「真実の口」2048 マダニ感染症、過去最悪のペースで増加【前編】

国立感染症研究所が都道府県の患者数を 1 週単位で記録する「感染症発生動向調査」を基に集計したところ、マダニ媒介感染症が、 26 週目に当たる 7 月 2 日時点で 243 人に達し、過去最悪ペースで増加していることがわかった。

マダニ感染症は、感染症法で「 4 類」に分類され、医師に診断の報告が義務付けられている。

マダニ感染症推移

上のグラフのオレンジ部分が 26 週目になたるのだが、既に、過去最高だった 21 年の 239 人を上回っている。

そもそも、ダニ媒介感染症とは、病原体を保有するダニに刺されることによって起こる感染症のことであり、人が野外作業や農作業、レジャー等で、これらのダニの生息場所に立ち入ることにより、ダニに刺され、ダニがウィルスや細菌などを保有している場合、刺された人が病気を発症することをいう。

主なダニ媒介感染症としては、 6 つの感染症がある。

【クリミア・コンゴ出血熱】

クリミア・コンゴ出血熱ウィルスによる出血熱を特徴とする感染症である。

このウィルスは、哺乳動物とマダニの間で維持されるが、ヒトはウィルスを有するマダニに刺されたり、ヒツジなどの家畜を解体する作業中に血液に触れたりした場合に感染する。

患者の体液との直接的接触でも感染することがある。

特異的な治療法はなく、死亡率の高い感染症で、特に、中央アジアや中東では毎年患者が発生している。

最近ではインドやパキスタンでも患者が報告されており、 2016 年にはスペインにおいて初めて患者が報告された。

日本では、最新では、 2017 年(平成 29 年)に報告されてている。

クリミア・コンゴ出血熱に係る注意喚起について(事務連絡)

【回帰熱】

回帰熱には、シラミによって媒介されるものと、マダニによって媒介されるもの 2 つのタイプがある。

シラミ媒介性の回帰熱は、主に、戦争や飢饉等によって、衛生環境が悪化した際に見られる感染症で、世界でも限られた地域でのみ流行している。

一方、マダニ媒介性の回帰熱は、世界の多くの地域で発生が見られる。

ボレリア属の細菌「ボレリア・ミヤモトイ( Borrelia miyamotoi )」を保有するマダニ類に刺されることにより、細菌が体内に侵入することにより感染し、日本では、2013 年(平成 25 年)に北海道で 2 例報告されている。

ボレリア・ミヤモトイによる回帰熱の国内症例の確認及びライム病を含むボレリア感染症の病原体診断検査について(情報提供及び協力依頼)

その他は、海外で感染し、帰国後に発症した数例のみである。

ただし、ヒトからヒトには感染せず、動物から直接感染することもない。

感染すると、主に、発熱や頭痛、筋肉痛など風邪のような症状が出る。

【重症熱性血小板減少症候群( SFTS )】

ブニヤウィルス科フレボウィルス属の重症熱性血小板減少症候群( Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome :SFTS)ウィルスをするマダニに刺咬されることで感染する。

潜伏期間は、 6 ~ 14 日で、症状は、発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)、ときに、腹痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状などを伴う。

血液所見では、血小板減少( 10万/㎣ 未満)、白血球減少( 4,000/㎣ 未満)、血清酵素( AST 、 ALT 、 LDH )の上昇が認められ、致死率は 10 ~ 30% 程度である。

治療法は、対症療法しかない。

日本では、最新では、 2021 年(令和 3 年)に報告されている。

重症熱性血小板減少症候群( SFTS )の国内での発生状況について (別添)

【ダニ媒介脳炎】

フラビウィルス科フラビウィルス属に分類されるダニ媒介脳炎ウィルスを介する感染症である。

ヒトへの感染は、主にマダニの刺咬によるが、ヤギの生乳の飲用によることもある。

潜伏期間は、 7 ~ 14 日で、症状は各型によって違うそうだ。

ヨーロッパ亜型による感染では、そのほとんどが二相性の経過をたどり、第一相では発熱、頭痛、眼窩痛、全身の関節痛や筋肉痛が 1 週間程度続き、解熱後 2 ~ 7 日間は症状が消え、その後第二相には、痙攣、眩暈、知覚異常、麻痺などの中枢神経系症状を呈し、致死率は 1 ~ 2% 、回復しても神経学的後遺症が 10 ~ 20% にみられるといわれている。

極東亜型による感染では、ヨーロッパ亜型のような二相性の病状は呈せず、徐々に発症し、頭痛、発熱、悪心、嘔吐が見られ、さらに悪化すると精神錯乱、昏睡、痙攣および麻痺などの脳炎症状が出現することもあり、致死率は 20% 以上、生残者の 30 ~ 40% に神経学的後遺症がみられるといわれている。

シベリア亜型に感染した場合も徐々に発症するが、その経過は極東亜型と比較して軽度であり、脳炎を発症しても麻痺を呈することはまれで、致死率は 6 ~ 8% を超えることはないと報告されている。

しかしながらシベリア亜型と進行型慢性ダニ媒介脳炎との関連が示唆されており、進行性慢性ダニ媒介脳炎では 1 年を超える長期の潜伏期間あるいは臨床経過を辿るそうだ。

治療法は、対症療法しかない。

日本では、最新では、 2018 年(平成 30 年)に報告されている。
ダニ媒介感染症に係る注意喚起について

【つつが虫病】

つつが虫病リケッチアを保有するツツガムシに刺咬されて感染する。

潜伏期は、 5 ~ 14 日で、症状は、全身倦怠感、食欲不振とともに頭痛、悪寒、発熱などを伴って発症し、体温は段階的に上昇し数日で 40℃ にも達する。

刺し口は皮膚の柔らかい隠れた部分に多い。

刺し口の所属リンパ節は発熱する前頃から次第に腫脹する。

第 3 ~ 4 病日より不定型の発疹が出現するが、発疹は顔面、体幹に多く四肢には少ない。

テトラサイクリン系の有効な抗菌薬による治療が適切に行われると劇的に症状の改善がみられる。

重症になると肺炎や脳炎症状を来す。北海道を除く全国で発生がみられる。

治療法は、テトラサイクリン系の有効な抗菌薬を投与。

【日本紅斑熱】

リケッチアの一種、リケッチア・ジャポニカを保有するダニに刺咬されることで感染する。

潜伏期間は、 2 ~ 8 日で、症状は、頭痛、発熱、倦怠感を伴い、発熱、発疹、刺し口が主要三徴候であり、ほとんどの症例にみられる。

つつが虫病との臨床的な鑑別は困難である。

ただし、詳細に観察すると、発疹が体幹部より四肢末端部に比較的強く出現するのに対しつつが虫病では主に体幹部にみられる。

また、つつが虫病に比べ、刺し口の中心の痂皮(かさぶた)部分が小さい。

治療法は、早期に疑い適切な抗菌薬を投与することが極めて重要であり、第一選択薬はテトラサイクリン系の抗菌薬で、 β ラクタム系の抗菌薬は全く効果がない。

上記 6 種の感染症を挙げたが、日本では、何が流行しているのだろうか?

次回へ・・・。