「真実の口」2,128 伊豆諸島・鳥島近海の津波の謎②

前回、昨年 10 月に発生した伊豆諸島・鳥島近海の謎の津波について寄稿したが、その後、東京大学などは調査を続行していた。

10 月 9 日、伊豆諸島・鳥島近海が発生域と見られる津波(鳥島近海津波)が、伊豆・小笠原諸島と関東から沖縄にかけての広範囲の沿岸部に押し寄せ、波高数 10cm の津波が各地で観測された。

このとき、津波を引き起こすような規模の大きい地震は起こっていなかったため、地震観測に基づく既存の津波警報システム(※注 1 )では対応できず、津波が八丈島に到達した後の津波注意報発令となった。

(※注 1 ) 日本では、気象庁が津波警報システムを運用しており、津波警報や津波の発生は主に地震による海底の地殻変動に起因し、津波を予測するためには、まず地震の位置と規模を最初に特定し、その後、特定された地震の情報を元に、あらかじめ計算された津波予報データベースから津波の高さや到達時刻を検索し、その結果を元に津波警報や津波注意報が発表される。

こうした特異な津波を予測するためには、その発生過程を明らかにする必要がある。

昨年 10 月近辺の鳥島近海の地震履歴

鳥島近海の地震履歴

昨年 10 月近辺の伊豆大島近海の地震履歴

伊豆諸島地震履歴

東京大学 地震研究所・三反畑修助教、佐竹健治教授、武村俊介助教、綿田辰吾准教授、弘前大学大学院 理工学研究科・前田拓人教授、国立研究開発法人防災科学技術研究所・久保田達矢主任研究員の共同研究チームは、防災科学技術研究所が運用する、紀伊半島から四国の沖合に設置された海底地震・津波観測網( DONET)(※注 1 )で観測された津波と地震波の波形記録の解析を行った。

(※注 1 ) 南海トラフでの地震や津波の観測を目的とした観測網で、国立研究開発法人 海洋研究開発機構によって開発され、 2016 年 4 月に国立研究開発法人 防災科学技術研究所に移管されたこのシステムは、南海トラフ海域の四国と紀伊水道沖に 51 ヶ所の観測点を有し、様々なセンサー(強震計、広帯域地震計、水圧計、ハイドロフォン、微差圧計、温度計)を使用し、地殻変動から地震動や津波まで、様々な信号を捉えることが可能です。

その結果、 10 月 9 日の午前 4 時 53 分頃 ~ 6 時 26 分までの約一時間半の間に、合計 14 回の津波が立て続けに発生していたことを明らかになった。

さらに、 6 時 00 分以降に発生した比較的大きな波高を持った複数回の津波については、津波発生の繰り返し間隔と津波の周期がともに数分程度と近かったため、津波の山と谷が多重に重なり合って津波の波高が二倍ほどに増幅していたことが分かった。

また、推定された 14 回の津波は、鳥島の南方約 70 kmに位置する海底火山・孀婦(そうふ)岩の周辺で繰り返していた M4 ~ 5 の中規模地震とほぼ同時に発生していたことが分かった。

津波発生領域鳥島近海で発生した特異な津波

10 月下旬には、鳥島から孀婦岩にかけた周辺海域に浮遊軽石が発見されており、繰り返し発生した地震・津波現象と、海底火山活動との密接な関連が示唆されている。

本研究では、津波を発生させる海底変動現象が数時間のうちに十回以上も頻発し、小規模な津波の重ね合わせによって津波波高が増幅するという稀有な現象を、世界で初めて観測・立証したことになるそうだ。

また、これらの複数回の津波がいずれも中規模地震と同時に発生していたことを明らかにし、今回の鳥島近海津波の原因となった未知なる海底変動現象のメカニズム解明に向けた研究を進展させ、将来的な津波警報システムの精度向上に役に立つことが期待されている。

鳥島近海の“謎の津波”わずか1時間半で14回津波発生

中規模地震が発生した時刻( ×印つき灰色破線)に発生した 14 の津波波形(黒線 1 〜 14 )の重ね合わせによって得られた津波波形(青線)が、実際に観測された波形(赤線)を高精度に再現されている。

特に、後半の津波(黒線 9 〜 14 )は、各津波波形の山と谷のタイミングがそれぞれほぼ一致したため、重ね合わさった津波の波高は、個々の波高の二倍程度に増幅したことがわかる。

なお、横軸は DONET における津波の観測時刻、縦軸は津波の振幅(各波形のゼロをずらして表示)を示している。

能登半島地震の地滑りによる津波、マグマの体積膨張による津波、それが折り重なる津波、etc・・・。

南海トラフ地震が起きたときにはどんな被害が起きるのだろうか?