「真実の口」2,337 Coffee Brake 41 The Day – やがて、伝説と呼ばれる日 – Vol.3

前回の続き・・・。

“Monster” 井上尚弥 vs “Big Bang” 中谷潤人

この世紀の一戦が俄かに注目を浴びだしたのは、 2024 年 4 月 24 日、ボクシングの米専門メディア「リング」がパウンド・フォー・パウンド( PFP 、全階級最強)ランキングを更新し、当時 WBC バンタム級王者の中谷が 10 位にランキング入りされてからである。

中谷選手の紹介の中でも触れたが、 2023 年 5 月に米ラスベガスでの WBO スーパーフライ級王座決定戦で世界中のメディアから年間最高 KO 賞に選出される衝撃的な KO でアンドリュー・モロニー(オーストラリア)を倒して世界 2 階級を制覇し、24 年 2 月には WBC バンタム級王者アレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)を圧倒する 6 回 KO 勝利で世界 3 階級制覇を達成したことが評価されての PFP 入りである。

メディアやファンの間でも世紀の一戦への期待が高まる。

「井上に勝つのは中谷しかいない。」

「中谷が体格差で有利では?」

「階級を上げるたびに強くなる中谷なら井上に勝てるのでは?」

「井上はネリにダウンを奪われているが、中谷の一撃だと立てないのでは?」

2024 年 7 月 20 日、東京・両国国技館にて、 WBC 世界バンタム級王者・中谷は WBC 同級 1 位のビンセント・アストロラビオ(フィリピン)を 1R 2 分 37 秒ボディへの左ストレート一発でキャンバスに沈めて初防衛に成功した。

アストロラビオ戦の少し前、「ザ・リング」は「 5 年後、 2029 年の PFPランキング予想」という記事を掲載している。

中谷は日本人ボクサーとして唯一ランク入りし、驚異の身体能力と技術を兼ね備え、圧倒的なKO率を誇るジャロン・エニス(当時 27 歳。 IBF 世界ウェルター級王者。戦績 33 戦 32 勝 29KO 1 無効試合)、高い技術力とボクシング IQ の持ち主のジェシー・ロドリゲス(当時 24 歳。 WBC 世界スーパーフライ級王者。戦績 20 戦 20 勝 13KO 無敗)に次ぐ 3 位という高評価を受けていた。

記事には、 5 年後に 31 歳になる中谷はフライ級からフェザー級までの 5 階級制覇を達成した後、井上尚弥と対戦してプロ初黒星を喫するが、その後 4 団体統一を果たす、という架空の物語まで綴られていた(笑)。

これについて中谷選手に聞くと、「(井上尚弥選手に)勝手に負けにされている所は気に食わないですけど……。そういうプランではないので」と笑いながら答えている。

中谷選手自身は 5 年後にランキング 3 位ではなく、あくまで全階級を通じて誰もが最強のプロボクサーと認める PFP 1 位を目指していることだけは、取材で誰にどんな形で質問されても明言している。

2024 年 10 月 14 日、中谷は、ペッチ・CPフレッシュマート(タイ)に衝撃的な 6R 2 分 37 秒 TKO 勝ちで 2 度目の防衛に成功し、「ザ・リング」のパウンド・フォー・パウンド( PFP )では、 2 位の井上に次ぐ 9 位にランキングされた。

このとき井上選手は中谷選手のことに触れている。

「 PFP 1 位になりたい若者がいる。その若者が上がってくるのを待つしかないのかな?これだけボクシングファンが言うなら(自分で)もう口に出してもいいのかな。(中谷が) 1 位を目指したいというのは、もうそういうこと(自分と対戦したいということ)じゃないですか。バンタム級で 1 位を目指したいのか、どこ(の階級)で 1 位を目指したいのかわからないですけどね。( 14 日の試合は)やっぱり強いなと思いました。だからこそ、自分も興味がある。」

そして、年が変わり 2025 年 3 月 31 日に、 2024 年の年間優秀選手表彰式が、東京ドームホテルで盛大に開催された。

◆ 2024 年の表彰選手

最優秀選手賞:井上尚弥(大橋)
技能賞:中谷潤人( MT )
殊勲賞:堤聖也(角海老宝石)
KO賞:中谷潤人( MT )
努力・敢闘賞:那須川天心(帝拳)
新鋭賞:増田陸(帝拳)
年間最高試合(世界戦):井上尚弥 vs ルイス・ネリ
年間最高試合(世界戦以外):村田昴 vs 山崎海斗
女子最優秀選手賞:晝田瑞希(三迫)
女子年間最高試合:晝田瑞希 vs 朴智賢

物語が動き出す・・・。

MVP 受賞スピーチの中で井上選手が、突然(笑)、「今年は 5 月、 9 月、 12 月と激戦が続いていく予定です。ファンの方々、関係者の方々皆さんから多く声が上がっている国内ビッグマッチに向けてベストを尽くしたい。」と語り、後方を振り返り「そこで中谷君、 1 年後ここ東京ドームで日本ボクシング界を盛り上げましょう。」と語りかけてマイクを中谷選手に手渡した。

中谷選手もこれに応えて「ぜひ、やりましょう。」

驚きに包まれる中で二人は握手をかわした。

今寄稿 Vol.1 及び Vol.2 でお伝えしたように二人は、25 年の試合で白星を重ねる。

井上選手の 2025 年の戦績

【全試合 WBA ・ WBC ・ IBF ・ WBO 世界スーパーバンタム級王座統一戦】
1 月 24 日 キム・イェジュン(韓国) 4R 2:25 KO 勝利 WBA 防衛 3 ・ WBC 防衛 4 ・ IBF 防衛 3 ・ WBO 防衛 4
5 月 4 日 ラモン・カルデナス(アメリカ) 8R 0:45 TKO 勝利 WBA 防衛 4 ・ WBC 防衛 5 ・ IBF 防衛 4 ・ WBO 防衛 5
9 月 14 日 ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン) 12R 判定勝利 WBA 防衛 5 ・ WBC 防衛 6 ・ IBF 防衛 5 ・ WBO 防衛 6
12 月 27 日 アラン・ピカソ(メキシコ) 12R 判定勝利 WBA 防衛 6・ WBC 防衛 7 ・ IBF 防衛 6 ・ WBO 防衛 7

中谷選手の 2025 年の戦績

【 WBC 世界バンタム級タイトルマッチ】
2 月 24 日 デビッド・クエジャル(メキシコ) 3R 3:04 KO 勝利 WBC 防衛 3
【 WBC ・ IBF 世界バンタム級王座統一戦】
6 月 8 日 西田凌佑(六島) 6R 終了 TKO 勝利 IBF 世界バンタム級王座獲得・ WBC 防衛 4
【スーパーバンタム級 12 回戦】
12 月 27 日 セバスチャン・エルナンデス(メキシコ) 12R 判定勝利

因みに、井上選手の年間 4 試合のタイトルマッチは異常である(笑)

9 月 14 日、ムロジョン・アフマダリエフ戦に大差判定勝利を収めた井上選手だが、判定勝利も、ノニト・ドネア第一戦で右目眼窩底と鼻を骨折しながらも判定勝利を収めた 2019 年 11 月 7 日以来、 6 年ぶりのことである。

井上選手は試合後ロープに上りファンに語り掛ける。

「アウトボクシングでもいけるでしょ!」

「誰が衰えたって?」

「誰が衰えたって?」

若干、滑っていたのだが・・・(笑)

この言葉にも伏線がある。

遡ること、 4 ケ月。

“世紀の一戦”に向けて「ザ・リング」のインタビューに応じた WBC 世界バンタム級王者の中谷選手のトレーナーを務めるルディ・エルナンデス氏が以下のように発言したのである。

「井上とは今すぐにでも戦いたい。より若くて強い井上と戦いたい。来年まで待つと『井上が年を取った』と言い訳されると思う。彼がまだ全盛期のうちに倒すことに意味があります。」

この発言を受けて、井上選手は X で「おいおい!!!ルディさん!!!」と題して投稿。

「 1 年後も全盛期だ。言い訳なんかしない。誰も衰えちゃいないから。まだまだ上の景色を見に行く。」と反論している。

勝者インタビューの終わり際には、この試合を観戦し、会場の出口へ向かいかけていた中谷選手に「中谷君!あと 1 勝! 12 月、お互い頑張って来年、東京ドームで」と語りかける。

これに対し、中谷選手も両手を上げて応じた。

ちょっと面白い分析をしているサイトを見つけたので紹介する。

井上尚弥は衰えたのか?AIで徹底分析してみた|坪田信貴

井上尚弥は衰えたのか?AIで徹底分析してみた

『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』略称「ビリギャル」の作者・坪田信貴氏のサイトである。

1. 分析の方法:AIに動画を「観てもらう」

使ったのは Google Gemini で、 AI に以下の動画を順番に読み込ませる。

2019 年 5 月 18 日 井上 vs ロドリゲス戦(バンタム級時代)

2025 年 12 月 17 日 井上 vs ピカソ戦(スーパーバンタム級・直近の試合)

2023 年 5 月 20 日 中谷 vs モロニー戦(スーパーフライ級時代)

2025 年 12 月 27 日 中谷 vs エルナンデス戦(スーパーバンタム級転向初戦)

2. 以下のように指示を出す。

「専門家の評価はどうでもいい。動画の中の動きから、コマ送り・動作解析の視点で、過去と現在を比較して欲しい。」

【 結果 1 】井上尚弥のオフェンスは速度は維持、無駄は削ぎ落とされた

analysis1

数値そのものは、ほぼ変わっていない。

階級を上げて、肉体は明らかに筋肉質になり、体重も増えているにもかかわらず、ハンドスピードの絶対値は維持されている。

AI はこう分析している。

「予備動作がより削ぎ落とされたことで、相手が反応し始めるまでの猶予を奪っている」

つまり、“速度は同じ”だが相手にとっての“体感速度は上がっている”という状態らしい。

【 結果 2 】井上尚弥のディフェンスはむしろ「進化」している

analysis2

0.01 秒ほどであるが反応速度が上がっている。

以前は足で大きく動いて避けていたものが、現在は「ポケットの中」と呼ばれる至近距離で、頭の位置だけをわずかにずらすスタイルへと進化している。

足で避ける場合、自分の体全体を移動させるので、回避には時間がかかるけれど「外す」のは比較的安全である。

一方、頭だけをずらす回避は、数 cm 動かすタイミングを間違えれば、そのまま被弾するので判断ミスが許されない。

つまり井上選手は、「より危険なスタイルに切り替えながら、なお反応速度を上げている。」ようだ。

【 結論 】井上尚弥は衰えていない

「ハンドスピードは維持、ディフェンスの反応速度はむしろ現在の方が鋭い」

坪田氏はおまけで中谷選手との比較もしているが、世紀の一戦の解説前には見ない方が良いと思うので、後で紹介する。

そして、やがて、伝説と呼ばれる日

次回へ・・・。