「真実の口」2047 鳥インフルエンザ トリ→ヒト感染、WHO が警告

世界保健機関( WHO )は 12 日、鳥インフルエンザについて、哺乳類への感染が最近急増していることで、ヒトに感染しやすく適応する恐れがあると警告した。

WHO は「鳥インフルエンザウィルスは通常、鳥類の間で感染が拡大するが、鳥類よりも生物学的にヒトに近い哺乳類の間で H5N1 の報告数が増加しており、ヒトに感染しやすく適応する可能性が懸念される。一部の哺乳類が(異なる株の)インフルエンザウィルス同士の混合器として機能し、動物やヒトにとってより危険な新型ウィルスの出現につながる可能性がある」とした。

鳥インフルエンザ( Avian influenza, Avian flu, Bird flu )とは、 A 型インフルエンザウィルスが鳥類に感染して起きる鳥類の感染症である。

水禽類(水鳥)の腸管で増殖し、鳥間では、水中の糞を媒介に感染する。

水禽類では、感染しても宿主は発症しない。

ウィルスの中には、家禽類のニワトリ、ウズラ、七面鳥などに感染すると非常に高い病原性をもたらすものがある。

このようなタイプを高病原性鳥インフルエンザ( HPAI )と呼び、世界中の養鶏産業にとって脅威となっている。

ウィルスの病原性は、国際獣疫事務局( OIE )の定める判定基準に従って判定される。

家畜伝染病予防法では、家禽に感染する A 型インフルエンザウィルスのうち、 HA 亜型に関わらず病原性の高い株による感染症を高病原性鳥インフルエンザ( HPAI )、病原性は低いが H5 もしくは H7 亜型である株による感染症を低病原性鳥インフルエンザ( LPAI )としてそれぞれ法定伝染病に、 H5 および H7 亜型以外の亜型で低病原性のものを鳥インフルエンザとして届出伝染病に指定して区別されている。

鳥インフルエンザとは、読んで字のごとく「鳥のインフルエンザ」であり、ヒトが感染するインフルエンザとは別物である。

ヒトのインフルエンザの原因となるヒトインフルエンザウィルスと、鳥インフルエンザの原因となる鳥インフルエンザウィルスは、感染対象となる動物(宿主)が異なるため、一般的には鳥インフルエンザウィルスがヒトに直接感染する能力は低く、また感染してもヒトからヒトへの伝染は起こりにくいと考えられていた。

しかし、近年、大量のウィルスとの接触や、宿主の体質などによってヒトに感染するケースも報告されており、 H5N1 亜型ウィルスや H7N9 亜型ウィルスなどでは家禽と接触した人間への感染、発病も報告されている。

ただし、これまでの感染者は、ヒト型とトリ型のインフルエンザウィルスに対するレセプターを有していた。

2021 年後半以来、欧州は過去最悪の鳥インフルエンザの流行に見舞われ、北米と南米でも深刻な流行が起きている。

多くは 1996 年に初めて確認された鳥インフルエンザ A ( H5N1 )ウィルスによるものである。

今年に入り、南米・エクアドルでは、 1 月 10 日、鳥インフルエンザウィルス A ( H5 )型のヒトへの感染が、初めて確認されたことを同国保険局が発表した。

感染したのはボリバル( Bolivar )州の 9 歳の少女で、感染した鳥と直接接触したことにより感染したと推定されている。

同じく南米・チリ共和国では、 3 月 29 日、アントファガスタ( Antofagasta )州で鳥インフルエンザ A ( H5 )ウィルスのヒト感染を同国保健省が WHO に報告した。

感染したのは 53 歳の男性で、合計 12 人の接触者(濃厚接触者と医療従事者)が確認されたが、全員がインフルエンザ検査で陰性となり、健康観察期間を終了した。

カンボジアでは、 2 月 24 日、 11 歳の少女が H5N1 型の鳥インフルエンザウィルスに感染して死亡し、父親も陽性と判明したこと同国保健省が発表した。

少女は、 16 日に発熱、せき、喉の痛みなどの症状を示し、 22 日に死亡し、当局は、少女と接触した 12 人から検体を採取し、 24 日に 49 歳の父親が陽性と判明したが無症状だと発表した。

中国でも、 4 月 26 日、中部河南( Henan )省に住む 4 歳の男児が、 H3N8 型の鳥インフルエンザに感染したこと同国国家衛生健康委員会( NHC )が発表した。

男児は、 4 月初めに熱などの症状で入院し、自宅ではニワトリを飼育しており、周辺にはカモが生息していたが、鳥から直接感染したという。

世界的には、 2003 年以降、 A ( H5N1 )ウィルスによるヒト感染 873 件、うち死亡 458 件( 致命率: CFR52% )が WHO に報告されている。

さらに、インフルエンザ A ( H5 )ウィルスによるヒト感染 3 件、 A ( H5N6 )ウィルスによるヒト感染 84 件、 A ( H5N8 )ウィルスによるヒト感染 7 件が、 WHO に報告されている。

更に、脅威なのは、ブタである。

ブタは鳥・ヒトインフルエンザウィルスの両方に感染するため、交雑宿主となって遺伝子再集合する可能性がある。

そして、新たなウィルスを排出する可能性があることも想定されている。

ブタの間では、様々な遺伝的背景を持つ A ( H1N1 )、 A ( H1N2 )、 A ( H3N2 )ウィルスが循環し、散発的なヒト感染も確認されている。

北米大陸では 1990 年代後半から、ブタの間で循環していた classical-swine 系統の A ( H1N1 )ウィルスが鳥・ヒトインフルエンザウィルスと遺伝子再集合した 3 重再集合体( triple reassortant )ウィルスと総称される A ( H1N1 )、 A ( H1N2 )、 A ( H3N2 )ウィルスが循環していた。

2009 年にパンデミックを引き起こした A ( H1N1 ) pdm09 ウィルスは、 3 重再集合体( triple reassortant )ウィルスとユーラシア大陸のブタで流行していた Eurasian avian-like swine 系統の A ( H1N1 )ウィルスとの遺伝子再集合により出現したウィルスである。

その後、 A ( H1N1 ) pdm09 ウィルスは、ブタに再侵入し、パンデミック以前から流行していたブタインフルエンザウィルスとの間で遺伝子再集合が世界各地で起こっており、ブタインフルエンザウィルスの遺伝的背景は複雑化しているというから更に脅威が高まる。

アメリカでは、農業フェアでのブタとの接触等により、 2010 年 9 月以降、 A ( H1N1 ) v が 18 例、 A ( H1N2 ) v (※注)が 30 例、 A ( H3N2 ) v が 434 例、ヒトへの感染が報告されている(2022年3月29日現在)。

(※注) ヒト感染したブタインフルエンザウィルスは “ variant ( v ) virus ”と総称される。

2020 年 9 月以降、アメリカでは A ( H1N1 ) v ウィルスが 8 例、 A ( H1N2 ) v ウィルスが 6 例、 A ( H3N2 ) v ウィルスが 3 例、 A ( H1 ) v ( NA 亜型不明)ウィルスが 1 例、カナダでは、 A ( H1N1 ) v ウィルスが 1 例、 A ( H1N2 ) v ウィルスが 2 例、 A ( H3N2 ) v ウィルスが 1 例、また、北米大陸以外では、 A ( H1N1 ) v ウィルスがデンマーク、オランダで各 2 例、中国で 5 例、A ( H1N2 ) v ウィルスが、オーストリア、フランス、台湾でそれぞれ各 1 例、 A ( H3N2 ) v ウィルスがオーストラリアで 1 例のヒト感染が確認されている(2022年3月1日現在)。

日本では、 1970 年代後半から classical-swine 系統の A ( H1N1 )ウィルスがブタの間で循環しはじめ、その後ヒト A ( H3N2 )ウィルスと遺伝子再集合した A ( H1N2 )ウィルスも出現し、 2009 年以降は A ( H1N1 ) pdm09 ウィルスとの遺伝子再集合した A ( H1N2 )ウィルスや A ( H3N2 )ウィルスが流行している。

日本でヒト感染の報告はまだないが、引き続きブタインフルエンザウィルスの発生状況を注視していく必要もある。

コロナ後の、新たな脅威にならなければ良いと願うばかりである。