選択、治療効果の判定などのために、血液や骨髄液を用いて、‟がん遺伝子検査”を行うことがある。

(※注 1 ) 病気や治療などの医学的な経過についての見通しのことで、「予後がよい」といえば、「これから病気がよくなる可能性が高い」、「予後が悪い」といえば、「これから病気が悪くなる可能性が高い」ということになる。

・例えば、一部の血液のがん(慢性骨髄性白血病)では、病気の原因となっている特定の遺伝子( BCR-ABL 融合遺伝子)によって診断を確定し、‟薬物療法”で用いる分子標的薬を選択する。

ⅱ ) 「薬が効きそうか?」の判断

・肺がん、大腸がん、乳がん、胃がん、 GIST 、メラノーマ(悪性黒色腫)などでは、生検や手術などで取り出したがんの組織の遺伝子を検査することにより「薬が効きそうかの判断」を行う。

・調べる遺伝子の例として、 HER2 遺伝子、 BRAF 遺伝子、 RAS 遺伝子、 EGFR 遺伝子などがある。

・また、乳がんや卵巣がんでは、生まれもった遺伝子の個人差が、「薬が効きそうかの判断?」に使われることがあり、血液検査で BRCA1 遺伝子や BRCA2 遺伝子を調べる。

・検査では、使用を検討している薬に合わせた遺伝子変異を調べる診断キット(コンパニオン診断薬)を用いて、 1 回の検査で 1 つまたは少数の遺伝子の変異の有無を調べる。

・検査の結果、遺伝子変異がある場合には、それぞれの‟がん”の治療ガイドラインに基づいて、その遺伝子変異に合った薬を選んで治療が行われる。

・例えば、一部の肺がんの患者では、‟薬物療法”が必要となった場合に、診断キット A を用いて、特定の遺伝子変異( a 遺伝子変異)の有無を検査し、検査で a 遺伝子変異がある場合には、変異した分子や遺伝子などに働く「分子標的薬」のA薬の使用を検討し、変異がない場合には、ほかの治療を検討する。

【がん遺伝子検査(薬が効きそうかの判断)から治療方針決定までの流れ】
がん遺伝子検査(薬が効きそうかの判断)から治療方針決定までの流れ

ⅲ ) 「副作用が出やすいか?」の判断

・細胞障害性抗がん薬の一つであるイリノテカンを使う前に血液検査を行い、体質によって重い副作用が出る可能性がないか遺伝子検査で調べ、検査の結果によって、副作用が出やすい人は、薬の量を調節して治療を行うことがある。

・なお、イリノテカンを使用するがんは、肺がん、子宮頸がん、卵巣がん、胃がん、大腸がん、乳がん、有棘細胞がん、悪性リンパ腫、膵臓がんなどである。

3⃣ がんに関連した遺伝子検査を受けるときに気をつけたいこと

‟がん遺伝子検査”は、医師が必要と判断した場合は、保険診療で行われる。

保険診療で行われる‟がん遺伝子検査”は、がんゲノム中核拠点病院やがんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院以外の病院でも受けることができる。

ⅰ ) 保険診療で行われる遺伝子検査について

保険診療で行われる‟がん遺伝子検査”には、‟がん”の中で生じた遺伝子の異常を解析する遺伝子検査(体細胞遺伝子検査)と、体質的にがんにかかりやすいかどうかや、薬の効果や副作用等を解析する遺伝子検査(遺伝学的検査)がある。

体細胞遺伝子検査では、「‟がん”の組織」や「血液/骨髄液」を用い、遺伝学的検査では、「血液(正常組織)」を用いる。

・いずれの検査も、医師が必要と判断した場合に、保険診療として行われる。

ⅱ ) 市販の遺伝子検査について

・‟がん”や生活習慣病のかかりやすさに関連した遺伝子検査が可能であるとして、簡易な遺伝子検査(いわゆる DTC : Direct-to-Consumer )が市販されているが、市販の遺伝子検査の多くは、遺伝を専門とする医師の判断がなされず、検査結果やその解釈、推奨される対策などの信頼性に欠けるものもある。

・市販の遺伝子検査を受ける場合には、信頼できる医療機関か、対面で遺伝カウンセリングが行われるかなどについて慎重な確認が必要である。

遺伝子検査の結果、遺伝性腫瘍の可能性が見つかる場合もあり、その際には専門家のサポートが必要になる。

・そのため、遺伝性のがんに関連した遺伝子検査を希望する場合、遺伝の専門家(臨床遺伝専門医、遺伝性腫瘍専門医、認定遺伝カウンセラー、遺伝専門看護師等)に相談することが望ましい。

ⅲ ) インターネットの情報について

・インターネット上には信頼できる情報もある一方で、効果が科学的に証明されていない自由診療で行われる治療や医療に関する情報もある。

・インターネット上の遺伝子検査の情報には、信頼性に欠けるもの、心配や不安をあおるもの、自由診療を行っている施設の広告なども含まれるため、慎重な確認が必要である。

・数ある情報に迷った時には、ひとりで悩まずがん診療連携拠点病院などに設置されているがん相談支援センターにご相談する方が良い。

次回へ・・・。