「真実の口」2049 マダニ感染症、過去最悪のペースで増加【後編】

前回の続き・・・。

患者数増加の背景には、地球温暖化でマダニを運ぶ鹿やイノシシの分布拡大が指摘されており、野生動物が活発化するこれからの季節は一層の警戒が必要だとされている。

国立感染症研究所の集計によると、日本紅斑熱が 144 人、重症熱性血小板減少症候群( SFTS )が 83 人と双方で全体の 9 割を占めている。

一方、ライム病 6 人、回帰熱 10 人となっている。

都道府県別の患者数は、日本紅斑熱の最多が広島の 30 人で、三重 17 人、熊本 10 人、和歌山 9 人と続く。

熱重症性血小板減少症候群( SFTS )は、山口・宮崎が各 10 人、長崎 9 人、高知・大分各 7 人などいずれも西日本に集中している

一方、ライム病と回帰熱は北海道が最も多く、それぞれ 3 人、 10 人と全国の大半を占めている。

国立感染症研究所が 6 種の記録を始めた 2013 年以降、患者数は右肩上がりである。

2021 年には過去最多の 633 人、2022 年には 617 人で、約 10 年で倍増している。

日本紅斑熱と熱重症性血小板減少症候群( SFTS )の患者の増加は顕著で、患者数全体を押し上げている。

ライム病と回帰熱は年間 10 ~ 20 人台で推移。

ダニ媒介脳炎は 2018 年以降は確認されていない。

また、野兎を起因とする野兎(やと)病は 2015 年以降、患者は確認されていない。

その一方で、近年、マダニ媒介の新しい感染症も出現している。

‟エゾウィルス”は、 2014 年から 2020 年までに、少なくとも 7 名の感染者が北海道内で発生している。

いずれも、マダニに刺された数日から約 2 週間後に発熱や筋肉痛などを訴えていたが、これまでのところ、エゾウィルス感染症による死者は確認されていない。

道内で採集されたマダニからウィルス遺伝子が検出され、また、エゾシカなどの野生動物からウィルスタンパク質に対する抗体が検出されたことから、エゾウィルスは北海道内に定着していると考えられる。

また、 2022 年には‟オズウィルス”に感染した女性の死亡が確認されている。

2022 年初夏、高血圧症・脂質異常症を基礎疾患にもち、海外渡航歴のない茨城県在住の 70 代女性に倦怠感、食欲低下、嘔吐、関節痛が出現し、 39℃ の発熱が確認された。

時期も時期であり、新型コロナウィルスの PCR ・抗原検査を行ったが、陰性であった。

肺炎の疑いで抗生剤を処方されて在宅で経過を観察していたが、症状が増悪し体動困難となったため再度受診しその後、紹介転院となった。

来院時、意識は清明で血圧 121/80mmHg 、脈拍数 105bpm 、体温 38.3℃ 、呼吸数 22/min 、 SpO2 94% であり、身体所見としては右鼠径部に皮下出血が認められたが皮疹はみられなかった。

血液検査では、血小板減少( 6.6万/µL )、肝障害、腎障害、炎症反応高値( CRP 22.82mg/dL )、 CK 高値( 2,049U/L 、 CK-MB 14IU/L )、 LDH 高値( 671U/L )、フェリチン高値( 10,729ng/mL )があったが、単純 CT では熱源を示唆する明らかな異常は認められなかった。

また、入院時、右鼠径部に飽血に近い状態のマダニの咬着が確認されたため、重症熱性血小板減少症候群( SFTS )を含む節足動物媒介感染症も疑われ、入院後に実施された検査ではリケッチア感染症・ SFTS は否定され、血液培養は陰性であった。

入院後、房室ブロックが認められペースメーカーを留置した。

各種検査では心筋炎が疑われた。その後約 10 日で脈拍が安定したためペースメーカーは抜去した。

入院 20 日目には意識障害が出現し、多発脳梗塞が確認されたため抗凝固療法を開始した。

発熱が持続していたが、胸腹部骨盤造影 CT では明らかな熱源となり得る病巣や臓器腫大は指摘し得なかった。

治療継続中の入院 26 日目、突如心室細動が生じて死亡し、病理解剖が行われた。

入院時に採取された全血、血清および尿に対し、茨城県衛生研究所において実施した次世代シーケンサー( NGS )によるメタゲノム解析と MePIC v2.0 を用いた検索で、すべての検体からオズウィルス( OZV )の遺伝子断片が検出された。

2018 年に国内のマダニから初めて分離・同定されたオルソミクソウィルス科トゴトウィルス属に属するオズウィルス( ozv )による感染症と診断されたこ初めての症例となった。

更に、患者が確認されていないマダニ感染症は、まだ、 10 種以上あるという。

マダニには有効なワクチンはないので、自身で注意するしかない!

特に、マダニの活動が盛んな春から秋にかけては、マダニに刺される危険性が高まってくる。

草むらや藪など、マダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖・長ズボンで、更に、シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる、または登山用スパッツを着用し、足を完全に覆う靴(サンダル等は避ける)、帽子、手袋を着用し、首にタオルを巻く等、肌の露出を少なくすることが大事である。

服は、明るい色のもの(マダニを目視で確認しやすい)がお薦めらしい。

虫除け剤の中には服の上から用いるタイプがあり、補助的な効果があると言われているが・・・???

また、屋外活動後は入浴し、マダニに刺されていないか確認することが大事だ。

特に、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏、胸の下、頭部(髪の毛の中)などがポイントである。

厚生労働省のマダニ啓発ポスターとリーフレットを紹介しよう!

【 2018 年版マダニ啓発ポスター・厚生労働省】
マダニ啓発ポスター(2018)

【 2019 年版マダニ啓発ポスター・厚生労働省】
マダニ啓発ポスター(2019)

【リーフレット・厚生労働省】

マダニ啓発リーフレット

新型コロナも第 9 波に入ってきているようだ。

熱や倦怠感等という似た症状で運ばれ、あらたなマダニウィルスの場合は治療の有効手段が見つかることは稀である。

自身で注意を怠ることなく夏を乗り切ろう!